データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 通商に関する日本国とオーストラリア連邦との間の協定,合意された議事録

[場所] 
[年月日] 1957年7月6日
[出典] 外交青書1号,205−209頁.
[備考] 
[全文]

   =A=

1 協定は、第一条及び第二条において、日本国がオーストラリアからの輸入品に最恵国待遇及び非差別的待遇を与えることを規定している。しかしながら、日本国の輸入制度にかんがみ、日本国代表は、これらの一般的規定を特定の約束又は了解とするため、日本国政府がオーストラリアからの比較的重要なある輸入品に対して与える意図を有する待遇を示した。

2 よつて、日本国代表は、次のことを行うことが日本国政府の意図するところであると述べた。

 (a) オーストラリア産羊毛に対し、毎年の羊毛の外国為替割当総額の九〇パーセントを下らない額について、羊毛のグローバル・クオータにおいて競争する機会を与え、また、協定第二条の規定に従うことを条件として、対外財政状態及び国際収支を擁護するため必要な限度をこえて羊毛の外国為替割当総額を制限しないこと。

 (b) 3及び4の規定に従い、競争的及び非差別的基礎においてオーストラリア産の小麦及び大麦の輸入を認めること。

 (c) オーストラリア産砂糖に対し、砂糖の外国為替割当総額の四〇パーセントを下らない額について、ドル・ポンド共通クオータ又はポンド・クオータにおいて競争する機会を与えること。

 (d) 自動承認品目表の牛脂及び牛皮の認められた供給国中にオーストラリアを含めること。

 (e) 日本国の学校給食計画に使用するための輸入品を除き、グローバル・クオータにおいて競争的及び非差別的基礎においてオーストラリア産脱脂粉乳の輸入を認めること。

 (f) 三年の間毎年オーストラリア産干ぶどう(レーズン、カラント及びサルタナ)の輸入に対する合理的な措置を講ずること。

3 オーストラリア産大麦に関する限り2(b)の規定について、オーストラリア産大麦が過去三年間に日本国の大麦の輸入総量の約三0パーセントを占めたことが認められた。このことは、合理的な待遇を示すものであつた。この待遇が日本国の市場において維持されることが期待されうることが合意された。

4 オーストラリア産ソフト小麦に関する限り2(b)の規定について、次のことが合意された。

 (a) オーストラリア産ソフト小麦は、非商業的な買付取極及び第三国の不公正な貿易慣行がない場合には、日本国の市場の相当な取分を確保することが期待されうる。もつとも、公正な取分を正確な用語で定義することは、次の理由のため困難である。

  (i) 日本国の小麦市場の性格及び規模は、オーストラリアが主要供給国であつた第二次世界大戦前以来変化した。

  (ii) 日本国の製粉業者及び消費者は、最初に全世界にわたる戦後の小麦不足により、ついで余剰に関する非商業的取極又はこれに関連する日本国の小麦の輸入に影響を及ぼす政府間取極により、オーストラリア産ソフト小麦について最近の経験を有しない。

 (b)(i) 協定期間のいずれかの年において、オーストラリア産ソフト小麦が日本国の市場において自由に競争する機会が、公正な貿易又は商業慣行に合致しない取引により阻害される場合には、日本国政府は、商業的経路を通じ競争的基礎において購入されるオーストラリア産ソフト小麦が日本国の市場における衡平な取分を占めることを確保するため、その権限内にある措置を執る。このような状況の存在及び市場における衡平と認められる取分は、両政府間の協議により確定される。もつとも、少くとも協定の初期の段階においては、日本国のオーストラリア産ソフト小麦の輸入は、通常の商業的考慮の下で二〇〇,〇〇〇トン以上であり、しかも毎年増加していく傾向を有することが期待される。日本国政府が前記の協議の結果に従つて措置を執を場合には、オーストラリア小麦局による小麦の売込は、通常の商業的考慮に従うものとする。

  (ii) この議事録において「オーストラリア産ソフト小麦」とは、f・a・q又はそれ以下の等級のオーストラリア産小麦をいうものと予解される。f・a・qより良質でありかつ割増価格で販売されるたんぱく質含有量の多いオーストラリア産小麦の等級は、(i)の範囲外とみなされる。この種のオーストラリア産小麦の日本国の輸入は、競争的及び非差別的基礎において行われる。

   =B=

1 オーストラリア代表は、日本国が輸出について利害関係を有する比較的多数の品目の関税率を引き上げないことをオーストラリアがすでに他の国に対して約束しており、したがつて、オーストラリアの関税表上日本国の産品に対して最恵国待遇を与えることにより、オーストラリアが日本国の産品の関税上の待遇の安定で相当重要なものを実際上保証していることを指摘した。他方、日本国の市場においてオーストラリアが輸出について利害関係を有する主要品目については日本国の関税表上関税を引き上げないことが約束されていないので、日本国は、オーストラリアに対し安定した関税待遇の類似した保証を与えていない。さらに、オーストラリアの関税表上の日本国が輸出について利害関係を有する関税の多くが引き上げられないことがすでに約束されているという事実は、それらの関税が、相当な関税交渉を行いかつ他の国に対し関税上の代償を支払つた後にのみ引き上げることができるものであることを意味している。これに反して、日本国は、東京からの最近の報道が強調しているように、オーストラリアの日本国向の主要輸出品に適用される関税の条件を実質的に変更しうる立場にある。この事情に対処するため、日本国が現行の羊毛の無税輸入を維持するという保証が要請される。この点に関し、オーストラリア代表は、羊毛がオーストラリアの日本国向の総輸出において高い比率を占めているので、オーストラリアが羊毛の日本国への無税輸入の継続に対し相当な重要性を置いている旨を強調した。

2 日本国代表は、オーストラリアの関税表上日本国が受ける利益を認めた。日本国代表は、また、日本国の商品がこの協定に基き千九百五十七年五月に実施されたオーストラリアの関税表の最恵国税率の引下げを受ける権利を有すること、及び日本国の産品が、他国との貿易交渉の結果生ずるものであるとその他によるものであるとを問わずオーストラリアの関税表上の最恵国税率について今後行われるいかなる引下げの利益をも同様に与えられるものであることを認めた。日本国代表は、オーストラリア政府がこの問題に置いている非常な重要性にかんがみ、日本国政府は、協定の署名の日の後3年間オーストラリアからの羊毛の輸入に対する現行の関税水準を変更するためのなんらの措置をも執る意思を有しないと述べた。

3 日本国代表は、前項の陳述を行うに当り、オーストラリア政府が前記の三年間に関税及び貿易に関する一般協定の両国間における適用に向つて進むよう努力する意思を有するものと考えている旨附言した。

4 オーストラリア代表は、これに答えて、オーストラリア政府は、関税及び貿易に関する一般協定の両国間における適用の可能性を探究し、かつ、その適用の基礎を検討する目的で、前記の三年間の終る前の適当な時期に、及び協定により得た経験に照らして、日本国政府と討議を行うことを考えていると述べた。

5 オーストラリア代表は、羊毛の日本国への無税輸入の継続に置いている重要性に再び言及し、オーストラリア政府は、羊毛の関税引上げがある場合には、協定の運用を再検討する自由を有する必要があると述べた。前項にいう討議に関し、日本国への羊毛の無税輸入についてのこの了解は、いずれの一方の国もその討議に影響を及ぼす日本国の事前の約束と考えられないことが合意された。両政府は、関税及び貿易に関する一般協定が両国間に適用される場合の関税の条件を考慮する自由を有するであろう。

   =C=

1 第五条の規定に関する討議において、オーストラリア代表は協定の結果、オーストラリア向の日本国の輸出がオーストラリアの産業に重大な損害を与えることなく又はオーストラリアの輸入の従来の態様を急激にかつ著しく破壊することなく拡大する機会が増加するという相互の期待が、第五条の基礎となつていることを指摘した。この期待は、特定の分野における、特に、日本国からの輸入量が不当に増加した場合において歴史的に又は潜在的に特に破壊されやすいオーストラリア産業の産品における日本国からの輸出が、この種の重大な損害を与えるような若しくは与えるおそれがあるような数量に達し、又はそのような状況において船積されることは許されないであろうという前提に基いている。オーストラリア代表は、日本国の商品に最恵国待遇を与えれば前記の状況を生ずることがありうると考えるので、この事態の処理に当つて日本国当局の協力を歓迎するであろうし、また、早期のかつ効果的な手配が日本国において行われるならばその解決に大いに寄与することができるであろうと考える。

2 日本国代表は、これに答えて、日本国の法令においては原則として輸出が自由であること、及び日本国政府は前記の問題を処理するために限られた措置のみを執りうることを指摘した。しかしながら、日本国代表は、日本国政府が、オーストラリア向の日本国からの輸出がオーストラリア代表の言及した損害又は損害のおそれを回避し又は救済するような方法で行われるようにその憲法上の権限内で最善の努力を払う旨を指摘した。

3 オーストラリア代表は、将来起ることのある特定の問題の満足すべき解決のため両政府間の協議を実際上の最大限度まで増大することが肝要であると考える旨を述べた。日本国代表は、この提案に同意した。この点に関し、次のことが合意された。

 (a) 効果的な連絡を、東京においてはオーストラリア大使館と日本国政府との間に、また、キャンベラにおいては日本国大使館とオーストラリア政府との間に直ちに設立すること。

 (b) 両政府が統計上の情報を継続的に供給すること。

 (c) 日本国政府又はオーストラリア政府が重大な損害のおそれがあるような状況である産品が輸入されていると考える場合には、特別の緊急措置に訴えることなく、事態の救済に努めるため直ちに協議を行うこと。

 (d) 第五条の規定の適用を必要とする事態が生じた場合には、同条に定める手続を採用すること。

4 日本国代表は、オーストラリア当局が第五条に予想する種類の特別の措置を不当に執ることはないという保証を求め、また日本国政府が、日本国からの輸出がオーストラリア代表の述べた意味における重大な損害を回避するような秩序のある方法で行われることが、協定の運用を成功させるために重要であり、また、第五条の規定の援用の回避を可能ならしめるためにも重要であることに同意すると述べた。

5 オーストラリア代表は、前記の日本国代表の陳述及び1に掲げる相互の期待にかんがみ、オーストラリア政府が第五条の規定に基いて執るいかなる措置に関しても次の考慮が払われるであろうということができると述べた。

 (i) 前記の措置は、協議が行われた後でなければ執らないものとする。すべての場合において、協議は、できる限り早目に行うものとする。

 (ii) 前記の措置は、軽軽には執らないものとし、協議手続を行うことにより当該問題に対する相互に受諾しうる代りの解決策が得られなかつた場合にのみ執るものとする。協議手続きの完了前に措置を執ることを必要とする緊急の場合にも、協議を継続して相互に受諾しうる解決策を見いだすために努力するものとする。

 (iii) 前記の措置は、行政上できる限り、その措置が特定の事態をきよう正するために必要とされる特定の商品についてのみ適用するものとする。

 (iv) 前記の措置は、特定の事態をきよう正するために必要な期間のみ適用し、かつ、それが達成された後直ちに取りやめるものとする。

 (v) 前記の措置は、重大な損害が生じ、又は生ずるおそれがある場合に限定するものとする。

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、千九百五十七年七月六日付の閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

  (来簡のとおり)

 本大臣は、オーストラリア連邦政府に代つて、閣下の前記の書簡に述べられた了解を確認する光栄を有します。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。

  千九百五十七年七月六日

                 貿易担当国務大臣 J・マッキュアン

   外務大臣 岸信介閣下