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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中曽根内閣総理大臣の韓国公式訪問に際しての日韓共同声明

[場所] ソウル
[年月日] 1983年1月12日
[出典] 外交青書27号,454−456頁.
[備考] 
[全文]

1.中曽根康弘日本国総理大臣は,夫人と共に,大韓民国政府の招請により1983年1月11日及び1月12日の両日大韓民国を公式訪問した。中曽根総理大臣の訪韓には,安倍晋太郎外務大臣,竹下登大蔵大臣,藤波孝生官房副長官,安井謙日韓議員連盟会長のほか数名の国会議員及びその他の日本国政府高官が随行した。

2.総理大臣と大統領は,極めて丁重かつ友好的な雰囲気の中で首脳会談を行い,国際情勢,両国関係及びその他の共通関心事項に関して率直な意見交換と建設的な討議を行った。

3.総理大臣と大統領は,日韓両国が自由と民主主義という共通の理念を追求する隣邦として相互に緊密な協力関係を維持発展させていくことが両国民の利益になるということにつき意見を共にした。両国首脳は,今回の総理大臣の訪韓が日本国の総理大臣による実質的に初の公式訪問であることから,1965年の両国間の国交正常化に次ぎ両国間の友好協力をさらに増進するための重要な里程標となろうということにつき意見を共にした。

4.総理大臣と大統領は,最近の国際情勢について隔意のない意見交換を行い,特に朝鮮半島における平和と安定の維持が日本を含む東アジアの平和と安定にとって緊要である点について認識を共にしつつ,この地域の平和と安定及び繁栄のため今後とも互いに協力していくことを確認した。総理大臣は,全大統領が提唱した南北当局最高責任者会談の開催提案,民族和合民主統一提案等の対話努力を支持し,朝鮮半島を取り巻く現下の厳しい情勢下において韓国の防衛努力がかかる対話努力と相まって朝鮮半島の平和維持に寄与していることを高く評価した。5.中曽根総理大臣は,韓国が第5共和国の発足以来全大統領の卓越した指導の下に政治,経済,社会等諸般の分野で着実な発展を遂げていることに敬意を表した。総理大臣は,日本が世界平和と繁栄のため,その国力に相応する役割を遂行すること及び特にアジア諸国との関係を重視していくことを表明した。大統領は,総理大臣のそのような立場を高く評価し,今後の日本の国際的役割に期待を表明した。

6.大統領は,総理大臣に1982年7月31日鎮海記者会見で全大統領が明らかにした太平洋首脳会談構想について説明し,総理大臣は,大統領の説明を多とした。両国首脳は,太平洋地域内の諸国間において深まりつつある相互依存関係及びこの地域の急速な経済的社会的発展に留意し,これらの諸国間の協力関係を進めることの必要性と重要性について認識を共にした。

7.総理大臣と大統領は,両国関係全般に関し隔意のない意見交換を行い,相互信頼と互恵平等の精神に立脚して,両国間の善隣友好関係を新しい次元で発展させなければならないということにつき意見の一致を見た。両国首脳は,政府,国会及び民間の次元における両国間の各種経路を通ずる幅広い対話と交流を活発に促進させることにより,諸分野にわたる両国間の協力が円滑になし遂げられるよう互いに努力することにした。両国首脳は,日韓間の貿易問題,在日韓国人の待遇問題,漁業問題等についても,友好協力の精神で合理的な解決を見出すために有意義な意見交換を行った。

8.総理大臣と大統領は,韓国政府の要請に基づき両国間で交渉されてきた経済協力問題に関し真摯な討議を行った。大統領は,韓国の第5次経済社会発展5か年計画を中心に韓国の経済社会発展の展望につき総理大臣に説明した。総理大臣は,右5か年計画を中心とする韓国の経済社会開発プロジェクトに対し日本の経済協力の基本方針の下に可能な限りの協力を行う意図がある旨述べると共に,具体的な協力の方途として年次ベースの長期低利の政府借款を含め各種の資金協力を進める意図を表明した。両国首脳は,その第一歩としての本年度の円借款を具体化するため早急に両国政府間で討議を行うことに合意した。

9.総理大臣と大統領は,両国間における産業技術協力の拡大が望ましいことにつき意見の一致をみた。

10.総理大臣と大統領は,国民的基盤に立脚した交流の拡大が長期的な観点から両国関係の発展にとって極めて重要であるということについて認識を同じくし,このための方途として学術,教育,スポーツ等両国間の文化交流を漸次拡大していくこととした。

11.総理大臣と大統領は,今回の総理大臣の訪韓を契機に,両国首脳間の直接的かつ迅速な対話を容易にするため,総理大臣と大統領との間の直接会話を常時可能にする電話その他の適切な回線をできる限り早期に開設することに合意した。12.中曽根総理大臣は,今回の訪韓を通じて全斗煥大統領夫妻と韓国国民が示した温かい歓待に対し深甚な敬意を表した。総理大臣は,大統領夫妻が都合の良い時期に国賓として日本を訪問するよう丁重に招請し,大統領は,この招請を喜んで受諾した。訪問時期は,今後外交経路を通じて協議し,決定することとなっ

た。