データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ホーク豪首相の訪日に際しての日豪プレス・ステートメント

[場所] 
[年月日] 1984年2月1日
[出典] 外交青書28号,472−474頁.
[備考] 
[全文]

1.日豪両国の関係は両国にとり極めて重要である。両国の暖かい関係は,両国が自由と民主主義という共通の理念を分ち合い,多くの分野における幅広い協力を行っていくことを反映するものである。

 21世紀を展望するにアジア・太平洋地域が引続き世界で最も急速かつダイナミックな経済発展を遂げて行くことは明らかである。両国は,この地域の平和,安定及び繁栄を確保するため,域内諸国との協力関係の一層の強化に努める。日豪両国は,共にこの地域の発展に多大の貢献をなすことが可能である。

2.今日の国際社会における最も緊急な課題は,安定的な東西関係の構築及び軍事管理・軍縮の達成である。このため我々は,共通の地域的関心を有すること及び共に先進民主主義国の一員としての立場から,今後とも密接に協力して行く決意である。

 現下の厳しい国際情勢の下において,軍縮,就中,核軍縮の促進が強く求められている。我々は,この分野における国際連合及び軍縮委員会の役割の重要性にかんがみ,今後ともこれらのフォーラムにおいて,軍縮の促進のため協力を増進し,積極的な努力を行って行く考えである。我々は共に核不拡散体制の強化と包括的核実験禁止の実現に努めることとする。

 INF交渉及びSTARTの2つの最も重要な核軍縮交渉が一方においてソ連により一方的に中断され,あるいは他方においてソ連のイニシアティヴにより無期限休会の状態に陥ったままとなっていることは遺憾である。我々は,これらの交渉の速やかな再開とその実質的進展が図られることを強く求める。我々は,INF交渉がアジア・太平洋地域の安全保障をも念頭において,グローバルな観点から取り組まれるべきであることに特段の関心を有する。

 日本側は,日本の安全保障に関する基本姿勢については必要最小限の質の高い防衛力の整備を図り,日米安保体制を維持し,その円滑,効果的な運用に努力する方針である旨,及びその際平和憲法の下で専守防衛に徹し,非核三原則を堅持しつつ,近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国にならないものであることを再確認する。

 豪側は,日本が自らの安全保障及び防衛政策を決定する主権的権利を有することを認識し,日本の姿勢を理解する。

3.世界経済を展望するに,先進国に景気回復がみられ,漸く前途に明るさのみられる今こそ,開放された多角的貿易体制を一層発展させるため最大限の努力を傾注する必要がある。我々は,かかる観点から新たな多角的貿易交渉開始のための準備を促進することが重要であることに意見の一致をみた。

 アジア・太平洋地域の繁栄と安定は全世界的な貿易の拡大なくしては維持しえない。多角的貿易交渉開始のための準備のためには開発途上国を含め幅広い国々の支持を得ることが重要である。日豪両国は,この交渉の開始に向けて共同の努力を払っていくことを声明する。

 日豪両国はアジア・太平洋地域が新たな交渉の準備について効果的な提言を行いうるよう貿易相手国と緊密な協議を行いつつ共に協力し努力する。新たな多角的交渉は,貿易の拡大と世界経済の回復の妨げとなる広範な障害と効果的に取り組むべきである。

 我々は,日豪経済貿易関係の拡大発展は今後ともこれまで同様両国経済の発展に重要な貢献を果たして来ているとの認識を共にする。日本側は,鉱物等一次産品の供給者としての豪州の地位は,豪州産品が競争力を維持し,かつ,安定供給が確保される限り,その重要性を減ずることはないと信じるものであり,日本は第三国との貿易問題を豪州の犠牲において処理する意図はないことを確認する。

 豪州は,日本における需要の増加がみられる工業製品及び役務の輸出のための

新たな機会を十分に利用する意図を有する。貿易再活性化促進の方法は事務当局によって検討される。

 豪側は豪州における最近の労使関係における進展について概要を説明した。日本側は最近数か月にみられる豪州における労使関係の雰囲気の改善に歓迎の意を表明した。