データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平総理大臣のオーストラリア訪問に際しての日本とオーストラリアの共同新聞発表

[場所] キャンベラ
[年月日] 1980年1月16日
[出典] 外交青書24号,424−429頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.大平正芳日本国総理大臣は,オーストラリア政府の招待により,1980年1月15日から17日までの間オーストラリアを公式訪問中である。大平総理大臣は,キャンベラにおいてフレーザー・オーストラリア首相及び他の閣僚と会談した。大平総理大臣は,更にメルボルンを訪問し,日本への帰国の途次シドニーに立ち寄る予定である。

2.両国首相は,創造的なパートナーシップという新しい局面に入りつつある日豪間の緊密かつ友好的な関係に満足の意を表明した。両者は,また,日本とオーストラリアが友好協力基本条約の精神のもとで,両国政府の最高レベルにおける協議を含めた広範囲な活動にわたつて最も緊密な関係を探求するための努力を一層強化すべきことについて意見の一致をみた。

3.両国首相は,国際的な動向について検討した。両者は,アフガニスタン,イラン及びインドシナにおける最近の動きによつて生じた世界の安定に対する脅威について深い懸念をもつて留意した。両者は,国際関係における武力による脅威または武力の行使を憂慮し,国際粉争の平和的解決の必要性を強調した。両者は,国際連合憲章の原則に従つて世界平和,安全保障及び進歩を助長すること,ならびに国際関係の遂行にあたつて法の支配を強化することについてそれぞれの強い立場を再確認した。

4.両国首相は,ソ連のアフガニスタンにおける軍事的な介入はアフガニスタンの主権及び国際法ならびに国際慣行に対する直接の違反であるとして深く憂慮した。両者は,ソ連がその行動につき主張する理由を拒否し,かかる行動は法的にも,また,道義的にも正当化されるものではないことについて意見の一致をみた。かかる行動は,全ての国にとつて深い懸念となる危険な先例を作つた。両者は,ソ連がアフガニスタンにおける軍事的活動を直ちに停止し,その軍隊を撤退させ,もつてアフガニスタンの国民が外部の圧力から自由に自らその将来を決定し得るようソ連に呼びかけた。

5.両国首相は,テヘランの米国大使館において人質が捕われている状況について従来からの深い懸念の意を表明した。両者は,かかる人質行為が,単に国際法に対する違反であるのみでなく,国家がその対外関係を理性のある,かつ文明に即した態様で遂行し得る枠組みに対する脅威でもあることについて強調した。両者は,当事者間の問題の解決に向けての第一歩として,全ての人質の解放が緊急に必要であることを強調した。

6.大平総理大臣は,フレーザー首相に対し,最近の中国訪問について説明した。両国首相は,中国の対外関係における最近の動向,特に日本,米国及び西欧との関係強化は,アジア・太平洋地域の平和と安定に貢献し得る有意義な要素として歓迎した。両者は,中国の近代化への強い決意及び国際経済への一層の参加は,アジア・太平洋地域の長期的な経済繁栄に資するような有益な動きであることについて意見の一致をみた。

7.両国首相は,インドシナ情勢について討議した。両者は,カンプチアにおける武力紛争の継続がタイの安定及び東南アジアの安全に対し重大な脅威となり得るものであることについて深い懸念を表明した。両者は,カンプチアにおいて,全ての外国軍隊の撤退,及びいかなる外国からの干渉から自由なクメール人による自決を含む政治的な解決が緊急に必要であることを認識した。両者は,また,カンプチア内にあり,またはタイに避難しているクメール人の困窮を緩和するための国際的な措置に対する支持を再確認した。両者は,インドシナにおける動向に対応して,東南アジア諸国連合(ASEAN)が採つた時宜を得た措置に注目するとともに,それを歓迎した。

8.両国首相は,東南アジアにおいて地域的な協力を引続き促進することの必要性について意見の一致をみた。これに関し,両者は,一層の政治的な連帯と経済的,社会的な開発における協力を促進することによつて同地域の平和と安定に継続的に貢献しているASEANの建設的な役割を歓迎した。両者は,ASEAN諸国の経済的向上に対し支援することに引続き努力する旨述べた。

9.北東アジアの動向についての討議において,両国首相は,朝鮮半島における平和と安定の維持を重要視していることについて再確認した。両者は,同地域において緊張を緩和するために,一層の努力が行われることについて希望を表明した。

10.両国首相は,南太平洋地域の諸国による国造りへの進展を歓迎し,これらの諸国の経済的,社会的開発のため両国が引続き同諸国と協力し,支援を行うことを確認した。両者は,また,南太平洋における一層の域内協力を達成するために,地域構造,特に南太平洋フォーラムが行つてきた重要な貢献を歓迎した。

11.両国首相は,太平洋地域における諸国間のより緊密な協力の可能性について討議した。両者は,過去10年間における同地域内の経済の目覚しい発展に留意し,かかる発展の結果,既に経済及びその他の分野における紐帯に相当な拡大がもたらされていることに注目した。両者は,太平洋地域における諸国間の広範な協力関係を更に推進するために日本とオーストラリアが引続き密接に協力することが重要である旨強調した。

 この関連で,両者は,環太平洋連帯構想が重要な長期的目標を意味しているものであることに意見の一致をみるとともに,広範な地域的な合意に基づいてこの構想をさらに掘り下げて検討を行う意思を表明した。両者は,太平洋地域の学術研究機関等による民間レベルのセミナーが継続して行われることがこの構想を発展させていくために重要な手段となつていくことを注目した。

12.両国首相は,ロンドンのランカスター・ハウス会議において到達されたローデシア問題に関する全当事者間の合意を歓迎した。両者は,ローデシア住民が今や民主的に選挙される政府の下において,平和と繁栄へ復帰する途が開かれたことについて強い期待を表明した。大平総理大臣は,フレーザー首相に対し,オーストラリア政府がロンドンにおけるこの問題の解決を達成するために重要な貢献を行つたことならびに,現在ローデシアにおいて同解決を実施するために重要な貢献を行つていることについて祝意を述べた。両者は,ローデシアにおける交渉による解決が南部アフリカその他の問題の解決を助長し,もつて同地域における政治的安定及び経済的発展の展望を明るくすることについて意見の一致をみた。

13.両国首相は,軍縮,特に核軍縮及び核兵器拡散の防止が国際的安定及び安全にとつて肝要であることを再確認した。両者は,国際的な核不拡散の取極の基礎として核兵器不拡散条約を引き続き支持する旨表明した。両者は,原子力エネルギーの平和的な利用と核不拡散についての国際的な合意を醸成する上で現在完了しつつある国際核燃料サイクル評価による貢献を歓迎した。両者は,日本とオーストラリアがこれらの目的を促進するために国際的な場において引続き協力を行つていくことを再確認した。

14.両国首相は,現下の困難な世界経済情勢について意見を交換した。両者は,エネルギー問題がインフレーションひいては安定した経済成長に対して及ぼす深刻な影響に留意し,すべての諸国が適切な経済及びエネルギー政策を追求することの重要性を再確認した。特に,両者は,エネルギー源を石油に大きく依存している諸国が,代替エネルギー源へ多様化することの必要性を強調した。

 両国首相は,自由かつ開放された世界貿易体制を維持することの重要性を強調した。両者は,東京ラウンド多角的貿易交渉の妥結及び同交渉が世界貿易の一層の拡大のための基礎を提供したことを歓迎した。両者は,両国が開放された国際経済の継続的な発展のために積極的なアプローチをとることについて意見の一致をみた。

 両国首相は,UNCTAD第5回総会の際マニラにおいて会談して以来の南北間の諸案件の動きについて討議し,開発途上国が直面している諸問題に対して,緊急かつ理解のある注意を払うことが引続き必要であることに意見の一致をみた。両者は,共通基金交渉を含むこれらの諸案件については,日本とオーストラリアの間に緊密な協議が行われてきたことに留意した。

15.両国首相は,過去10年間の間に,日本とオーストラリアの貿易が5倍に増えたこと,及び幾つかの貿易問題が近年解決されたことを留意した。貿易の増加が,両国の経済発展にとり顕著な貢献となつた。両国の高度な経済的な相互依存を認識しつつ,両者は,貿易関係を一層強化し,及び発展させるために協力することに意見の一致をみた。両者は,日本とオーストラリアが相互にとつて安定的なかつ信頼し得る供給者及び市場であることを再確認し,二国間貿易が公正かつ安定的な基礎の上に一層拡大及び発展されることについて期待の意を表明した。両者は,貿易及び関連のある事項について,近年あらゆるレベルにおいて行われた討議が極めて有益であつたことについて,満足の意をもつて留意し,これらの対話が継続されかつ強化されるべきであることについて合意した。

16.両国首相は,鉱物とエネルギー資源の貿易及びこれに対する現下のエネルギー情勢の影響について討議し,この分野において,二国間で及び多数国間の枠組の中で引続き協力する必要性を確認した。両者は,1980年代への展望は,両国間のパートナーシップの増進と,その基盤の一層の広がりを指向していることに意見の一致をみた。両者は,日本とオーストラリアのエネルギー政策が補完的であり,エネルギー物質の貿易及びエネルギーの研究・開発における協力の拡大のための基礎を提供するものとなることに注目した。大平総理大臣は,石炭,ウラン及び天然ガス等のオーストラリア産エネルギーが,日本及びオーストラリア双方の経済の発展のために重要であると述べた。同総理大臣は,オーストラリアが引続きこれらの資源の主要な供給者の1つとなることについて期待の意を表明した。フレーザー首相は,オーストラリアがエネルギーの確固たる供給国であることを再確認し,日本の必要分を供給すべく最大限可能な範囲で協力する旨述べた。両国首相は,日本のエネルギー需要を満たすため,オーストラリアが主要な役割を果すことを確認し,両国間のエネルギー貿易が拡大し得る新しい分野の1つとして一般炭に対する日本側の需要の増大に言及した。

17.両国首相は,近年両国間に科学及び技術に関する協力及び意見交換が各種レベルにおいて行われていることについて満足の意をもつて留意した。両者は,また,石炭液化及び太陽エネルギーのような代替エネルギーの開発に関する協力が開始したことについて満足の意をもつて留意した。かかる最近の進展に鑑み,両者は,科学及び技術分野において両国間の一層緊密な関係を確立することの必要性について認識した。両者は,科学技術協定に関し開始された交渉が早期に妥結されることを目的として継続されることについて意見の一致をみた。

18.両国首相は,世界エネルギー情勢における最近の動きの1つの影響としてオーストラリアにおいて経済的かつ互恵的な原材料加工能力の拡大のための重要な機会をもたらしたことを認識した。両者は,かかる進展がオーストラリアにとつて原材料のみならず加工された原材料についても国際的競争力を有し,安定した,かつ信頼できる長期的な供給源を日本に提供するとのユニークな機会となり得る旨留意した。両者は,原材料加工の開発に関する日本とオーストラリアとの間の協力が一層探究されることについて希望を表明した。両者は,また,オーストラリアのこの関連のエネルギー源は主として石炭をもととしており,よつて石油の節約に寄与するであろうことについて留意した。両者は,特定の原材料の加工及び両国の産業の補完的な発展に関する両国政府による一層の互恵的研究が近い将来行われるであろう旨意見の一致をみた。

19.両国首相は,日本とオーストラリアとの間で原子力協力及び保障措置に関する新たな協定について交渉が開始されたことに留意し,この交渉が早期に妥結されることについて希望を表明した。両者はオーストラリアにおけるウラン濃縮の可能性に関する共同研究の第1段階が終了したことに留意し,日本とオーストラリアが同研究のその後の段階においても引き続き協力を行つていくことについての希望を表明した。

20.両国首相は,近年オーストラリアにおける日本の投資が着実に増大していることを歓迎し,これが両国間の協力関係を強化し,双方の経済発展に資する上でますます重要な役割を果たしていくことを認識した。

21.両国首相は,1979年10月17日に日本国政府とオーストラリア政府との間の漁業に関する協定が署名されたことを歓迎するとともに,同協定が両国間の漁業の分野における協力関係を一層強化するものであることについて共通の期待を表明した。

22.両国首相は,両国間の一層の旅行及び接触が促進されることが両国共通の利益に合致することについて意見の一致をみるとともに,日本とオーストラリアとの間の航空運賃の引下げに関する合意の達成のために行われた努力について討議した。

 両者は,日本とオーストラリアとの間の低廉な航空運賃の早期導入が実現されることについての願望を再確認し,この問題に関し2月末以前に開催予定の両国の事務レベルの討議において相互に満足のいく結果が得られることを期待した。

23.両国首相は,両国間の文化及び学術分野における協力と交流が強化されるべきであるとの考えを表明した。両者は,各々の国民が特に青少年については学業及び就業経験を通じて,お互いにより良く知り合い,かつ各々が他方の国の重要性についてより深く理解するようになるための機会を増やすものであることについて意見の一致をみた。この目的のために,フレーザー首相は,豪日基金に対し,利用可能な基金を増額するとのオーストラリア政府の意向を表明した。

 両国首相は,両国間の経済関係を含む特定分野における研究を促進することを目的としてオーストラリア国立大学に設立が予定されている豪日研究センターに対し共同して支持を与える可能性について討議した。フレーザー首相は,オーストラリア政府が,同センターの設立を支持する旨述べ,オーストラリアの民間経済界も同様に支持することについての希望を表明した。大平総理大臣は,本件研究センターの設立について日本の民間においてはすでに募金計画が始まつており,日本政府としても応分の協力を行うことについて検討中である旨述べた。

24.両国首相は,両国における日豪閣僚委員会の重要性を再確認し,同委員会が両国間の相互理解及び信頼を進展させる上で,今後も一層重要な役割を果たすものであるとの確信を表明した。両者は,第6回閣僚委員会が,もし可能であれば1980年央以前に東京において開催され,これによつてヴェニス・サミット前に国際経済上の案件に関する意見交換が十分行われることについて期待を表明した。

25.大平総理大臣は,フレーザー首相に対し,近い将来訪日するよう日本政府の招待を行つた。フレーザー首相はこの招待を喜んで受諾した。

26.大平総理大臣は,オーストラリア訪問に際して大平総理大臣及びその一行に寄せられた暖い歓迎ともてなしに対し,感謝の意を表明した。