データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ムバラク・エジプト・アラブ共和国大統領歓迎晩餐会における村山内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1995年3月15日
[出典] 村山演説集,179−180頁.
[備考] 
[全文]

ムバラク大統領閣下、令夫人、御列席の皆様

 この度エジプト・アラブ共和国よりムバラク大統領閣下御夫妻とその御一行をわが国にお迎えすることができましたことは、私にとってこの上ない喜びであります。ここに、日本国政府及び国民を代表し、大統領閣下御一行の御訪日を心から歓迎申し上げます。

大統領閣下

 ナイル河のほとりに栄えた偉大な文明は、古代遺跡をみる人々に今も深い感銘を与えます。七世紀以降中東に開花した絢爛たるイスラム文明は、人類の進歩に多大の貢献をしました。また、今世紀貴国が主導した民族主義運動は、アラブ、アフリ力地域に新しい夜明けをもたらしました。この様に人類の歴史に幾多の輝かしい業績を記してきた貴国及び貴国国民に対し、私達は深い尊敬の念を抱いております。

 私は、十二年前の閣下の御来日以降、両国国民の間の友好関係が益々強化されてきていることを嬉しく思います。カイロの教育文化センターや小児病院、あるいは上下水道の整備のような、その地域の人々に親しまれる協力をわが国が行ってきたことは、わが国国民が何より誇りとするところであります。私は閣下の訪日がこのような二国間関係に新鮮な活力をもたらし、次なる飛躍への契機になることを願って止みません。

大統領閣下

 現在世界中に中東の平和に対する期待が高まっています。思い起こせば、現在の和平の潮流は、十六年前に貴国が踏み出した歴史的第一歩に遡ります。マドリッド中東和平国際会議で始まった新しい和平交渉は、イスラエル・パレスチナ間の暫定自治に関する宣言、ガザ・ジェリコに関する合意、イスラエル・ジョルダン平和条約という画期的な成果を生み出しました。この歴史的展開の舞台裏に、閣下の賢明な指導と弛まぬ仲介努力があったことを私達はよく承知しております。閣下の長年の努力に深い敬意を表しますとともに、中東の全ての人々が平和な日々を過ごせる日が一日も早く訪れることを心より祈るものです。

 イスラム世界には人類を民族や氏族に分けたのは、お互いに知り合うためであるという教えがあると聞いておりますが、私達は今こそこの言葉に耳を傾けるべきであると思います。わが国は、新しい世界情勢の中で、世界の平和と繁栄のために建設的役割を果たす考えです。その際、中東・アフリカ地域においては、閣下の英邁なる指導の下にある貴国との密接な連携が軸になることは申すまでもありません。わが国は中東和平の実現のために、また、世界の全ての人々の平和で豊かな暮らしを実現するために、今後とも貴国と共に努力を傾けていきたいと考えています。

御列席の皆様

 ここにムバラク大統領閣下及び令夫人の御健康、エジプト・アラブ共和国の益々の発展と繁栄を祈念し、また、わが国とエジプト・アラブ共和国との末永き友好を願って杯を挙げたいと思います。