データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ムバラク=エジプト・アラブ共和国大統領の訪日に際しての日本・エジプト共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1983年4月8日
[出典] 外交青書28号,444−446頁.
[備考] 
[全文]

1.モハメッド・ホスニイ・ムバラク・エジプト・アラブ共和国大統領は,日本国政府の招待により,1983年4月5日から9日まで国賓として日本国を訪問した。

 大統領にはカマル・ハッサン・アリ副首相兼外務大臣,ユーセフ・アミン・ワリ農業・食糧供給大臣,ワギー・シンディ投資・国際協力大臣のほか,エジプト・アラブ共和国政府の多数の高官が随行した。

2.今回の訪日中,1983年四4月6日,大統領は皇居において天皇陛下と会見した。

3.ムバラク大統領と中曽根総理大臣は,4月6日,共通の関心を有する国際的及び地域的諸問題並びに二国間の諸問題について意見交換を行った。

 大統領及び総理大臣は,首脳会談が極めて親密な雰囲気の中で行なわれ,両者の間の相互理解の増進に大きく寄与したことに深い満足の意を表明した。

4.両首脳は,世界の平和と繁栄のために,中東における公正で永続的かつ包括的な和平の早期達成が不可欠であることを再確認した。

 また,両首脳は,かかる和平が達成されるためには,イスラエルが1967年戦争において占領した東ジェルサレムを含む全アラブ占領地から撤退すべきであり,また,国連憲章に基づくパレスチナ人の民族自決に対する不可譲かつ正当な権利が承認・尊重されるとともに,イスラエルの生存権も承認・尊重されるべきであるとの両者の共通の立場を再確認した。

 かかる観点から両首脳は,イスラエル政府によるジョルダン川西岸・ガザ地区における違法な入植活動の継続,強化に深い憂慮の念を表明すると共に,このような政策は中東における平和を危うくし,また,共存と和解の精神に反するとの見方につき意見の一致を見た。

 両首脳は,フェズ提案,レーガン提案に織り込まれている諸原則及び理念に基づいて包括的な解決を実現の緒につける絶好の機会が生まれていることについて意見の一致をみると共に,この関連で時間の要素が重要であることを強調した。かかる和平努力が成功するためには交渉の枠組みが拡大されジョルダン及びパレスチナ人の代表等のアラブ側関係当事者が交渉に含められることが不可欠である。

 両首脳は,米国が和平実現のために関係当事者と共にその努力を一層強化するよう期待する旨述べた。

5.レバノン情勢に関し,両首脳は,イスラエル軍のレバノン領内からの即時かつ全面的撤退,及びレバノン政府の認めない他のすべての外国軍勢力の撤退が必要であることを再確認した。両首脳は,その全領土における完全な主権の行使の回復を求めているレバノンの正当な政府に対する全面的な支持を表明するとともに,レバノンの国家主権及び領土保全を再確認した。

6.イラン・イラク紛争に関し,両首脳は,同紛争の継続が地域全体の平和と安定を脅かす恐れがあることを深く憂慮するとともに,本紛争の早期の平和的解決が必要であることを再確認した。

7.アフガニスタン及びカンボディア情勢に関し,両首脳は,すべての外国軍の両国からの即時撤退並びにアフガニスタン及びカンボディア両国民の自決権尊重の原則に基づく解決が不可欠である旨表明した。

8.中曽根総理大臣は,エジプトが中東地域の安定化のためにこれまで果たしてきた重要な役割を高く評価し,また,ムバラク大統領が,パレスチナ問題を核心とする中東和平問題の解決のために精力的に和平努力を継続していることに対し深甚なる敬意を表明した。

 更に,中曽根総理大臣は,先月の非同盟首脳会議の際にエジプトが果たした建設的な役割を高く評価し,今後とも非同盟運動発展のための同国の貢献に期待する旨述べた。

9.大統領及び総理大臣は,日・エジプト両国間の緊密かつ友好的な関係が近年ますます増進されつつあることに満足の意を表した。更に,両首脳は,政治,経済,文化その 他あらゆる分野における両国関係を一層拡大していくために両国政府が今後とも緊密な 協力を継続する用意がある旨改めて表明した。

10.中曽根総理大臣は,エジプトの経済・社会開発を支援し,エジプト国民の福祉に貢献するため,日本国政府は,その経済協力の基本方針のもとで,エジプトに対する経済協力を拡充するよう努力する旨述べた。

11.この関連で中曽根総理大臣は,エジプトの経済・社会開発のため,電力,工業,農業及び運輸の分野の諸プロジェクトに対し,日本国政府が総額500億円までの円借款がエジプトに対し供与されるよう積極的に協力する意図がある旨述べた。

12.中曽根総理大臣は,エジプトにおける人造り及び文化の向上に対する協力の一環として,日本国政府は,カイロ教育文化センター建設計画に関し,近々調査団を派遣し,右調査の結果に基づいて本件に対する無償資金協力の実施につき検討する旨述べた。

13.中曽根総理大臣は,エジプトの人造り及び経済・社会開発のため,日本国政府は,引き続き技術協力を拡充していく旨述べた。

 両首脳は,そのためには,両国間の技術協力の円滑な実施を確保する必要があるとの確信を表明した。かかる観点から両首脳は,技術協力に関する日本国政府とエジプト・アラブは共和国政府との間の協定の締結交渉が大統領の日本訪問の期間中に大きく前進したことを評価し,同協定が早期に締結されるべきことにつき意見の一致をみた。

 また,両国政府は,日本の青年海外協力隊計画に基づき協力隊員をエジプトに派遣する可能性を検討することにつき意見の一致をみた。

14.ムバラク大統領は,日本のエジプトに対する経済協力が近年順調な進展をみ,もってエジプトの経済・社会開発に対して貢献していることを評価するとともに,日本の経済協力が将来一層推進されることを希望した。

 この関連で,大統領は,中曽根総理大臣の声明を歓迎するとともに,エジプトに対する日本の経済協力に対して感謝の意を表明した。

15.両首脳は,エジプトの国家開発努力に対する民間部門からの投資の重要性に留意しつつ,両国政府が日本によるこのような投資を円滑にするために引き続き最善の努力を払うべきことに意見の一致をみた。

16.両首脳は,ムバラク大統領の今回の日本訪問が両国間の相互理解及び伝統的な友好関係の一層の増進に大いに貢献したことに深い満足の意を表明した。

 更に,両首脳は,今回のムバラク大統領の訪日の成果を踏まえて,今後あらゆる分野における両国間の協力関係を推進するために,日本・エジプト合同委員会が設置されることを歓迎した。

17.大統領は,日本訪問中に大統領及び随員一行が受けた厚遇につき天皇陛下並びに日本国政府及び日本国民に対し,深い感謝の念を表明した。

18.エジプト・アラブ共和国大統領は,日本国総理大臣に対しエジプトを訪問するよう招請した。この招請は感謝の念をもって受諾された。訪問の具体的な時期は,外交チャネルを通じて決定される。