データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 湾岸危機に関する資料,政府声明

[場所] 
[年月日] 1991年4月24日
[出典] 外交青書35号,478−479頁.
[備考] 
[全文]

1.昨年8月2日のイラクのクウェイトに対する不法な侵攻及びその併合に始まった湾岸危機については,イラクが正式停戦のための国際連合安全保障理事会決議687を受諾したことに伴い,正式停戦が成立した。

 ペルシャ湾には,この湾岸危機の間に,イラクにより多数の機雷が敷設され,これらがこの海域における我が国のタンカーを含む船舶の航行の重大な障害となっている。このため,米国,英国,フランス,ドイツ,ベルギー,サウディ・アラビア,イタリア及びオランダは,掃海艇等を派遣し,機雷の早期除去に努力しているところであるが,なお広域に多数の機雷が残存しており,これらの処理を終えるには,相当の日月を要する状況にある。

2.ペルシャ湾は,世界の原油の主要な輸送経路の一つに当たっており,この海域における船舶の航行の安全が一日も早く回復されることが,国際社会の要請となっている。

 この海域における船舶の航行の安全の確保に努めることは,今般の湾岸危機により災害を被った国の復興等に寄与するものであり,同時に,国民生活,ひいては国の存立のために必要不可欠な原油の相当部分をペルシャ湾岸地域からの輸入に依存する我が国にとっても,喫緊の課題である。

3.かかる状況を踏まえ,政府としては,本日,安全保障会議及びこれに続く閣議において,自衛隊法第99条に基づく措置として,我が国船舶の航行の安全を確保するために,ペルシャ湾における機雷の除去及びその処理を行わせるため,海上自衛隊の掃海艇等をこの海域に派遣することを決定した。

 できるだけ速やかに準備を整え,関係諸国の理解と協力を得て,実行することとしたい。

4.今回の措置は,正式停戦が成立し,湾岸に平和が回復した状況の下で,我が国船舶の航行の安全を確保するため,海上に遺棄されたと認められる機雷を除去するものであり,武力行使の目的をもつものではなく,これは,憲法の禁止する海外派兵に当たるものではない。

 歴史の深い反省に立って誓った「国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」という平和国家の理念を将来にわたり堅持する決意に変わりはない。

5.国際社会おいて大きな責任を果たすことが求められている我が国としては,資金,物資の面での支援のみならず,これらと併せて人的な支援を行っていくことが必要であることは,広く御理解をいただいているところであるが,今回の措置は,船舶の航行の安全の確保及び被災国の復興という平和的,人道的な目的を有する人的貢献策の一つとしても,意義を有するものと考える。

 国民各位の御理解と御協力を切に希望する。