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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日韓首脳会談後の共同記者会見(要旨)

[場所] 
[年月日] 2003年6月7日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

まず、今回の盧武鉉大統領閣下の訪日に際して、韓国国内に訪問に対する懸念や一部の批判があることは承知しているが、その中で、盧武鉉大統領は、勇気ある決断をされ、訪日された。そして率直な会談が出来たことについて、喜ぶと同時に、未来に向かって、日韓両国の友好増進を図っていこうと言う盧武鉉大統領の判断、決断に敬意を表したい。

私と盧武鉉大統領とは2度目の会談だが、2月の大統領就任記念式典の会談に比べて、非常にうち解けた雰囲気で、より率直で、ざっくばらんな話合いができた。先刻合意した共同声明は、日本と韓国の新時代をより強固なものにしていくべく、日韓両国の友好関係は世界の平和のためにも重要であるという共通の認識をもつことができたと考える。

北朝鮮については、私は、韓国政府の「平和・繁栄政策」を支持している。盧武鉉大統領からは、日朝平壌宣言に基づき、核、ミサイル、拉致等の問題を包括的に解決するとの日本政府の方針を支持するという表明があった。北朝鮮の如何なる核開発計画も容認できない、北朝鮮がすべての核開発計画を速やかに廃棄することが必要であるとの考えでも一致することができた。私と大統領は、北朝鮮の核問題を平和的に解決できると確信している。米中朝間で始まった対話を維持し、将来、日韓両国が加わることが不可欠であることでも一致した。私から、外交的・平和的解決のためには「対話」と「圧力」がともに必要と指摘した。北朝鮮が更に事態を悪化させる場合には、韓国、米国、日本の三ヶ国で緊密に協議し、一層厳しく対応しなければならないという認識を持っている。北朝鮮の違法な行為の規制、取締りも厳正に対処していくとの考えを表明した。先月の韓米、日米の首脳会談に続き、日韓首脳会談を行ったことで、日韓米三ヶ国の連携はより緊密かつ強固になったと思う。一連の首脳会談で得た方向性と枠組みを受け、中国などとともに協力しながら平和的解決に向けて一層努力を傾注していきたい。

私は盧武鉉大統領の訪日を機会に、新たな時代にふさわしい日韓関係についても話し合った。率直な勇気ある盧武鉉大統領の人柄に非常な信頼感、親近感、好感を持つことができた.今後色んな分野において、盧武鉉大統領の訪問は、日本と韓国の将来に向けた協力発展に必ずつながると言う確信を持つことができた。青少年・スポーツ関係の交流を引き続き推進し、2005年には日韓国交正常化40周年を迎え、「ジャパン・コリア・フェスタ2005」という記念すべき各分野での交流行事の準備を進めているところ、相互理解と友情を深めるいい交流事業を推進したい。大統領が大衆文化の開放の拡大を決断されたことを高く評価したい。

また、日韓FTAの実現により、両国経済の緊密化と競争力の強化を図ることが可能であると思う。できるだけ早期にFTA締結交渉を開始できるよう互いに努力をしたいということでも一致した。人の往来を更に活性化させるため、金浦・羽田間の航空便の早期運航を推進。日本政府は、観光交流を更に推進したいという方針を掲げているが、この拡大に向け韓国とも緊密な協力関係を構築したい。早期の査証免除の実現に向け、修学旅行生等に対する査証免除等の措置を検討する。

今回の首脳会談を通じ、両国の友好協力関係を更に促進した。これからも促進することができると確信。日韓両国民の間の絆を揺るぎないものとしていくためにも、大統領との個人的な友情関係、信頼関係を大事にし、共同声明の実現に向け全力を尽くしたいと思っている。

【盧武鉉大統領冒頭発言】

まず、我々一行をこのように温かく迎えて下さった日本政府と国民に感謝したい。小泉総理と私は、今回の首脳会談を通じ、韓日両国間の未来志向的な関係を構築していくためのビジョンについて議論した一方で、二国間レベルを越え、北東アジア地域の平和と繁栄のための二国間協力を強化していくこととで合意し、これを共同声明として発表することになったことを非常に意義深いものと考える。

小泉総理と私は、両国が98年の韓日パートナーシップ共同宣言の精神に従い、過去の歴史を直視し、このような土台の上に21世紀の未来志向的な実質的協力関係を作っていくために、共に努力していくこととした。小泉総理と私は、今回の会談で、諸般の分野での関心事項について、幅広く虚心坦懐に意見交換を行い、協力策につき合意した。

私は、会談結果について非常に満足している。特に小泉総理にあっては、韓国政府の平和繁栄政策に対する積極的な支持の立場を再確認して下さり、当面の課題である北朝鮮の核問題の平和的解決のために韓日米三国が、緊密な連携の下、今後の方向について引き続き協議していくことで合意した点を、何よりも意味深いものと考える。先月、米国で開催された韓米首脳会談と日米首脳会談の共同声明と記者会見の内容を再確認し、北朝鮮の核問題等の諸懸案が解決される場合、国際社会の広範な支援が必要であり、可能となるであろうということで意見の一致をみた。

韓日両国間の協力策についても、小泉総理が詳しく述べられたように、我々両首脳は昨年のW杯の成功裡の共催で作られた両国の友好親善の雰囲気を活かし、韓日関係を一段階高い協力関係に発展させていくための様々な協力策について合意することとなり、非常に嬉しく考える。小泉総理と私は、青少年・スポーツ交流の活性化、各分野の次世代指導者間の交流拡大、日本の大衆文化開放拡大、韓国人に対する日本入国査証免除の早期実現、金浦・羽田間の航空便の早期運航推進、韓日FTA交渉の早期開始のための努力、観光交流の活性化、社会保障協定と関税相互支援協定の早期締結等に関し合意した。

小泉総理は、有事法制通過に関連し、これが国会で数十年間議論されてきたものであり、正当な防衛に基づくもとであり、自衛隊が海外を侵略することはありえないということを説明し、私はこれについても真摯な解明として謝意を表明した。私は、あらゆる国が防衛力を保有することは自然なことであるが、アジア周辺国の国民が警戒心を持っていることもまた否定することができない現実であることを指摘し、韓日両国が未来志向的な信頼を持って、北東アジアの平和と繁栄をもたらすことによって解決することができると言及した。

私はまた、在日韓国人に対する地方参政権付与問題について、日本政府が誠意ある対応をとることを要請した。私は、両国が、互いに対する信義と尊敬を基礎に、このような諸分野での合意事項を一つ一つ着実に履行していくことで、両国の協力が、北東アジア地域の平和と繁栄に大きく寄与するであろうと確信する。

私は、今回の首脳会談を契機に、韓日の実質的な協力関係が発展していくことであろうと確信するに至った。そして、小泉総理との友情と信頼を篤くしたことを、何よりも嬉しく考える。今後、我々両首脳は、必要時に随時、互いに緊密に協議し、積極的に協力していくこととした。会談を終えて、私の判断としてがこの席で発表した共同宣言と合意事項も大切であるが、もっと大切なことは、両首脳が全てを包み隠さず胸を開いて率直な対話を行ったということが大きな収穫であったと考える。北朝鮮問題に関して、対話と圧力はともに重要であるが、韓国側としては、対話のほうに重きをおいていることを表明したことを明らかにしておきたい。しかし、今回の会談で、将来如何なる問題が発生したとしても、今回のような率直かつ緊密な対話によって、全ての問題を解決できるという信頼感を得ることが出来たことが重要であると考えている。有難う。

【質疑応答】

【質問】北朝鮮政策について伺いたい。先の日米首脳会談では、対話と圧力の方針を確認し、北朝鮮が態度を硬化させた場合、「より強硬な措置」で望むことで合意した。これに先だって行われた米韓首脳会談で合意した「追加的措置」に比べ、より強い表現といえるが、今回の日韓首脳会談において、北朝鮮政策での日韓の違いについては、どのような話し合いがなされ、どう対処されることになったのか伺いたい。

【小泉総理】私は、韓国、日本、米国、この3国の北朝鮮問題に対する対応は基本的には一致していると考える。それは、外交的・平和的解決を追求していくこと、核開発プログラムを北朝鮮が廃棄すること、核は容認できない、日本としては核問題、ミサイル問題、拉致問題は包括的に解決していく、こうした点については、本日の会談で基本的に認識の一致をみたと考えている。違いを皆さんは強調されるが、追加的な措置であるとか、厳正な措置というものは平和的な解決に向けた手段である。圧力にしても対話にしても解決に導くための手段であり、働きかけである。こうした点で共通の認識を持てたと考えている。

【質問】大統領は、今回の訪日を前に21世紀の平和と繁栄の新北東アジア秩序の構築と未来志向的な日韓関係の定立を強調した。昨日の宮中晩餐の答辞においても「名実共に日韓パートナーシップ時代を開くべき」と強調した。しかし、両国の真のパートナーシップ関係の発展は、過去に対する正確な認識の下に可能であるという指摘がある。今まで韓国はあまりにも過去に執着し、日本は過去をあまりにも簡単に忘れてしまう傾向があるという指摘もある。過去の問題を含め、両国関係を一段階アップグレードさせるためにどのような措置が必要であると考えるか。会談の成果は何であるとお考えか。

【盧武鉉大統領】5年前の1998年に金大中大統領が日本を訪問され、日韓の新しいパートナーシップを宣言された。当時、日韓の過去の歴史については終息に向かったと言うことを表明された。韓国の大統領がこの問題に関して何らかの意思を表明する、しないということで、過去の歴史問題が終わるかどうかについて、我々は疑問を持ちうるだろう。再び過去の問題が発生し、日韓関係に何らかの支障があったということからもそう言えると思う。

今回の訪日に際し最も問題となったのは、核問題と経済問題であり、それらについて様々な話し合いがあった。また、新しい韓日関係を発展させ、新しい北東アジアの平和と繁栄の為の関係を構築する為に訪日した。従って、今回は過去の問題については触れないことを決めて訪日したので、今回は答を控えさせて頂きたい。

ただ一般論としては、過去の歴史は過去の歴史として存在しているのであり、過去の問題を解決に導くためには、どのような未来の関係を構築していくかが大切である。過去の歴史については、相互信頼をもってよりいい方向に進み、再び過ちを犯してはならないということを両国民が認識していくことで、過去の歴史は歴史の記憶として解決されていくものであろう。しかし、過去の歴史について、国民が不信感を持ったときには、大統領がなんと言おうが、歴史的事実は依然として残っていることに変わりがないと言えよう。つまり大統領の宣言で何かを求め終結すると言う物ではない。国民は未来に向けて努力して必要がある。有事法案についてもこれと同じことが言える。どの国でも防衛力は持つべきであり、それをコントロールする法的制度があるが、その法的制度が北東アジア、世界の中で受け入れられていくかは、法律の中にあるのではなく、法律を巡る環境と国家の指導者に対する信頼に依拠するものであるから、法案自体を問題視するよりは、日本が北東アジア、世界の平和のためにどのような役割を果たすのかと言ったことに関する信頼を世界に与えるという点にあるのだと思う。日本が北東アジアの平和においてどのような役割を果たしていくか、周辺国から信頼されていくことが重要であり、有事法案についても、大きな枠組みの中での日本のリーダー、国民の認識が重要である。今回の会談で、今述べてきた方向に日本が向かうことが出来ると感じた。

【質問】首脳会談で確認した北朝鮮の核開発問題の平和的解決に向け、具体的にどういう道筋を考えているのか。一方で、軍事力による解決の可能性や、国際的包囲網を構築して経済的な圧力を強めるという考え方についてはどういう立場か、首脳会談を踏まえての大統領の考え方をお聞きしたい。

【盧武鉉大統領】こうした質問にお答えするのは難しく、いつも困ってしまう。なぜなら、北朝鮮の態度や行動は状況の変化によって限りなく変わってくるものであるからである。また、日米韓の対応もそれによって変わらざるを得ない。また、北朝鮮の行動は常に前もって計画されているというよりも、日米韓の動きに依存している。国家間の行動は互いの作用によって変わりうるので、そのすべてを前提としてお答えするのは難しい。従って、平和的解決の原則に基づき、北朝鮮の選択、行動が非常に深刻な事態になったときは、次の行動を取りうるといった漠然な意思表示であり、先程小泉総理が適切に説明されたが、これは必ずしも追加的措置のための意思表明ではなく、北が対話に誠意をもって応じられるようにするための意思表明であるという側面もある。従って、ロードマップを示すというよりも、こうした大きな原則の中で、日米韓が問題解決のために協調しながら適切に対処していくということであると思う。

【質問】日本人の拉致問題の完全な解決が北朝鮮との国交正常化において前提条件となると承知しているが、日本国内の情緒と北朝鮮核問題等最近の周辺状況により、この問題が絶対的な対話の前提条件にまで拡大されたものと思われる。種々の可変的状況があるにはあるが、日本が北朝鮮との対話を再開する用意はないのか。併せて、両国間の友好関係に悪影響を及ぼしうる有事法制等の最近の日本国内の気流に対し、懸念する韓国民が多い。これに対する考え如何。

【小泉総理】拉致の問題、核の問題、これを包括的に解決することによって、日朝国交正常化はある。正常化の後に、日本としては北朝鮮に対して経済協力等を考える。この日朝平壌宣言については、盧武鉉大統領からも支持が表明されたところでありこのような基本的な方針に変わりはない。北朝鮮が挑発的な言動をする場合にも、日本、韓国さらには中国とも協力していかなければいけないと考えており、日本だけでうまくいくものではなく、各国との緊密な協力が必要である。日本としては、北朝鮮が国際社会から孤立するのではなく、国際社会と協調すること、国際社会の一員となることが北朝鮮にとってもっとも利益となるということを働きかけていかなければならない。この点については韓国とも同感であり、米についても、エビアンサミットにおける各国との協議においても、北朝鮮が国際社会の責任ある一員となることが最もプラスとなるということについて理解を得たと思っている。有事法制に関しては、韓国側に懸念があることは承知している。今回の盧武鉉大統領との会談では、この有事法制は、日本が侵略された場合の対応であって、専守防衛といった方針にはいささかの変わりもないことを申し上げた。日本国民として、日韓友好増進を図る上でも懸念を払拭し理解を得る上でも必要であるし、様々な分野での交流、国際社会で拡大している日韓間での協力によって互いの親近感を増し、信頼感を築くことで十分可能。北朝鮮についても、日韓の立場を米もよく理解している。先般の米朝中協議への韓国・日本の参加は不可欠であるという点についても意見の一致をみた。日韓の二国間関係についてはさらに強固なものとしていく。この会談を土台にして、北朝鮮に対しても、また日韓両国関係に於いても大きな意義がある。私は、盧武鉉大統領の率直な人柄に感銘を受けた。新たな日韓関係について日韓両国が確認できた良い会談だった。