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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「戦略的パートナーシップ」構築に向けた日本・モンゴル共同声明

[場所] 
[年月日] 2010年11月19日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 ツァヒャー・エルベグドルジ・モンゴル国大統領は、日本国政府の招待により2010年11月15日から19日までの日程で日本国を公式訪問した。エルベグドルジ大統領は、18日、天皇陛下と会見し、日本国国会において横路孝弘衆議院議長、西岡武夫参議院議長と懇談し、両院の議員を前に演説を行った。

 菅直人日本国内閣総理大臣は、19日にエルベグドルジ大統領と会談し、双方は、 以下のとおり共同声明を発出した。

1.双方は、モンゴルが民主主義・市場経済への移行を選択した1990年以降、日本とモンゴルが自由と民主主義という共通の価値観に基づいて、友好国としての関係を着実に促進するとともに、1997年に共通外交目標として打ち出した「総合的パートナーシップ」の原則の下で、二国間関係、地域・国際場裡における協力を含むあらゆる分野において良好な関係を発展させてきたことを高く評価した。特に、2007年2月に両国首脳間で署名した「今後10年間の日本・モンゴル基本行動計画」に基づいて、「総合的パートナーシップ」を構築するための双方の努力が具体的な成果をあげたことに対し、双方は満足の意を表明した。

2.双方は、今後、両国関係を新たな次元に高めるため、これまで「総合的パートナーシップ」に基づいて構築してきた両国関係を基礎として、新たに「戦略的パートナーシップ」の構築を目標とすることで一致した。双方は、日本とモンゴルの新時代の幕を開ける「戦略的パートナーシップ」の構築に向けた取組が、両国間で互恵的かつ相互補完的な関係を促進し、両国関係を一層強化するとともに、二国間関係にとどまることなくアジアや国際社会が直面する政治、経済、環境等の幅広い分野の課題に対して協力していく上で極めて重要な手段となることを確認した。

3.双方は、「戦略的パートナーシップ」の構築に向けて、以下の分野において協力関係を一層発展させることの重要性につき一致した。

(1)ハイレベル対話の促進

 双方は、過去半年の間に、首脳級の会談、外相会談がそれぞれ3回開催される等、両国ハイレベルの対話が過去に例を見ない水準で活性化していることに満足の意を表明するとともに、両国関係の一層の強化において、ハイレベルの対話の積み重ねが不可欠であり、今後、双方の要人往来に加え、地域及び多国間会議の機会も活用し、頻繁にハイレベルの対話を実施することの重要性を確認し、特に、両国の外相会談を毎年実施していくとの意思を確認した。

 双方は、両国防衛当局間でハイレベルの対話等の防衛交流が進展していることを歓迎するとともに、地域及び世界の平和と安定に向けて防衛交流を推進し、連携を強化することの意義を確認した。

(2)経済関係の更なる促進

 双方は、両国が経済関係を互恵的かつ相互補完的に発展させる潜在的な可能性を有することを強調し、実現に向けて双方が官民一体となって協力していくことの重要性を確認した。

 モンゴル側は、モンゴルの石炭、銅、ウラン、レアメタル・レアアース等の鉱物資源開発において、先端技術と経験を有する日本からの協力が最重要であるとの立場を表明し、開発事業への日本企業の参入を積極的に支持する政策は不変であることを強調した。日本側は、モンゴル側の立場を歓迎するとともに、投資環境の整備を含む具体的な施策の実施に期待を表明した。双方は、モンゴルの鉱物資源開発における互恵的関係の構築は両国の国益に適うものであり、戦略的に推進していくべきとの認識で一致した。

 モンゴル側は、モンゴルの鉱物資源開発に伴って必要となる輸送を含めた関連インフラ整備に対する日本企業の参入に強い期待を表明した。日本側はモンゴル側の希望を歓迎するとともに、日本の「新成長戦略」に基づいて整備する枠組みの中で、モンゴルでの鉱物資源開発に関連する各種インフラ需要に応えるため、全体パッケージでの我が国民間企業の取組を支援することにつき留意すると発言した。

 双方は、両国間の貿易・投資の促進及びモンゴルの鉱物資源開発において、日・モンゴル官民合同協議会が双方の対話の促進に重要な役割を果たしてきたことを高く評価し、今後も官民一体としての連携を一層強化する観点から、本件協議会を定期的に開催していくことの重要性を再確認した。

 双方は、両国間の貿易・投資を含む経済関係の促進のために、日・モンゴル経済連携協定(EPA)のプロセスの進展に向けた双方の一層の努力が重要であることを再確認した。双方は、日・モンゴルEPA交渉の開始に向けた官民共同研究が本年6月に開始されたことを高く評価した。双方は、EPAのプロセスが具体的かつ着実に進展していることに満足の意を表明するとともに、2010年度内に提出される予定の官民共同研究報告書の結果を踏まえ、2011年度早期の交渉開始に向けて検討を加速することで一致した。

 モンゴル側は、日本の政府開発援助がモンゴルの民主主義の定着及び市場経済化への移行プロセスに決定的な役割を果たし、今日のモンゴルの持続的な発展に向けた努力に多大なる貢献をしてきたことを強調し、日本側は、モンゴルの自国の発展に向けた努力を今後も継続して支持していくことを表明した。この関連で、日本側は、モンゴル政府から要請のあった「中小企業育成・環境保全ツーステップローン(第2フェーズ)」について交換公文の署名に至ったことを歓迎すると述べた。これらに対し、モンゴル側は、日本政府及び国民に対して心からの謝意を表明した。

 モンゴル側は、モンゴル国の電力の安定供給を確保するために、これまでに実施された日本側の協力を高く評価するとともに、エネルギー関連分野において、日本との協力を積極的に更に進めたいとの希望を表明した。日本側はモンゴル側の希望に留意するとともに、本件分野における交流促進の重要性に理解を示した。

 モンゴル側は、モンゴルの農牧業分野の発展において、日本からの協力が重要な役割を果たしてきたことにつき謝意を表するとともに、モンゴルの食肉その他の畜産物の加工や家畜衛生等の分野において、日本からの技術支援の協力を得ることが重要であるとの希望を表明した。日本側はモンゴル側の希望に留意するとともに、今後も両国の農牧業分野における交流を推進していきたい旨述べた。

 モンゴル側は、防災、特に地震等に対する危機管理の面で日本政府からの技術的支援の協力を得ることに関心を有する旨表明した。日本側は、本件分野における交流の重要性に理解を示した。

 日本側は、上記の関連で、電力、農牧業、防災等、モンゴル側が希望を表明した具体的な分野における交流推進の一助とする観点から、2011年度に、当該分野の若手専門家50名を日本に招へいする意向を表明した。

(3)人的交流・文化交流の活性化

 双方は、両国関係の一層の発展において、両国民間の相互理解の更なる深化が重要であることを強調し、人的交流及び文化交流の活性化の必要性について認識の一致をみた。

 双方は、両国民の相互訪問がより一層活発になることを希望する旨を表明し、日本側は、本年4月から、モンゴル側が日本国民に対して実施した査証免除措置を高く評価した。今後、双方は、人的・文化交流の実績を着実に積み上げた中で、両国間の人的交流の一層の自由化についても、将来的な課題として検討していくことで一致した。

 双方は、モンゴルの将来を担う人材の育成において留学生交流が果たしてきた役割の重要性を確認した。モンゴル側は、日本側におけるモンゴル人留学生数を日本側が増大することについて期待を表明した。

 日本側は、昨年7月の「日本国政府とモンゴル国政府との共同新聞発表」において表明した、両国間の人材の交流をより戦略的かつ効率的に実施するために今後3年間で1000人規模の青年等の訪日受入れについて、これを着実に実施していることを表明し、モンゴル側はこれを歓迎した。

 双方は、両国の民間友好諸団体の積極的な交流活動が、国民間の相互理解の深化及び信頼の醸成において大きく貢献してきたことを高く評価した。

 双方は、2012年が両国の外交関係樹立40周年に当たることに留意し、これまで両国の間で醸成されてきた良好な友好関係、相互理解を更に発展させる契機とすべく、記念行事の実施について双方で協力していくことで一致した。

(4)地域・グローバルな課題への取組での連携強化

 双方は、21世紀の世界の平和と発展のために、重要な地域及びグローバルな課題の解決に向けて、双方が連携を強化して取り組んでいくことで一致した。

 双方は、国連改革、特に安全保障理事会改革が必要であるとの認識を共有することを改めて表明するとともに、国連安全保障理事会の常任・非常任理事国双方の議席が拡大されるべきとの見解で一致した。モンゴル側は、日本が国連の安全保障理事会の常任理事国になること及び日本の非常任理事国への立候補を支持してきた立場を、今後も一貫して堅持することを表明した。

 モンゴル側は、日本政府が気候変動分野における2012年末までの途上国支援として、排出削減等の気候変動対策に取り組む途上国及び気候変動の悪影響に対して脆弱な途上国を支援していることを高く評価するとともに、日本との協力を希望すると述べた。日本側は、気候変動の悪影響に対するモンゴルの積極的な取組を歓迎した。

 双方は、気候変動問題を解決する喫緊の必要性を認識するとともに、コペンハーゲン合意を踏まえ、すべての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際的枠組みを構築する新しい一つの包括的な法的文書の早急な採択に向け、両国が国際交渉において協力することを再確認した。

 双方は、六者会合が、朝鮮半島の検証可能な非核化を達成し、北東アジアの平和と安定を確保するために引き続き有効な枠組みであるとの認識で一致した。また、双方は、拉致問題を含む北朝鮮と日本の間の諸懸案を包括的に解決することが必要であるとの日本の立場をモンゴル側が支持することを再確認した。

 モンゴル側は、アジア太平洋地域、中でも東アジアにおける多国間の枠組みへの参加を強く希望し、日本側の支援に対する期待を表明した。日本側は、モンゴル側の希望に理解を示し、双方は、この分野で意見交換していくことで一致した。

2010年11月19日東京にて

 日本国内閣総理大臣

  菅直人

 モンゴル国大統領

  ツァヒャー・エルベグドルジ