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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アラブ諸国大使晩餐会における園田直外相の所感

[場所] 
[年月日] 1979年8月6日
[出典] 日本外交主要文書・年表(3),1116−1117頁.外務省公表集・昭和54年,88−91頁.
[備考] 
[全文]

 園田外務大臣は八月六日ホテル・オークラにてアラブ諸国(十三カ国)の大使及び臨時代理大使を招待し、晩餐会を主催した。最近アラブ諸国の間にわが国の対中東政策を網羅的に聞きたい旨の要望が強まってきたことにも鑑み、その席上別紙のわが国の中東政策に関する大臣の所感を次のとおり表明した。

 国際社会全体の平和と発展の中にその安全と繁栄を求めてきたわが国は、今やその経済的発展により国際関係の安定のため、より重要な役割と責任を担うことを世界から期待されるに至っている。このことは先般開催された東京サミット、最近の本大臣のアフリカ訪問などを通じても特にその感を深くした。世界の平和と安定にとって極めて重要な意味を持っている中東地域についても、わが国が同地域で果たし得る役割につき、現在、多大な関心が寄せられている。このような状況に鑑み、わが国としてもこの際この地域に対する政策を再確認する必要があるものと考える。

一、わが国と中近東諸国との関係は、近年、政治・貿易・経済協力・文化交流等多くの分野において緊密化している。

 わが国の対中近東貿易額は、総貿易額の二〇%に達し、また、わが国はその石油供給の約八〇%を同地域諸国より賄う一方、これら諸国の要請に応じてその国造りのための経済技術協力を積極的に推進しており、わが国と中近東諸国との相互依存関係は深まりつつある。

 このような相互依存関係を維持することにつき、わが国は中東地域において独自の関心を有しており、またわが国は、同地域に何ら政治的、イデオロギー的利害を有さず、また、歴史的にもその手が中東地域において政治的に汚れていないことから、わが国の中東政策も独自性を帯びるものである。

 また、国造りの途上にある中東諸国との関係においては、一貫した姿勢で各国の経済社会開発、民生の安定に資する協力を積み重ねるという、政策の継続性が重要と考える。

 わが国としては、上記の独自性と継続性の二つの原則に基づき、これら諸国との友好協力関係を維持増進することが肝要であると考えている。

二、わが国は、中東地域の平和と安定に関しては、深い関心を有しており、かねてから一貫して、同地域の早期和平達成を強く願っているが、この際、わが国の中東和平問題についての基本的立場を再確認したいと考える。

 第一に、中東における和平は、公正・永続的かつ包括的なものであることが不可欠である。

 エジプト・イスラエル平和条約は、この包括的和平へ向っての第一歩とならねばならない。

 第二に、このような和平は、安保理決議二四二及び三三八が早期かつ完全に履行され民族自決権を含み、かつ、国連憲章に基づくパレスチナ人の正当な権利が承認及び尊重されることにより達成されるべきである。

 第三に、パレスチナ人を含む中東地域のすべての関係諸国民の願望と域内国の正当な安全保障上の要請を考慮し、和平実現に通ずるあらゆる道が探求されるべきである。

 第四に、わが国は、独自の政策を継続しつつ、和平という共通の目標達成のため協力する用意があり、包括的解決をもたらすための関係当事者の一層断固たる努力の継続を強く希望するものである。

 さらに、具体的には早期和平の実現のためには、わが国としては、まずイスラエルによる東ジェルサレムを含む全占領地からの撤退とイスラエルとPLOが相互に相手の立場を認めることにより、PLOの和平への過程への参加の実現が不可欠であり、またイスラエルが占領地内で行っている入植地建設が違法であり、認められないとの立場をとりきたっていることを、この機会に改めて明らかにしておきたい。

三、わが国は、世界の平和と繁栄を希求し、世界全体の平和と繁栄の中に自らの平和と繁栄を求めることを基本方針としている。

 この見地から、わが国は、世界のいかなる地域においても、その地域の平和と安全が維持されることを強く望んでいる。そして、そのためには、各国がそれぞれに安定し、繁栄し、域内各国の関係が良好に維持され、そして、その地域の国々の意向に反する域外勢力の干渉を排除することが必要である。

 わが国は、現下の国際情勢の下においては、米ソの力の均衡が世界的に維持されることが、わが国のみならず世界の平和の確保のために不可欠と判断し、日米安保体制の下で米国の抑止力の維持に協力するとともに、同時に世界的な影響力を持つ米・ソ両国が相争うような事態を避けるために貢献することを外交政策の重要課題として努力している。

 中東地域についても、以上のような見地に立ってわが国として出来る限りの協力を行って行く方針である。

 また、中東地域については如何なる域外国の支配の下にもおかれるべきではないとの認識の下にこの地域を米ソ両国をはじめとする域外国の影響力をめぐっての角逐の舞台としないことを第一の目標として努力して行く考えである。米国をはじめとする各国に対してもこの考えは本大臣より伝えてある。

 本大臣としては、中東の平和と安定があくまでも域内諸国が自ら決定する方法とその努力で確保されることを心から期待し、また、これら諸国が必ずこれを全うするものであることを確信するものである。

四、わが国と中東諸国との間の関係の一層の緊密化をはかるためには、単に資源または貿易による結びつきにとどまらず、長期的視野に立って、あらゆる機会をとらえ、友好・協力の関係を広げていくことが必要であり、文化的交流や人的交流などについても今後は重点を置き、相互理解の促進に努めたいと考える。