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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フレーザー豪州首相歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 飯倉公館
[年月日] 1982年5月21日
[出典] 鈴木演説集,276−277頁.
[備考] 
[全文]

 マルコム・フレーザー首相閣下、御列席の皆様

 今宵、ここにフレーザー首相閣下及び随行の御一行をお招きし、晩餐を共にいたしますことは、私にとって大きな喜びであります。

 今回の首相閣下の御来日は現下の国際政治経済情勢にかんがみ、極めて時宜を得たものであります。御承知のとおり来月には先進国首脳会議、第二回国連軍縮特別総会など重要な国際会議が予定されておりますが、未だ曽てなかった程の困難な国際政治経済情勢の中において、先進民主主義諸国間の連帯と協調とが今日ほど必要とされる時期はないのであります。

 このような時期に、共にアジア・太平洋地域に属するパートナー同志である日豪両国の首脳が胸襟を開いて、世界が当面する主要問題について話し合うことができましたことは、極めて有意義なことでありました。

 私は、あらためて首相閣下に対し、遠路わざわざ御来日いただきましたことに対し感謝申し上げたいと思います。

 日豪二国間関係は、経済・貿易分野のみならず幅広い分野で益々緊密の度を加え、順調に発展をみせております。特に近年、両国国民の間の相互理解が益々深まっていることは誠に喜ばしいことであります。

 国と国との友好協力関係の基盤は、なによりもまずそうした相互理解でありますが、この意味で、先月東京で豪日交流基金をはじめ関係者の御努力により「日豪両国の国民同士の交流を考えるシンポジウム」が成功裡に開かれたことは意義深いものであったと考えます。

 また、一昨年に発足して以来順調に実施されておりますワーキング・ホリデー制度により、次代を担う両国の青少年の相互訪問が活発に行われていることもたいへん喜ばしいことと存じます。

 今年は東京に豪州大使館が開設されて三十年目に当たる記念すべき年であり、また、来年はキャンベラに日本大使館が開設されて三十年目となりますが、三十歳を迎えた戦後の日豪関係は、まさにあらゆる面で立派に成熟しております。今後とも両国の関係が一層豊かに成長していくことを願ってやみません。

 首相閣下

 今宵の晩餐は、閣下及び御一行の御来日歓迎のためだけではありません。閣下は本日五十二歳の誕生日を迎えられたとお聞きしておりますが、私は今宵の晩餐を閣下の誕生日をお祝いするためのものともいたしたいと存じます。ここに心よりお祝い申し上げます。

 閣下の御来日はすでに四度目であり、閣下は我が国を最も良く御存知である外国首脳の一人であられますが、また、我が国にとりましても、閣下は最も親しみの深い外国首脳の一人であります。

 私自身は、四年前に二度にわたり豪州を訪問いたしましたが、その豊かな自然と心暖かくかつ剛健な豪州人の人柄に接して得た感銘は今も私の心に生き生きとしております。

 総理大臣に就任いたしてから数多くの役職を退かざるを得なかったのでありますが、いまもって日豪議員連盟会長の職は務めておりますのも、私の豪州に対する格別の親しみ故のことであります。

 首相閣下

 今回は短い御滞在ではございますが、ゆっくりおくつろぎになって、日本の春をお楽しみいただきたいと存じます。

 御列席の皆様、それでは、ここにフレーザー首相閣下の御健康、豪州の繁栄、そして日豪関係の一層の発展を祈って、皆様とともに乾杯いたしたいと存じます。