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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日韓条約締結についての北朝鮮政府声明

[場所] 平壌
[年月日] 1965年6月23日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),609‐611頁.神谷不二編「朝鮮問題戦後資料」第3巻,521‐4頁.「労働新聞」1965年6月24日.
[備考] 翻訳 玄大松
[全文]

「日本政府と朴正煕徒党間に締結された「条約」と「協定」を認めず、最後まで反対す」

 

 一九六五年六月二二日、日本政府と朴正煕徒党は、朝鮮民主主義人民共和国政府の度重なる警告と朝日両国人民と全世界平和愛好人民の強力な反対にもかかわらず、ついに犯罪的「韓日会談」を結束して「韓日基本関係条約」をはじめとする、一連の、侵略的かつ、売国的な文書を正式に調印した。

 今度の朴正煕徒党と日本政府間に締結された「条約」と「協定」は、アメリカ帝国主義が「東北アジア軍事同盟」を捏造し、朝鮮の自主的平和統一を阻害して朝鮮の分裂を永久化し、南朝鮮を植民地隷属状態に縛りつけておこうとする陰謀と策動の一環である。

 「韓日会談」の直接的操縦者はアメリカ帝国主義者である。

 アメリカ帝国主義は朝鮮戦争で惨敗を重ねていた時である一九五一年に、日本反動と南朝鮮傀儡を使嗾して「韓日会談」を開かせ、その後これを妥結させるために、あらゆる策動を尽した。

 アメリカ帝国主義は、アジアで崩れ行く植民地統治体系を収拾し、解放と民族的独立の強固化のためのこの地域の人民の闘争を絞殺し、社会主義陣営の国々に敵対する侵略戦争に日本軍国主義者たちを「突撃隊」として押し立て、それを根幹とする「東北アジア軍事同盟」を結成する目的で「韓日会談」を捏造した。

 アメリカ帝国主義によって生き返った日本軍国主義者たちは、アメリカを後ろ楯にして南朝鮮再侵略を自分たちの海外侵略の第一歩とみなしながら、「大東亜共栄圏」の昔日の夢を実現しようと「韓日会談」を成就させるために狂奔してきた。

 元来、日本軍国主義者たちは強大な勢力を後ろ盾にして海外侵略を敢行することを習性としてきた。

 すでに一九◯二年、「日英同盟」を締結した日本帝国主義は英国を後ろ楯にして海外侵略を敢行し、一九◯五年には「タフト・桂秘密協定」を結んで、アメリカ帝国主義の支援下に朝鮮を侵略し、苛酷な中世的な弾圧と略奪を敢行した。

 一九四◯年、ファシスト・ドイツおよびイタリアと軍事同盟を結んだ日本帝国主義者たちは、第二次世界大戦時に数多くのアジアの国々を強制的に占領し、この地域の人民に数えきれない災難と不幸を強要した。

 まさに、こうした日本軍国主義者たちが、今日はアメリカと結託し、「韓日会談」を結束し、またふたたびアジア再侵略の道に進んでいる。

 これは朝鮮人民と、そして日本人民を含むアジア人民と全世界の進歩的人民に対する公々然たる挑戦行為であり、アジアと世界の平和に対する重大な脅威となる。

 全朝鮮人民は米日帝国主義者のこの犯罪行為を断乎として糾弾する。

 

 <朝鮮民主主義人民共和国政府は、今度の「韓日会談」で朴正煕徒党と日本政府間に締結された「条約」と「協定」が無効であることを厳粛に宣言する。>

 日本政府と朴正煕徒党の間に調印された「条約」と「協定」は、朝日両国間の関係において歴史的に形成され、両国人民の全般的利益に関係する重大な未解決問題である。

 朝鮮民主主義人民共和国政府は、もし日本政府が朝日両国間の関係を真に朝日両国人民の利益にすべて合致するように、またアジアと世界平和の利益に合致するように、公明正大に解決しようとするならば、朝鮮人民の誰をも代表することができない朴正煕徒党と共謀の方法で解決すべきではなく、当然、朝鮮が統一された後に解決されなければならないと一貫して主張してきた。

 しかし、日本政府は、朝鮮民主主義人民共和国政府の公平にして合理的な主張を無視して、ついに朝日両国間の懸案問題を南朝鮮当局と共謀して一方的に処理してしまった。

 かくして日本帝国主義者たちは、わが国の統一を妨害して朝鮮の分裂を永久化する犯罪的陰謀策動を敢行した。

 今般調印された「対日財産請求権の解決および経済協力に関する協定」において、日本政府は、かつて日本帝国主義者たちが朝鮮で敢行した野蛮的植民地統治の結果に対する朝鮮人民の莫大な賠償請求権を朴正煕徒党にわずかの涙金を恵んでやることで取引してしまった。

 それすらも、「経済協力」というレッテルを貼ることによって、日本政府は賠償義務から逃れるだけでなく、「援助者」の仮面を被って南朝鮮にふたたび入り込み、自分たちの膨張政策を実現することのできる土台を設けた。

 

 <朝鮮人民は、日本帝国主義者が朝鮮人民に及ぼしたあらゆる人的・物的被害に対し賠償を要求する堂々たる権利を持っており、日本政府はこれを履行する法的義務がある>

 それ故に、「対日財産請求権の解決および経済協力に関する協定」を通じて日本当局と朴正煕徒党の間にやりとりされるものは、私的金銭取引に過ぎず、決して賠償金の支払いとなりえない。

 

 <朝鮮民主主義人民共和国政府は、対日賠償請求権を保有することを日本政府に重ねて警告する>

 日本政府は、「漁業協定」調印を通じ、朝鮮の伝統的漁場を独占して、大々的に水産資源を略奪し、南朝鮮海域で公々然たる海賊行為をすることができるように「合法化」した。

 朴正煕徒党は、南朝鮮百万零細漁民の生命線である広大な水域の漁場をわずか数ドルの「漁業借款」を受ける代価として日本帝国主義に売り渡したばかりでなく、日本武装船舶と航空機の南朝鮮海域への自由な出入りを保障することによって、その水域を日本帝国主義のアジア侵略のための軍事的目的の実現に任せようとしている。

 

 <朝鮮の伝統的な漁場と領海に関する問題である「漁業問題」は、朝鮮人民の自主権に属する問題であり、「韓日会談」のような売国的な取引の場で論議されえない。

 朝鮮人民は領海に対する主権と自己の漁業権を堂々と行使するであろう>

 日本当局は、朝鮮人民の領土である独島を奪おうとしており、朴正煕徒党はそれを日本軍国主義者に譲ろうとしている。

 

 <独島は誰しも侵害することのできない朝鮮人民の古来の神聖な領土である>

 日本政府は、「在日僑胞の法的地位と待遇に関する協定」によって、在日朝鮮公民を含む在日同胞に対する民族的差別と政治的迫害を加え、ひいては思い通りに追放・弾圧しようと策動している。

 この「協定」への「待遇」という文句の挿入は日本軍国主義者の狡猾な欺瞞・術策である。

 朴正煕徒党は、在日朝鮮公民の民主主義的民族権利を日本帝国主義に売り渡したばかりでなく、かれらに「韓国国籍」を強要して傀儡政権の「国内法」を適用させ、南朝鮮傀儡軍徴集の源泉としようとしている。

 これは在日朝鮮公民を四分五裂にしようとする行動であり、日本政府が在日朝鮮公民を保護する責任から抜け出、かれらを朴正煕徒党に譲り渡そうとする陰険な策動である。

 

 <日本政府は国際法と国際慣例に従い、在日朝鮮公民に対する自己の義務と道義的責任を履行しなければならず、かれらに対して相応の待遇を保障しなければならない>

 日本政府は、「韓日基本関係条約」によって、過去に朝鮮を侵略した罪過から抜け出、南朝鮮にまたふたたび入り込み、侵略の魔手を伸ばそうとしている。

 朴正煕徒党は、この「条約」と「協定」によって日本帝国主義との結託を「合法化」し、日本軍国主義者の南朝鮮再侵略と日本を支柱とする「東北アジア軍事同盟」機構を造作しようとするアメリカ帝国主義の侵略政策の実現のための基礎を築いてやった。

 今般の「韓日会談」において日本政府と朴正煕徒党の間で調印された「条約」と「協定」は徹頭徹尾侵略的であり、売国的な詐欺文書である。

 朴正煕徒党は、これらの文書に調印することによって、自己の崩れてゆく傀儡政権をどうにか維持し、私利と私欲を満たそうとする野望から、昔の主人の前に屈従と求乞を繰り返しながら、永劫に拭えない売国と背族行為を敢行した。

 朴正煕徒党こそ、乙巳五敵(訳注−日韓保護条約に同意した五人の国務大臣。売国奴の代名詞)を凌駕する極悪な売国逆賊である。

朝鮮人民は朴正煕徒党のこの売国と背族行為に沸き起こる民族憤怒を禁じることができない。

 

 <全朝鮮人民は「韓日会談」で捏造された醜悪な売国文書を炎のなかに押し込めるであろうし、第二の乙巳五敵の群れである朴正煕徒党に峻厳な審判を下すであろう>

 日本軍国主義者たちが第二次大戦の歴史的審判から教訓を求める代わりに、アジア人民の志向を蹂躙し、アメリカ帝国主義に積極的に追従して海外侵略に進むならば、かれらは東条英機と同じ悲惨な運命を免れることができないであろう。

 

 <日本政府は、朝日両国人民の全般的利益にまったく背馳し、極東とアジアの平和に脅威となる「韓日会談」の「条約」と「協定」などを即時廃棄すべきである。

 朝鮮民主主義人民共和国政府は、日本政府と朴正煕徒党との間で締結された「条約」と「協定」などを認めないであろうし、それに最後まで反対するであろう>

 今日、「韓日会談」で締結された「条約」と「協定」に反対する朝日両国人民の闘争は一層強化されつつあり、これはアジア人民と全世界人民の積極的な支持と声援を受けている。

 朝鮮民主主義人民共和国政府と全朝鮮人民は、日本人民を含むアジアと全世界平和愛好人民と固く手を取り合って、アジア人民に敵対する侵略的軍事ブロックを造作し、この地域で新しい侵略戦争を挑発しようとする米日帝国主義者の陰謀と朴正煕徒党の売国と背族行為に反対し、断固闘争するであろう。

 全朝鮮人民は、南朝鮮からアメリカ帝国主義侵略者を追い払い、祖国の統一と独立のための闘争を今後も引き続き頑強に展開するであろう。

一九六五年六月二三日 平壌