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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 北朝鮮の米国及び韓国との三者会談提案文書,米合衆国政府・国会に送る書簡

[場所] 平壌
[年月日] 1984年1月10日
[出典] 外交青書28号,522ー529頁.
[備考] 
[全文]

 朝鮮民主主義人民共和国中央人民委員会・最高人民会議常設会議合同会議は朝鮮問題の平和的解決のための新たな措置を取ることについて討議,決定し,その書簡を米合衆国政府と国会上・下両院に送る。

 今日,朝鮮半島は平和か戦争かという重大な岐路に置かれている。

 朝鮮で休戦が実現されてはや30年が過ぎたが,平和の展望は日増しに暗くなり,事態は戦争前夜をほうふつさせる先鋭化した局面へと一層迫っている。

 軍事境界線を間にして双方の膨大な兵力が鋭く対峙している中で,南の方では兵力増強が続けられ,大規模な戦争演習が相次いで行われている。

 現情勢は,何らかの偶発的な些細な事件によってもいつなんどきでも戦争がぼっ発し得るほど,極度に緊張している。

 つくり出された情勢は世界人民に深い憂慮を抱かせ,戦争を防止し平和を守護するための適切な措置が取られることを差し迫って要求している。

 朝鮮民主主義人民共和国政府は朝鮮で休戦が実現された後,一貫して米国との敵対関係を終わらせるための方途を各方面から探究してきており,その一環としてすでに1974年に朝鮮民主主義人民共和国と米合衆国間に直接対話を実現して平和協定を締結する問題を提起した。

 しかし,遺憾ながら,我が方のこうした努力は今日に至るまでしかるべき呼応を得ることができなかった。

 あなた方は我が方が「南侵」をしようとしているとして,南朝鮮で絶えず兵力を増強し,戦争準備を促しており,ありもしない「南侵」を防ぐとの口実をもって世界の人民を欺まんしようとしている。

 我々は「南侵」する意思をもたず,同族が相争うことはしない。これについて我が方は一再ならず2度宣明している。我が方は常に民族の自主権と生存権を守るために全力を傾けている。日増しに激化している双方の軍事的対決状態は相互の不信と反目だけをつくり出し,戦争の危険をますます増大させている。

 今朝鮮で戦争が再発するならば,その戦争は決して朝鮮内だけにとどまらず,必ずや核戦争となるであろう。

 そうなれば,朝鮮人民ばかりか米国人民も安らかではないだろうし,全世界全体が核の惨禍を免れることができなくなるであろう。

 いま問題は,核戦争への道を引き続き走りつづけるか,そうでなければ平和の道へ立ち戻るかというように深刻に提起されている。

 諸般の事実は,いまのように先鋭化した対決状態を持続させてはあなた方が得るものは何もないということをはっきり示している。

 我が方は,いまこそ我が政府と米国政府がともに隔絶された状態から脱して、朝鮮問題の平和的な解決のための道を共同で模索する時に至っていると認める。

 活路は専ら対決でなく,当事者間の対話にあると我が方は深く信じている。

 我が方は,米国政府が心から平和を望むならば,今日,朝鮮における緊張状態の激化に責任のある他の一方である南朝鮮当局者とともに我が方と接触し,朝鮮問題を平和的に解決するための協商を行うべきであると考える。

 我が方はこのような見地から,1984年の新年を迎え,我が方と米国間の会談に南朝鮮当局者を参加させる三者会談を行うことを正式に提起することに決定した。

 三者会談を行う場所としては板門店でもよいし,また互いに便利だと認めるどこか他の場所を選択することもできよう。

 三者会談では,何よりも,朝鮮において緊張状態を緩和し,朝鮮問題の平和的解決の前提を整えるための対策的諸問題を討議すべきであろう。

 それは,朝鮮半島において軍事的対決状態がこれまでになく激化し,核戦争の危険が重く垂れ込めている現状態をそのままにしては,朝鮮問題の平和的解決について考えることさえできないからである。

 それゆえ三者会談では,朝鮮休戦協定の締結の一方であり,南朝鮮においてすべての軍事的統帥権を握っている米国と我が方の間に休戦協定に替わる平和協定を締結するという問題と,朝鮮の北と南の間に不可侵宣言を採択する問題が優先的に提起されると考える。

 平和協定には,朝鮮戦争の締結を法的に公式宣布し,休戦を強固な平和へと転換させ,すべての外国軍隊を撤収させるという問題を含めることができるであろうし,不可侵宣言には北と南が互いに相手方に反対する武力行使をせず,双方の軍隊を縮減するという問題を含めることができよう。

 三者会談では,このほかに,朝鮮において緊張状態を緩和するために米国と南朝鮮当局が提起する諸問題も包括的に協議することができよう。

 三者会談で平和協定が締結され,不可侵宣言が採択されることによって,朝鮮における緊張状態の緩和と朝鮮統一の前提条件が整った後,朝鮮の北と南の間の対話を開き,7・4南北共同声明に宣明された自主,平和統一,民族的大団結の原則に従って国の統一を実現することについての問題を論議することになるであろう。

 ここでは,全民族大会を開いて民族的大団結を図り,北と南の現存の社会・政治制度をそのままにして,地域自治制に基づく連邦制を実施することに関する問題を討議することができるであろう。

 三者会談と北と南の間の統一対話においてこれらすべての問題が成功裏に解決されるとき,朝鮮半島において恒久かつ公正な平和を保障する上に必要なすべての保証が頼もしく整えられよう。

 統一した朝鮮は,いかなる外国の軍事基地にも作戦基地にもならず,衛星国にもならないであろうし,いかなる政治・軍事的な同盟にも,ブロックにも加担しない,完全に自主的な厳正な中立国家となるであろう。

 統一した朝鮮は,国が統一される前に南朝鮮に投資された外国の資本を侵害することな

く,その利権を引き続き保障するであろうし,自主性と内政不干渉,平等と互恵,平和共存の原則に従って世界のすべての国々と友好関係を発展させていくであろう。

 このようになりさえすれば,米国はその体面と利害関係を損傷することなく朝鮮問題から名誉をもって手を引くことができ,これは朝鮮人民ばかりか米国人民の利益にも完全に合致することになるであろう。

 米国と我が方はすでに一度,戦争を行った。われわれ両国が一度争ったからといって,永遠に敵対国となっているべきでもなく,再び戦争をする必要もない。

 我が方は,米国政府が朝鮮において平和を維持し,朝鮮問題を平和的に解決することに心から関心を持って朝鮮人民の内政に干渉せず,朝鮮の統一を妨害しないならば,米国とも友好的な関係を持ち得ると考える。

 三者会談を行うことについての我が方の今回の提議は,変化した現情勢下において,最も時期適切で,妥当なものである。

 歴史的背景からみても,現実的な切迫性からみても,朝鮮問題をいつまでも未解決の状態で残しておくことはできない。

 朝鮮民主主義人民共和国中央人民委員会と最高人民会議常設会議は米合衆国政府と国会で我が方の新たな平和的発起について沈思熟考し,肯定的反応を示すものとの期待を表明する。

   朝鮮民主主義人民共和国中央人民委員会・最高人民会議常設会議合同会議