データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日独共同記者会見

[場所] 
[年月日] 2015年3月9日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理大臣】

 メルケル首相の訪日を、日本国政府及び日本国民を代表して改めて心から歓迎いたします。

 メルケル首相とは、今から8年前にベルリンで最初の首脳会談を行って以来、とりわけ第2次安倍内閣の成立以降、G7サミット等の機会を通じて何度も会談を重ね、個人的な信頼関係を深めてきただけに、今回、日本にお迎えすることを大変楽しみにしてまいりました。

 私は、就任以来地球儀を俯瞰する外交を掲げて、これまで54の国と地域を訪問してまいりました。このことは、私なりにかなりの自負を持っておりますが、さすがに世界を股にかけるという意味においては、アンゲラには脱帽いたします。この前の17時間にわたるウクライナ情勢に関する徹夜の会談など、私以上に忙しく世界を飛び回り、各国首脳と世界の問題について議論をされています。このような観点から、本日、メルケル首相と世界のさまざまな課題について長い時間をかけて深い議論ができたことは大変有意義でありました。

 本年、ドイツはG7議長国を務めます。そして日本は、来年、ドイツからG7議長国を引き継いでいくことになります。メルケル首相はG7の首脳の中で最も長い在任期間を持ち、G7、G8の議論を主導してまいりました。来年、メルケル首相からG7議長の大役を引き継ぐことは大変光栄なことであります。

 日独両国は、「自由、民主主義、人権、法の支配」といった基本的価値を共有しています。両国は戦後、国際協調主義に立脚しつつ、一貫して平和国家としての道を歩み、国際社会で平和と繁栄を享受し、また、自ら力強く貢献してまいりました。両国は、責任あるグローバルパートナーとしてアジア、欧州のみならず、今日の国際社会が抱えるさまざまな課題に対処する上で重要な役割を担っています。

 このような認識の下、先ほどの首脳会談では、メルケル首相と時間をかけて率直な意見交換を行い、日独が共に国際社会のさまざまな課題に連携して取り組み、世界の平和と繁栄に貢献していくことを確認した、そのことは大きな成果であると思います。

 具体的には、第一にウクライナ情勢。これは、欧州という一つの地域の問題にとどまりません。グローバルな意味合いを持つ問題であり、この問題に深く関与しているメルケル首相から直接、率直な意見を聞けたことは非常に有意義でありました。アンゲラがこの問題の平和的解決に向けて尽力をしていることを高く評価いたします。エルマウ・サミットでもメルケル首相と緊密に連携、そして対応していくこと、そして、来年のG7サミットに向けても引き続き、G7の現在と次期の議長国として連携を更に深め、ウクライナの平和と安定のために積極的な役割を果たしていくことで一致いたしました。国際社会における一方的な力による現状変更の試みは許されず、国際秩序や法の支配が尊重されなければなりません。こうした観点からも、アジア地域を含む今日の国際社会が直面する厳しい安全保障環境についても、今回、議論を深めることができました。

 第二に、国連安全保障理事会の改革であります。国連創設70周年を迎えるこの歴史的好機に、安全保障理事会を21世紀にふさわしい姿に改革するため、日本とドイツがG4として協力し改革を前進させることを確認したことは、これも大きな成果であったと思います。テロ対策、軍縮、不拡散、安全保障分野、気候変動といった分野についても連携を深めていくことで一致いたしました。

 第三に、G7であります。今年エルマウで開催されるG7サミットの成功に向け、次期議長国である日本も最大限貢献していくことを約束し、その成果を引き継ぐべく連携していくことで一致いたしました。

 両国経済については、私から三本の矢の経済政策、特に三本目の矢である成長戦略、具体的には雇用制度改革や農政改革などの大改革について説明をし、メルケル首相からは、ギリシャを始めとする欧州経済について説明がありました。日独はアジア及び欧州の主要国であり、両国が二国間経済を発展させるのみならず、G7を始めとする国際場裏の場で、一層協力を深めていくことで一致をいたしました。

 加えて、日EU・EPAの2015年中の大筋合意や、高効率石炭火力の推進、IT社会の在り方を含む経済社会分野における協力の促進、日本とドイツの中堅、中小企業協力や、女性の活躍促進など、共通の課題での対話を進めていくことで一致いたしました。

 インダストリー4.0を通じて、日本とドイツで第4産業革命を起こしていく、そういう決意であります。

 さらに、日独二国間の協力を将来に向かって更に発展させていくことでも一致いたしました。具体的には、人的・知的交流の更なる発展の重要性を共有し、本年のベルリン日独センター30周年や、約150年にわたる日独交流についての巡回展覧会の開催を歓迎しました。

 本日の会談は、世界のための日独パートナーシップを更に推進していく大きな契機となりました。日独両国がアジア、欧州のみならず、今日の国際社会が抱えるさまざまな課題に対し、国際社会の取組を主導するグローバルパートナーとして緊密に協力していくことをアンゲラとの間で確認することができ、大変有意義でありました。

 我が国は、今後とも国際協調主義に基づく積極的平和主義の考えの下、ドイツとこれまで以上に連携を強化し、国際社会への平和と繁栄に一層積極的に貢献していく考えであります。

(内閣広報官)

それでは、メルケル首相、御発言をお願いいたします。

【メルケル首相】

 安倍晋三総理にこのように温かく迎えていただいたことを、大変嬉しく存じております。

 確かにこの数年、度々お目にかかり話し、そして協力する機会をもってきました。独日関係の重要性にふさわしい緊密性をもってきました。日本は、アジアにおけるまさに我々のパートナーそのものであります。その証左として、非常にさまざまな姉妹都市交流、600にも及ぶ大学間交流、或いはベルリン独日センターの30周年記念といったことがあります。そして、独日外交関係樹立から150周年を祝っております。このような関係というのは、グローバル化の中で大変重要な二国間関係であります。

 今回、さまざまな二国間のテーマについて、お話ししました。

 間もなく、東日本大震災から4年を迎えます。ドイツは、日本の皆様の運命に心を痛めました。ただ同時に、自己規律心と公共心をもって、この大変な運命を克服された姿に感銘を受けました。

 また、エネルギー効率、エネルギーの安定供給ということについても、協力を緊密化しており、COP21に向けて協力を緊密化していこうということになりました。ドイツと日本の間の協力を緊密化していく非常によい機会であります。

 経済協力という点においても、今回、私は経済ミッションを同行してまいりましたが、正に経済分野での協力を拡大してまいりたいと思っております。今朝は、日本の研究者の方とお話をいたしましたが、若手の研究者、年配の研究者、そして学生の方々にドイツに来ていただきたいと考えております。

 「グローバル化」というのは、お互いによく知り合うことであると思います。そうした関係の上に、協力と国際関係を積み上げていければと思います。独日両国は、価値を共有する関係であります。ウクライナの問題でも、ただ今お話がありましたとおり、緊密な協力を行っています。領土の一体性を武力によって変更するということは、許されてはなりません。欧州、日本そして米国は、致し方なく制裁を発動することになりました。また、イランやシリア、その他の国の関係に関しても、大変緊密に政策調整を行っています。

 テロに対する対応、とりわけISILに対する対応も協力しております。二人の日本人の方が犠牲になられたことに大変心を痛めました。そして、G7において、アフリカの国々との対話においても、このテロの問題は重要な問題になります。アルカイダだけではなくボコ・ハラムなども含めた対策を行っていかなくてはなりません。テロのこうした動きにより、危険度は増しております。

 G7に関してですが、独日には重点の置き方に共通点があります。今年9月のパリにおける温暖化防止会議に向けた重点化、それから、とりわけ先進国における女性の独立性向上を推進していくこと、といったことです。日本がG7議長国を務める中においても、そうした取組を続けてくださるとの話がありました。

 また、医療についてですが、エボラ出血熱の経験から見て、我々がいかに傷つきやすいかということを学びました。本来であれば、はるかに迅速な対応が要求される訳であります。

 また、海洋ごみの問題、深海の資源開発、更にはサプライチェーンの労働基準遵守といったことも重点化してまいりたいと思っております。こうしたテーマを、日本がG7で議長国を務める中においても、引き続き扱っていただけるものと思っております。

 さて、両国は、少子高齢化を共通の課題として抱えています。女性がその中で、どのように職業と家庭を両立していくのか、ということがあります。

 さらに、日本は、ロボティクスにおいてリードする技術を誇っております。我々は、デジタル化をより一層推進するということで、取組を進めています。これは、インダストリー4.0などにもつながっております。

 さらには、我々の社会保障体制をより未来に向けたものにしていかなくてはなりませんので、この点についても対話を続けていきたいと思っております。首脳レベルだけでなく、外務大臣、厚生労働大臣、保険担当大臣、防衛大臣といったさまざまなところで交流を続けていきたいと思っています。

 安倍総理大臣におかれては、本当にありがとうございました。本日は、非常に緊密な対話を行わせていただき、独日の関係にとって大変よき日となったと思います。

(内閣広報官)

 ありがとうございました。

 日本のプレス、それからドイツのプレスの皆さんから、それぞれ2問ずつ質問をお受けいたします。日本側から始めて、続いてドイツ側のプレスの質問になります。

 日本側の質問者は、私が指名いたします。ドイツ側の質問者につきましては、ザイベルト政府報道官が指名をされます。

 それでは、初めに日本側の記者の方、御質問の方、挙手をお願いいたします。どうぞ。

(記者)

 日本経済新聞の中山と申します。よろしくお願いします。

 ウクライナ情勢について、安倍総理に御質問させていただきます。

 今の情勢について、改善しなければイギリスや米国はロシアへの制裁を強めるべきだという立場を示していますが、今回のメルケル首相との会談を踏まえて、日本としてはこの制裁強化については今後どのように対応していくおつもりがあるでしょうか。

 また、ロシアとの今後の対話については、日本は来年の次期サミット議長国ですが、ロシアのサミットへの復帰の見通し、また、今年5月にモスクワで予定されている対独戦勝記念式典への出席についてはどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

(安倍総理)

 ウクライナ問題は、今回のこの首脳会談において大変重要なテーマでありまして、また、G7のサミットにおきましても主要な議題になるわけでありまして、じっくりと時間をかけて状況等について率直な意見交換を行いました。ロシアに対する処置については、日本としてドイツを始めとするG7との連携を重視しつつ、今後の情勢の推移を踏まえ、総合的な観点から適切に対応していきます。

 G8へのロシアの復帰についてでありますが、現下のウクライナ情勢に鑑みれば、ロシアを含めたG8で意味のある議論を行える環境にはないと言えます。ロシア自身も、この点は認識していると考えています。同時に、ロシアとの対話を引き続き追求していくことは重要であり、停戦合意の完全履行など、ウクライナ問題の外交的・平和的解決に向けて、ロシアが建設的役割を果たすよう、メルケル首相と共に強く求めていく考えであります。

(ザイベルト政府報道官)

 シュトゥットガルト新聞のケイファーさんお願いします。

(記者)

 (メルケル)首相、さきほどユーロ圏についてもお話しになりました。先ほど、安倍総理もそれについて言及されました。EU委員長が「ギリシャの離脱はない。」いうような発言をこの週末行いましたけれども、いかがでしょうか。

(メルケル首相)

 私は何度も、もう申し上げておりますけれども、また繰り返します。我々は、もちろんギリシャがユーロ圏に留まってほしい、というふうに、この目標のため取り組んでおります。何年もそれを続けてきています。ただ、二つの物事には両面がありまして、一面においてはEUパートナーとの連帯、他方においては改革を行わなければならない、責務を果たしていかなくてはならない、ということです。ここにおいては、まだまだ、やることが残っているということを言わなければなりません。

(内閣広報官)

 再び日本側の方。はい。どうぞ。

(記者)

 時事通信社の高橋と申します。メルケル首相に質問いたします。

 今年は、戦後70年の節目に当たります。日本もドイツも、第二次大戦の敗戦国というところでは共通しております。両国とも、周辺の国々との和解にこれまで取り組んできておりまして、ドイツが周辺の国々と和解に努力されてきたことは、日本人には広く知られております。

 現在、日本は中国それから韓国との間で、歴史認識などをめぐりまして対立点も残っております。ドイツの御経験、御教訓に照らして、日本が今後、中国や韓国とどのように関係を改善していったらいいのでしょうか。その辺のお考えをお聞かせください。

(メルケル首相)

 私は、日本に対して、アドバイスを申し上げるために参ったわけではありません。私には、戦後、ドイツが何をしたかということについて、お話することしかできません。戦後、ドイツではどのように過去の総括を行うのか、どのように恐ろしい所業に対応するのかについて、非常につっこんだ議論が行われてきました。ナチスとホロコーストは、我々が担わなければならない重い罪です。その意味で、この過去の総括というのは、やはり和解のための前提の一部分でした。一方で、和解には2つの側面があります。ドイツの場合は、例えばフランスが、第二次世界大戦後、ドイツに歩み寄る用意がありました。ですからEUがあるわけです。今日、EUがあるのは、こうした和解の仕事があったからですが、その背景として、ヨーロッパの人々は、数百年にわたって戦争を経験した後、一つになることを求めたという事実があります。本当に幸運なことに、我々は、こうした統合を行うことができ、安定した平和的秩序を得ることができました。ウクライナの領土の一体性に対して厳しく対応しなければならないのは、そうした背景もあるのです。一方で、進む道については、各国がそれぞれ自ら見つけなければならないと思っています。先程述べたとおり、自分にできることは、ドイツの場合についてお話しすることだけであり、今、短く、それをいたしました。

(ザイベルト政府報道官)

 ライヒャットさん、ZDFです。

(記者)

 安倍総理に御質問です。ドイツは、福島の事故を受け、脱原発をしました。日本では、多数、脱原発を希望していると聞いていています。なぜ、また再稼働を考えておられるのでしょうか。日本は、今、原子力エネルギーがなければ、エネルギー供給が成り立たないとお考えなのでしょうか。

(安倍総理)

 日本においては、かつてエネルギーの3分の1、30%強を原子力発電が担っておりました。それが現在、突然止まった中において、我々は石油、そして石炭、ガスといった化石燃料に頼っているわけであります。残念ながらまだ、再生可能エネルギーは、全力を挙げてこの再生可能エネルギーの発電量を増やす努力はしておりますが、まだまだわずかである中において、私は国民に対して低廉で安定的なエネルギーを供給していくという責任を果たしていかなければなりません。

 同時にまた、CO2がどんどん排出をされているという状況も変えていかなければならない中において、世界で最も厳しい基準を、独立した原子力規制委員会が決めた厳しい基準をクリアしたと原子力規制委員会が判断したものについては、これは科学的見地から決めていくわけでありますが、再稼働をしていきたいと、このように思っています。

(内閣広報官)

 それでは、以上をもちまして日独両首相によります共同記者会見を終わらせていただきます。御協力ありがとうございました。