データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 石油関係二法成立にともなう田中内閣総理大臣談話

[場所] 
[年月日] 1973年12月22日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,369−371頁.
[備考] 
[全文]

 中東紛争を契機とする石油供給削減は、欧米諸国はもとより開発途上国も含め、世界経済にかつて経験したことのない大きな影響を与えております。なかんずく、エネルギーの大半を海外の石油に依存しているわが国経済に与える影響は大きく、事態の解決のため、外交面を含め最大限の努力を続けているところであります。しかしながら、石油事情は、当面、改善がみられず、わが国経済への影響はさらに深刻になりつつあります。このような事態にかんがみ、政府としては、このたび成立をみた、石油需給適正化法と国民生活の安定緊急措置法をはじめあらゆる政策手段を活用して、石油・電力の消費節減及び配分の適正化、生活必需物資の確保及び物価の抑制等を機動的かつ効果的に実施してまいります。これらの運用にあたっては、社会混乱を防止し、正直者が馬鹿をみることのないよう、国民生活の安定に、力一杯の努力をし、各分野の負担の公平を図るとともに異常な価格の上昇、買だめ、売惜しみ等によって不当利得をうる者が生じないよう国及び地方の全行政組織をあげて厳しく対処してまいりたいと考えます。このため内閣に、国民生活安定緊急対策本部を設置いたしました。

 現在、当面している事態に関し、国民各位の理解をえておきたいことは、物資の絶対的不足に悩んだ戦中、戦後の統制経済の時代とは本質的に異なっているということであります。すなわち、石油消費の抑制といっても全体としては昭和四十七年の水準に、しばらく逆戻りするということであり、また、生活必需品については、生産段階にも流通経路にも相当量の在庫が存在しております。しかも、わが国は現在、国民総生産の約一〇パーセントを輸出しており、供給力にも余裕がありますし、また、生活必需品の緊急輸入等を行うに必要な外貨は保有しております。したがって企業等が、その社会的責任を自覚して便乗値上げ、買だめ、売り惜しみをしつつ、他方、消費者も買急ぎ、買だめ等に走ることのないようお互いに自粛するならば、今回の事態は、必ずや乗りきりうるものであります。したがって、統制手段に訴えることはできる限り回避してまいりたいと考えます。

 さらに、物価の抑制のため、政府は、総需要抑制策の一層の強化、国鉄運賃及び消費者米価の引上げ時期の延期、その他の公共料金等の抑制をはかるなど重大な決意をもって対処しております。

 石油事情の激変によってもたらされた今日の事態は、わが国の経済社会にとって、一つの転換期ともいえましょう。今後新しい豊かさを創造し、真の国民福祉を追求していくためには、思い切った発想の転換が必要であります。政府は率先して消費節減等に努めるとともに、産業構造の省エネルギー化を急ぎ、あわせて原子力の開発、水力発電の見直し、石炭その他国内資源の活用、核融合、太陽エネルギー等の新エネルギーの開発を推進してまいりたいと考えます。国民各位も、この機会に、日常生活における資源の浪費をつつしみ節約精神を定着させていただきたいと思います。

 私達はこれまでもお互いに多くの障害を乗りこえてきました。政府と国民が相たずさえて力を尽くすならば、必ずや今日の試練を克服して国民経済の混乱を未然に防ぎ、国民生活の安定を確保しうるものと確信いたします。

 国民各位の理解と協力を心からお願いいたします。