データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊の帰国に際しての海部内閣総理大臣の訓示

[場所] 
[年月日] 1991年10月30日
[出典] 海部演説集,402−403頁.
[備考] 
[全文]

 本日ここに、海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊の帰港を迎え、私は、自衛隊の最高指揮官として、諸君の労を心からねぎらうことができますことを大変嬉しく思っております。

 諸君は、遠く故国を離れた熱暑の地において、生命の危険を顧みず、掃海という高度の技術を要し、かつ極めて大きな危険を伴う作業に文字通り身命を賭して従事され、その任務を全うし、本日無地帰還されました。諸君の揺るぎない使命感と、任務達成に向けて傾注された献身的な努力に対し、深い敬意と感謝の意を表するものであります。

 諸君の出発の四月二十六日、私は国会で派遣の説明をし、質疑を受けていました。たまたま私のフィリピン訪問の日は、諸君の部隊のスービック出発の日であり、落合司令に電話で激励したことをなつかしく思い出します。

 今日の国際軍事情勢は、東西冷戦が終焉を迎え、ソ連における新国家体制への模索や米ソの核軍縮提案などにみられるように、新しい時代を迎えようとしております。しかしながら、過渡期にあるソ連を始め東欧やいわゆる第三世界地域において不安定要因を抱えて推移しており、アジア・太平洋地域においても未解決の問題が残されております。

 このような情勢の下、我が国が、自国の平和と安全を願うのは当然でありますが、これは、ひとり我が国のみの平和と安全を願うものであってはなりません。我が国の国際的地位の向上に伴い、その果たすべき国際的責任が大きくなっていることに鑑みれば、我が国としても、世界の平和と安全のために、その地位にふさわしい人的な貢献をより積極的に行っていくことが求められているのであります。

 諸君が遠くペルシャ湾において、危険と困難を伴う掃海の任務を見事に完遂し、我が国船舶も多数航行する同海域の航行の安全を確保されたことは、かかる観点から、国際社会における我が国の人的側面での国際貢献としても大きな意義を有するものであります。我が国が、国際社会において、平和的、人道的な目的のために進んで汗を流し、その地位に相応しい責務を果たしていく姿勢を世界に示すものともなったのであります。我が国と国際社会のために貢献された諸君は、我が国の誇りであり、国際社会からも、諸君の努力に対し、高い評価がなされているところであります。

 諸君の今回の活躍は、新たな時代における我が国の国際貢献の輝かしい先駆として、長く国民の記憶にとどめられることでありましょう。

 諸君が、日本とは異なる極めて厳しい自然環境の下で、掃海という危険を伴う困難な任務に精励されている間、諸君に対し声援を送り心の支えとなってきたご家族の方々及び関係者の皆さま方に対しても、私は、改めて心から感謝の意を表したいと思います。

 諸君にとって全くの未知の海域であったペルシャ湾において、諸君が心の冷静さを失うことなく、その能力を十分に発揮し得ましたことは、海洋国家における伝統と、自衛隊発足以来諸先輩により培われ引き継がれてきた技術力の賜物であります。

 今後とも、士気高く堂々たる自衛隊員として、国民の負託に応え、その信頼をかち取るよう、地道な訓練に励み、一層の研鑽と努力を重ねられることを臨んでやみません。

 自らの使命の重要性を良く理解し、困難な任務に進んで身を投じ、立派な職責を果たされた諸君の無事な帰還を祝して、私の訓示といたします。