データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 湾岸危機に関する資料,中東の諸問題に対する当面の施策

[場所] 
[年月日] 1991年3月20日
[出典] 外交青書35号,476−478頁.
[備考] 
[全文]

1.中東地域は,我が国を含む国際社会にとって,世界の平和と安定の維持,エネルギーの安定的供給の観点から,極めて重要な地域である。また,中東を含む国際社会の諸問題に応分の協力を行うことは,国際社会の安定と繁栄に大きな責任と役割を有する我が国にとって,極めて重要と考える。

2.我が国としては,中東諸国との相互理解の基盤を一層深めるため,人的交流の活発化等の努力が必要である。

3.今後の中東政策を進めるに当っては,まず,地域内の諸国の意向や施策を最大限に尊重し,これを支援していくことが基本となる。

4.政府としては,以上を踏まえて,中東地域,ひいては世界の安定と繁栄の確保に,積極的に協力して行くこととする。当面の考え方及び施策は,次の通りである。

(1)中東地域の安全保障

 (イ)国際連合が停戦監視等を目的とする平和維持活動(PKO)を実施する場合には,その活動の形態にもよるが,財政支援その他の分野での協力を行うべく,検討を進める。

 (ロ)地域の安全保障の問題について,中東諸国,周辺関係国,域外主要国との政治対話を強化する。

 (ハ)域内諸国の経済的安定・発展に協力することにより,域内の安定向上への努力を側面的に支援する。

(2)軍備管理・軍縮

 (イ)今般の湾岸危機の経験を踏まえ,通常兵器の国際移転問題に関する透明性・公開性の増大に向けて,国連への報告制度の確立等,国連を中心とする基準・ルール作りに貢献する。また,通常兵器輸出の自主規制に関しては,各国の枠組の整備・強化の検討を呼び掛ける。

 (ロ)核兵器,化学兵器等の大量破壊兵器及びミサイルの不拡散については,国際原子力機関(IAEA)の保障措置制度,これらの兵器の原材料等に関する国際的な輸出規制の枠組の整備・強化に努力する。また,化学兵器禁止条約の早期締結を促進して行く。

 (ハ)グローバルな軍備管理・軍縮問題等に関して,国際連合が我が国で軍縮会議を開催するよう提唱し,これを支援する。また,このような会議や,国連軍縮委員会,ジュネーヴ軍縮会議等の場を通じ,我が国の積極的な姿勢を訴えて行く。

(3)中東和平

 (イ)被占領地パレスチナ人の窮状に配慮しつつパレスチナ人の支援に適切に対処することとし,緊急食糧援助を行うことを検討する。また,イスラエルとの要人往来をはじめ,各種交流を強化する。

 (ロ)国際連合安全保障理事会決議242及び338を基礎に,<1>イスラエルの全占領地からの撤退,<2>独立国家樹立の権利を含むパレスチナ人の民族自決権の承認,<3>イスラエルの生存権の承認,を通じ,恒久和平を達成すべしとの基本的立場に立って,主要当事者,関係国等との政治対話を強化し,有効な和平プロセス進展に向けた国際的努力に積極的に参加する。

 (ハ)中東和平達成への交渉の枠組として,国際会議の開催を支持する。

(4)経済復活

 (イ)対クウェイト人道援助を緊急に行うこととし,対イラク人道援助についても国際機関のアピールを踏まえ,各国とも協調しつつ適切に対処することとする。

 (ロ)クウェイトへの復興援助については,技術協力を中心に行う。なお,イラクへの復興援助に関しては,今後のイラクの体制を注視して行く。

 (ハ)湾岸危機により経済的打撃を受けたその他の関係国への支援については,二国間援助を中心に適切に対処して行く。

(5)環境面での協力

 (イ)今般の湾岸危機に際して発生した,原油流出,油井炎上といった,環境の破壊等への対応に対し,持てる技術,人的資源等を通じ,出来る限り協力する。そのため,資機材の送付に続いて,流出原油防除・環境汚染対策調査団による現地のニーズの把握を踏まえ,今後の協力策を検討する。

 (ロ)国際機関のアピールを踏まえ,国際機関を通じた協力を行うことを検討する。

{<1>は原文ではマル1}