データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本・ウズベキスタン共和国共同声明

[場所] 
[年月日] 2011年2月9日
[出典] 首相官邸
[備考] 仮訳
[全文]

 イスラム・アブドゥガニエヴィッチ・カリモフ・ウズベキスタン共和国大統領は、日本国政府の招待により、2011年2月8日から10日までの日程で日本国を公式訪問し、菅直人日本国内閣総理大臣と会談した。

 菅日本国内閣総理大臣とカリモフ・ウズベキスタン共和国大統領(以下、「双方」という。)は、幅広い分野において未来志向の意見交換を行い、両国関係全般の更なる深化に向けて、以下の共同声明を発出した。

I.両国関係の戦略的重要性

1.双方は、1992年の外交関係開設以来、両国の友好関係が弛みなく発展してきたことを満足の意をもって確認するとともに、2002年7月29日の日本国とウズベキスタン共和国との間における友好、戦略的パートナーシップと協力に関する共同声明を基礎として、両国の戦略的パートナーシップ関係が着実に発展してきたことを認識し、2012年の両国の外交関係樹立20周年を迎えるに当たり、幅広い分野における協力関係の強化、交流の拡大、相互訪問の更なる活発化を通じて、両国関係を更に高い段階へ引き上げる意向を表明した。

2.日本側は、欧州、アジア、中東地域を結ぶ「文明の十字路」である中央アジア地域の中心に位置するウズベキスタンが、同地域の平和と発展、ひいてはユーラシア大陸全体の安定と繁栄にとっての地政学上の要となる国であることを再確認するとともに、特に近年、ウズベキスタンが中央アジア及びその周辺地域の安定において果たす役割及び責任の重要性が一層増しているとの認識を表明した。この関連で、日本側は、2010年6月のキルギス南部での衝突の拡大防止のためのウズベキスタンの努力を評価した。双方は、独立国際調査委員会による調査が行われたことを歓迎すると共に、こうした事態が繰り返されてはならないとの強い決意を共有し、中央アジア地域全体の安定と発展の重要性を再確認した。

3.ウズベキスタン側は、1991年の独立から20周年を迎え、世界における不安定な金融経済状況下で持続的な経済成長とダイナミックな発展を遂げつつある同国が、更なる社会・経済的発展を実現し、安定と繁栄を達成していく上で、日本との間の互恵的な協力関係を幅広い分野において一層緊密化していくことが重要であるとの認識を表明した。

4.双方は、相互の関心の高まりを認識し、伝統的に友好と信頼及び互恵関係に基づく両国関係が有する潜在力を最大限に発揮し、政治、経済、文化、科学技術、教育を含む様々な分野において戦略的パートナーシップに基づく両国間の協力関係を新たな高みに引き上げるために、今回のカリモフ大統領の訪日は絶好の契機となるとの確信を表明した。

II.政治分野における協力

1.【外務省間協力】双方は、ハイレベルを含む様々なレベルにおいて両国間の要人往来や政治対話が活発に進展していることに満足の意を表明すると共に、地域的・国際的な諸問題及び二国間関係についてより幅広く両国間の政策を協議し、相互の関心分野における協調を図ることを目的として、日本・ウズベキスタン両国の外務省間協力に関する覚書が署名されたことを歓迎した。

2.【議会間交流の発展】ウズベキスタン側は、日本側の対ウズベキスタン友好議員連盟が二国間関係の発展に果たしてきた大きな役割を強調し、感謝の意を表明した。これに関連して、双方は、2010年12月、ハイレベルの議会代表団による訪日の機会に、両国議員連盟間の交流行事が開催されたことを歓迎すると共に、これを契機として、今後、両国の議会間協力が一層発展することへの期待を表明した。

3.【普遍的価値の実現】双方は、両国の協力関係の更なる緊密化を図る上で、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済といった普遍的価値の実現を追求することが重要との認識を改めて確認した。これに関連し、日本側は、近年のウズベキスタン側の漸進的な改革の成果を認めつつ、同国における民主主義と経済改革に向けた更なる取組が成功裡に進展することへの期待を表明した。

4.【「中央アジア+日本」対話】双方は、「中央アジア+日本」対話が、日本と中央アジア諸国との間の協力及び中央アジアにおける地域内協力の促進に資する有益な枠組みであることを確認した。双方は、2010年8月にタシケントで開催された「中央アジア+日本」対話第3回外相会合において決定された互恵的な協力の方向性に基づいて引き続き協力していく意向を表明した。

5.【地域安全保障】地域の安全保障に関し、双方は、中央アジア及びその周辺地域に依然として存在するテロリズム及び暴力的過激主義、麻薬取引・武器密輸等の国際組織犯罪及びその他の脅威を防止するには、地域の安全保障の強化に取り組むことが急務であるとの認識を共有するとともに、この問題で両国が引き続き協力していくことの重要性を確認した。これに関連し、ウズベキスタン側は、日本による国境管理能力強化に資する支援を高く評価するとともに、中央アジア地域の安全保障の強化に向けた日本の一層のプレゼンス向上に期待を表明した。

【地域的課題】日本側は、広く認められた国際法の原則に基づき、全ての関係国の利益を考慮して、中央アジア地域の水資源の利用問題を含む地域問題に取り組むウズベキスタンの高い意欲を確認した。こうした諸問題に関し、双方は、地域の全ての当事国間による合意形成努力を促進することの重要性を確認した。

III.経済分野における協力

1.【総論】双方は、強固な経済的結びつきが二国間関係全体を発展させるために重要との認識を共有し、両国間の貿易・投資を強化するために一層の努力を傾注する意向を表明した。

2.【ビジネス環境改善】また、双方は、輸出入手続きを含め、ビジネス環境の継続的な改善の必要性を確認した。ウズベキスタン側は、近年、経済成長を遂げつつある同国にとり、更なる経済的発展のための最も重要な課題の一つは、日本からの投資の誘致及び企業進出とそれに伴う技術移転による産業構造の近代化であることを強調しつつ、同国における日本企業の活動を高く評価し、日本からの投資の更なる拡大と両国ビジネス関係の一層の緊密化に対する期待を表明した。

3.【鉱物資源開発】双方は、将来の産業発展にとっての鉱物資源の重要性を認識し、現在共同して実施している探鉱を含め、鉱物資源を契機とした産業発展に向けた両国間の協力を促進することが重要との認識を共有し、同分野に関心を有する日本企業の参加に向けて共同で努力する意向を表明した。

 双方は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とウズベキスタン共和国地質・鉱物資源国家委員会(GOSCOMGEOLOGY)との間で、ウズベキスタンにおけるウラン鉱床の探査及び開発協力に関する覚書が署名されたことを歓迎するとともに、今後、ウズベキスタンにおける平和利用を目的としたウラン資源開発の分野において両国が多角的な協力を積極的に進展させることが相互に有益であることにつき共通の認識に達した。

4.【政府開発援助(ODA)】ウズベキスタン側は、日本の政府開発援助(ODA)によるウズベキスタンの市場経済化促進、インフラ整備、制度整備、教育及び医療分野の人材育成に対する感謝の意を表明すると同時に、プロジェクトの円滑な実施に向け最大限の協力を行う決意を改めて表明した。ウズベキスタン側は、実施機関である国際協力機構(JICA)の同国における活発な活動を高く評価した。これに対し、日本側は、引き続きウズベキスタンのニーズを踏まえた効率的な支援を実施していく意向を表明した。

5.【円借款】円借款に関し、日本側は、2004年に円借款を供与した「タシクザール・クムクルガン鉄道新線建設計画」に続き、同区間を含むカルシ-テルメズの総延長325㎞の鉄道区間の輸送時間の短縮、輸送コストの減少、輸送量の増加に寄与し、域内貿易の促進、ひいてはアフガニスタンへの民生物資の輸送にも資する「カルシ-テルメズ鉄道電化計画」の実施に向けて180.67億円を上限とする円借款を供与する意向を表明した。

6.【草の根・人間の安全保障無償】日本側は、ウズベキスタン国民の生活水準の向上及び持続的な開発等を引き続き支援するため、ウズベキスタン各地の学校における教育環境改善を目的とする機材整備、医療機関における機材整備及び農村における灌漑・排水システム改善のための機材整備等に対する計18件の草の根・人間の安全保障無償資金協力を本年度に実施する意向を表明した。

7.【アラル海問題】双方は、アラル海域における環境状態の悪化が、引き続き地域住民の生活に深刻な被害をもたらしていることを認識し、日本のイニシアティブの下で設立された国連人間の安全保障基金を通じた「アラル海災害の影響を受けた生計の維持」プロジェクトの支援への意向表明に向けた手続が国際機関において進展していることを歓迎した。

 双方は、アラル海域問題のような複合的要因を抱える課題に対処するためには、政府や地方自治体、国際機関、NGO等の連携や分野横断的なアプローチを重視する人間の安全保障の概念が有効であることを確認し、その普及・実現に向け協力していくことで一致した。

8.【日本人材開発センター】ウズベキスタン側は、日本人材開発センター事業の活動が様々な分野でウズベキスタンの人材育成に貢献していることを高く評価した。ウズベキスタン共和国が2011年を小規模ビジネス及び私企業活動の年と発表したことに関連し、双方は、ウズベキスタンにおける中小企業(SME)の育成・支援のため、日本人材開発センターがウズベキスタン商工会議所等と共同でSME支援協力を開始することの可能性につき検討することで一致した。

9.【JETRO】双方は、日本貿易振興機構(JETRO)のウズベキスタンにおける活動を高く評価し、開設から10周年を迎えるタシケント事務所が、日本・ウズベキスタン両国の貿易投資関係の発展において大きな役割を果たしていることを確認した。

10.【ROTOBO】双方は、(社)ロシアNIS貿易会(ROTOBO)が、日本・ウズベキスタン経済委員会日本側事務局及び「日本ウズベキスタン投資環境整備ネットワーク」事務局として果たしてきた役割を高く評価し、その活動が日本・ウズベキスタン両国の貿易投資関係の更なる発展に貢献することへの期待を共有した。

11.【経済委員会】双方は、日本・ウズベキスタン及びウズベキスタン日本両経済委員会が果たしてきた役割に満足の意を表明するとともに、2月8日に開催された第10回日本・ウズベキスタン経済合同会議の成果を高く評価した。また、双方は、貿易投資環境の一層の整備をはじめとする様々な分野における協力に関して、更に幅広いレベルによる協議を行う可能性につき検討することで一致した。

12.【ビジネス形成】双方は、2009年9月、日本・ウズベキスタン投資協定が発効し、2010年4月には東京において国際コンフェレンスが成功裡に開催される等、二国間経済関係が着実に強化されつつあることを歓迎するとともに、今後、「中央アジア+日本」対話の枠組み等も利用しつつ、両国企業間の投資・ビジネス案件の形成への支援を継続していく意図を表明した。

13.【省エネルギー】双方は、自然環境を保護しつつエネルギーの安定供給を確保するため、省エネルギー、再生可能エネルギー及び代替エネルギー分野における両国間の協力が重要との認識を確認した。この観点から、双方は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とウズベキスタン政府との間で実施されている、ウズベク・エネルゴ社タシケント熱併給発電所における省エネルギー化モデル導入事業の進捗を歓迎し、同事業の成功裡の実施のために継続的な支援を行う意向を表明した。また、双方は、ウズベキスタンにおける日本企業によるクリーン開発メカニズム(CDM)事業の進展を歓迎した。

14.【情報通信】ウズベキスタン側は、日本側が優れた技術を有する情報通信技術(ICT)等の分野における両国間の協力につき関心を表明した。

15.【協力の法的枠組み】双方は、航空協定、技術協力協定及び投資協定が相互に発効したことを高く評価すると共に、今後とも両国関係の発展に向けて具体的な協力実績を積み重ねつつ、実務的な必要に照らして、その他の分野で法的基盤を更に整備する必要性について検討していく意図を確認した。

 双方は、両国間で税関分野における相互協力に関する協定を作成することの可能性につき、当局間での協議を継続する意図を確認した。

16,【当局間協力】双方は、日本国経済産業省とウズベキスタン共和国対外経済関係・投資・貿易省との間で貿易投資拡大のための協力に関する覚書が署名されたことを歓迎した。

IV.国際場裡における協力

1.【アフガニスタン復興支援】双方は、アフガニスタンの安定・復興が地域と国際社会の安定にとって不可欠であるとの観点の下、引き続き、同国支援に対するコミットメントを表明した。双方は、アフガニスタンのオーナーシップの向上及びガバナンスをはじめとした民生部門の能力向上に対する双方の支援を高く評価するとともに、今後同分野において協力していく可能性につき検討していくことを表明した。

2.【対テロ対策】双方は、あらゆる形態のテロリズムを強く非難し、テロ情報の共有、テロ対策能力向上支援等を通じたテロとの闘いにおける協力の強化、国連を含む多国間の枠組みでの協力を促進する意向を表明した。日本側は、ウズベキスタンの金融活動作業部会(FATF)勧告履行に係る近時の取組を歓迎した。

3.【安保理改革】双方は、国連安全保障理事会の代表性、実効性及び透明性をより向上させる重要性を強調し、そのための常任・非常任議席双方の拡大を含む安保理改革を早期に実現するため、両国間で密接な協力を維持することの必要性を確認した。これに関連し、ウズベキスタン側は、日本の安全保障理事会常任理事国入りに対し支持を表明し、日本側はこれに対し謝意を表明した。

4.【北朝鮮】双方は、北朝鮮の核開発に関し、2005年の六者会合共同声明及び関連安保理決議に基づく朝鮮半島の非核化を実現することの必要性を強調した。双方は、安保理決議第1718号及び1874号を着実に履行することの重要性を改めて表明した。また、双方は昨年11月の延坪島砲撃を含む北朝鮮による行為に対する深刻な懸念を表明した。さらに、双方は、北朝鮮が、国際社会が有する人道上の懸念に対処することが必要であることを再確認した。

5.【気候変動】双方は、気候変動問題を解決する喫緊の必要性を確認し、国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP)で採択されたカンクン合意は主要国を含む公平で実効的な新たな国際枠組みの構築につながる大きな成果と認識するとともに、カンクン合意を踏まえ、新しい一つの包括的な法的文書の早急な採択という最終目標を目指すことが必要不可欠であるという考えを共有した。双方は、南アフリカでのCOP17の成功に向け、建設的に協働していく決意を確認した。

VI.人的交流の促進{VIは原文のママ}

1.【総論】双方は、両国間の相互理解の増進及び幅広い分野における更なる交流の強化に向け、両国間の人的交流を一層促進することが重要との認識を確認し、文化、科学技術、教育、観光、スポーツその他の分野における交流を拡大していくことの重要性を再確認した。

2.【文化遺産保存】双方は、ウズベキスタンにおける文化遺産、特に古代仏教遺跡の発掘・保存等、考古学分野における両国の活発な協力が長年に亘り継続されてきたことを満足の意をもって確認するとともに、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金により、シルクロード世界遺産推薦に関する文化遺産ドキュメンテーション支援事業が2010年11月に開始したこと、及び、2010年、日本及びウズベキスタンにおいて、20年間に亘る両国の研究者間の交流を記念し、共同研究活動の成果を紹介する国際シンポジウム、伝統音楽フェスティバル等の文化交流行事が開催されたことを歓迎した。これに関連し、ウズベキスタン側は、同分野における日本側との今後の更なる協力に対する期待を表明した。

3.【科学技術】双方は、両国間で科学・技術協力分野における協力を推進していくことの重要性を指摘し、2010年10月、日本の自然科学研究機構生理学研究所(NIPS)とウズベキスタン科学アカデミー生理学・生物物理学研究所(IPB)との間で、また、同年12月、日本の自然科学研究機構(NINS)とウズベキスタン国立大学との間で、それぞれ共同研究の推進、研究者及び学生の交流、学術情報及び資料の交換等を目的とする国際学術交流協定が締結されたことを歓迎した。

4.【大学間交流】双方は、近年の両国大学間交流の進展を歓迎するとともに、両国の教育・学術分野における交流を更に促進するため、引き続き必要な支援を行う意向を表明した。これに関連し、双方は、2010年3月、日本国文部科学省国際化拠点整備事業(グローバル30)の枠組みで、ウズベキスタンと日本との留学生交流活動を促進することを目的とする海外大学共同利用事務所として、タシケントに「名古屋大学ウズベキスタン事務所」が開設されたことを歓迎し、今後、同事務所の活動により、両国間の留学生交流・青年間交流が一層活発化することへの期待を表明した。

5.【姉妹都市交流】双方は、二国間関係を更に堅固なものとしていく上で、国家間に加え、地域レベル、地方レベルにおける市民社会組織間、NGO間、地方自治体間等の交流を含む多様かつ重層的な市民交流関係を構築することが重要との共通の認識を表明した。これに関連し、双方は、シルクロードの東端に位置し、2010年に平城遷都1300年を迎えた奈良市と、シルクロード上の古代仏教都市であるテルメズ市との間のパートナーシップ関係の締結を目指し、奈良大学内に「奈良ウズベキスタン友好協会」が設立されたことを歓迎した。

6.【外交関係樹立20周年】双方は、日本とウズベキスタンとの間の外交関係樹立20周年という節目を迎える2012年に、両国民の互いへの関心及び親近感を増進し、相互理解を更に促進するため、広報文化交流の分野でも協力していくことで一致した。

 カリモフ・ウズベキスタン共和国大統領は、温かい歓迎に感謝の意を表すると共に、菅直人日本国総理大臣に対し、双方にとり都合の良い時期にウズベキスタンを訪問するよう招待した。日本国内閣総理大臣は、これに対し感謝の意を表明した。

 日本国内閣総理大臣

  菅直人

 ウズベキスタン共和国大統領

  イスラム・カリモフ