データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鄭一亨韓国外相と小坂善太郎外相との会談要録

[場所] 
[年月日] 1960年9月6日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),1043−1045頁.大韓民國外務部編「大韓民国外交年表 附主要文献1948〜1961」537−41頁.
[備考] 翻訳 玄大松
[全文]

(1) 会談日時

    1960年9月6日 午後3:30ー4:30

(2) 出席者

    韓国側……鄭 長官

         金 事務次官

         禹 政務次官

         尹 政務局長

         厳 亜洲課長

         韓麒鳳 一等書記官(通訳)

    日本側……小坂外相

         勝間田政務次官

         伊関アジア局長

         前田東北アジア課長

(3) 会談要録

小坂外相 尹大統領,張総理および外務部長官閣下の友好的態度に対し,大変嬉しく思う。

鄭長官 貴下と張勉国務総理との間の会談で,既にあらゆる重要問題が討議されたと思う。

小坂外相 同会談で,既に基礎は敷かれたと信ずる。

鄭長官 国務総理もお話ししたように,我々は民族感情を全く無視することはできないが,今後,好ましくなかった両国の過去は忘れて,平等と友好の精神で将来の関係を開拓していくのに,この会談がよい契機となるよう望む。

 過去10余年の間に,4次にわたり韓日会談を開いたが,両国指導者の誠意と熱意の不足によって,諸般の懸案問題の解決を成し遂げることができなかった。しかし,今般,韓国では張勉内閣が,日本では池田内閣がそれぞれ樹立され,韓日関係の新たな歴史を作るため真摯な努力をしているこの時,貴下の訪問は極めて意義の深いことと思う。

 韓国は,かつて3年有余の悲劇的な戦争を行ったが,自由陣営の真心からの精神的および物質的援助により,我々は今日このように復興された。日本は,韓国が望むなら,経済的,文化的または医学的な援助を提供すると言うが,我々はそれよりもまず,日本が反共自由陣営内において,支柱的な役割を果たしてくれるよう望むものである。

 貴下もご承知のように,韓国の自由国家としての歴史は短いが,共産侵略に対抗して,我々は最善を尽くして戦ったし,今後もこの闘争は継続されるであろう。我々のこうした闘争は,ある意味では日本にも利益をもたらしたであろうと考える。

 国際連合は,今日,一つの世界を目指して努力している。国際の安全と平和のために,集団的または地域的諸措置をとっている。このような時に,韓国,日本,中国,フィリピンなどの諸国家が団結して組織された体制下で共存,共栄を図ることも重要なことであると思う。

 最後に,我々両国が相互尊重と理解の精神の下で,諸々の問題を早急に解決していくことを望むものである。

小坂外相 防衛同盟の締結は,日本憲法の規定上不可能であるが,その他の面においてはあらゆる協力を惜しまない。過去,両国の誠意が足りず,あらゆる懸案問題の解決に成功を見られなかったが,今般両国に新政府が樹立され,相互尊重と信頼の心で諸般の懸案問題の解決に努めることを願い,この会談がそうした努力をなすためのよい機会となるであろうと期待するものである。

鄭長官 韓日会談について,日本側ではどのような具体的な考えをもっているのか?

伊関局長 日韓会談を開くに当たり,日本側としては各関係機関との協議と準備が必要であり,このため約1カ月が必要となろう。従って,会議の開催前に外交経路を通じて会談開催の時期に関して協議することを望む。

金次官 我々の側としても,10月中旬まで諸諸の準備をすることがあるので,10月下旬以後にしていただきたい。会議開催に関し具体的な協議事項があれば,駐日代表部を通じて連絡してほしい。

伊関局長 予備交渉なしで会談を開き,討議を進めながら問題を解決する方法もあると思う。

金次官 予備交渉なしで本会議を開き,そこで諸諸の問題を解決しようとするには,時間が切迫している。

小坂外相 日本では近い将来総選挙があるので早急に再開するには難点がある。会談時期に関しては,後日協議するのがよかろう。

鄭長官 国民はこの問題に関して大きな関心を持っている。そこで,漠然と韓日会談再開について原則的合意を見たとだけ言えば,国民は失望するのではないか?

伊関局長 予備会談は外交経路を通じて行うのか,それとも正式代表団を派遣するのか?

鄭長官 少数人員の代表団を派遣しよう。

伊関局長 日本の総選挙の関係上,選挙前には本格的な交渉は不可能であろう。

鄭長官 よく解った。

伊関局長 会談はソウルで行うのか? それとも東京で行うのか?

鄭長官 東京でよいと思う。

伊関局長 会談の名称は何とするのか?

金次官 予備会談としよう。

小坂外相 よろしい。

鄭長官 それでは,予備会談を10月下旬東京にて開催することで合意したものと理解してよいか?

小坂外相 よいと思う。

鄭長官 過去10余年にわたり数回の会談を行ったが,双方の誠意不足ですべて失敗してしまった。しかし,今後はお互いにこの問題を早急に解決するよう努力しなければならない。殊に双方がこの問題に関して誠意を持っているので,円満な解決を見ると信ずる。

 貴方と私は,ともに大学で教鞭をとったことがあるが,我々がこの機会に学者的な良識を発揮してこの問題を処理していくならば,我々個人のためにも国家のためにも,非常に有利なことであると考える。

小坂外相 この機会に一つ鄭長官にお願いしたい。というのは,韓国に日本の代表部を設置できるよう許可していただきたい。

鄭長官 代表部設置という原則には同意する。しかし,今後韓日会談の解決には,それほど時間を費さないだろうから,今代表部を設置することより,あるゆる懸案問題を早急に解決し,然る後に初めから大使館を設置するのがよろしかろう。

小坂外相 もちろん,両国の懸案問題の解決に長い時日はかからないだろうと考えるが,相互間の緊密な連絡のためにも近いうちに代表部をソウルに設置したほうがよかろう。

鄭長官 今代表部を設置することになると,国民にふたたび両国間の国交正常化が遅れるだろうという印象を与える惧れもある。

小坂外相 将来の大使館設置のための土台を築くためにも代表部の設置が必要ではないかと思う。

鄭長官 この問題に関しては,国民を納得させる時間的余裕をいただきたい。

勝間田次官 日本側の意思を韓国政府へ正確に伝達させる意味からも,代表部の設置は必要である。

伊関局長 代表部の設置のために国民を納得させる時間的余裕が必要であるなら,まず会談準備のための少数の代表だけを置いてもよい。

金次官 国民を理解させるのに,もう少し時間的余裕をいただきたい。

小坂外相 今すぐ設置させてほしいというのではない。ただ,我々の国内事情も充分に考慮してこの問題を処理していただけるよう希望する。

鄭長官 よく解った。最後に貴下一行の訪韓に対する贈物として、10月1日,新政府樹立の慶祝に当たり,韓国側は現在服役中の日本人漁夫40名を特赦して帰国させる予定であることを,この場でお知らせするものである。送還に関する具体的な細目に関しては追って連絡する。

小坂外相 貴国の好意を有難くお受けする。

追 記 新聞発表に関しては代表部設置問題には言及しないこととした。