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日本政治・国際関係データベース
東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室

[文書名] 大韓民国大統領盧泰愚閣下ご夫妻主催晩餐会での宮澤内閣総理大臣のスピーチ

[場所] 
[年月日] 1992年1月16日
[出典] 宮澤演説集,89−91頁.
[備考] 
[全文]

 盧泰愚大統領閣下,令夫人,並びにご列席の皆様

 私は,総理となって初めての外国訪問に,大統領閣下のご招待を受け,貴国,大韓民国を訪れることができました。心から嬉しく思います。今夕は,このように盛代な晩餐会にお招き頂き,また只今は,大統領閣下から懇切なお言葉を賜りました。一行を代表して厚く御礼申し上げます。

 私は,我が国の戦後の歩みに幾分なりとも携わってきた人間として,我が国と緊密な関係にある貴国の力強い発展に,かねてから強い関心を抱いてまいりました。本日,久しぶりに当地に降り立って,市中の目ざましい変わりようを目のあたりにし,改めてその感を深くいたしました。貴国の国民各位が,南北分断という困難を克服して,このように立派な国づくりをされましたことに,深い敬意を表します。

 また,貴国は昨年,長年の念願であった国連加盟を実現され,さらに先の南北総理会談では,南北間の和解と不可侵,交流協力が盛り込まれた合意書を採択されるなど,画期的な成果を収められました。心から祝意を表しますとともに,朝鮮半島に住むすべての方々が願っておられる平和統一が,一目も早く実現されますよう祈念いたします。

 大統領閣下

 世界は今大きな激動のさなかにあります。冷戦の解消は人類にとって新たな時代を開くための大きな前進でしたが,東西緊張のかげにひそんでいた問題が浮上し,新たな紛争も生じています。未来は楽観を許さぬものがあります。今や世界でも有力な国家となった貴国と我が国の協力関係は,そのような世界の平和と安定の重要な柱の一つです。価値観を共有する日韓両国は,両国だけでなく,アジアと世界のためにも,その協力の関係を一層深めていかなければなりません。

 このような協力の基礎として,私は,両国間の信頼関係をこれまでにも増して確固たるものとしていくことが必要だと思います。信頼関係を支えるのは,相互理解であります。その際,私たち日本国民は,まずなによりも,過去の一時期,貴国国民が我が国の行為によって耐え難い苦しみと悲しみを体験された事実を想起し,反省する気持ちを忘ないようにしなければなりません。私は,総理として改めて貴国国民に対して反省とお詫びの気持ちを申し述べたいと思います。

 大統領閣下

 私は,我が国と貴国が,相互に理解し合える土台として,文化に多くの共通点を持っていることを心強く思っています。その理由は,言うまでもなく,我が国が古来,貴国との密接な交流の中で,貴国の文化の恩恵を受けつつ,自らの文化を築いてきたことにあります。

 もとより両国の文化には共通点ばかりがある訳ではありません。多くの相違点を理解し合うことも相互理解の大切な条件であります。お互いがお互いの文化を学び,高め合うとともに,相互理解を深め,信頼関係を高めていくならば,それは,来たるべき時代を建設し,両国の協力関係を確固たるものとするための重要な糧となるに違いありません。

 私は若い頃から書に親しんでまいりましたが,書もまた,両国が共有する文化の一つであります。昔から,書は人なりと言い,書を見れば,その人の人格や奥深い心を知ることができるとされてきました。このような考え方は,貴国においても同じではないでしょうか。江戸時代,唯一の外国使節であった朝鮮通信使の一行には,貴国の秀でた文人が多数含まれていましたが,我が国の文人は,至るところで競って書画を請い,また,詩文の唱酬など華やかな交歓がなされました。言わば書は,日韓間の深い心の交わりの一つの象徴と言えるのではないかと思います。

 日本では昔から,正月に自分の願いや決意を大きく墨書する「書き初め」という習慣がございます。私は,年のはじめにあたり,また新たな時代のはじめにあたり,永きに亘る日韓友好を願いつつ,次のように書き初めを致しました。

 「至誠天に通ず」と。

 大統領閣下,並びに御列席の皆様

 私は,明後日,皆様のお世話で,貴国の古都,慶州を訪れる予定になっております。我が国の文化の故郷の一つとも言うべきこの由緒深い土地に杖を引いて,これまでの日韓の交流に思いをいたし,さらに今後の展望について思索の羽を延ばすことができるものと,今から楽しみにしております。

 それでは,最後に,盧泰愚大統領閣下,令夫人,並びに関係各位のご厚情に感謝し,皆様方のご健康とご繁栄,貴国の一層のご発展をお祈りして,杯を上げたいと思います。

 コンペ! カムサハムニダ。