データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] べレゴヴォワ首相主催昼食会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1992年4月29日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,99−100頁.
[備考] 
[全文]

 べレゴヴォワ首相閣下、並びに御列席の皆様

 本日は、ベレゴヴォワ首相閣下はじめ皆様ご多忙の中、かくも心温まるおもてなしを頂き厚く御礼申し上げます。また、首相閣下がただ今おっしゃいましたように、さきほど日仏友好関係増進のために実に建設的な意見交換を行うことができました。

 べレゴヴォワ首相閣下とはお互い大蔵大臣としてしばしばお目にかかっておりました頃に、世界経済の運営についてともに知恵を絞り、力を合わせていたことを今でもなつかしく思い出します。首相関下が経済運営の達人であったことは、フランス・フランの安定、低いインフレ率、健全な財政等によって、フランスがEC経済・通貨統合のための条件を満たしているEC加盟国内の数少ない国の一つであることからも明らかであります。

 さて、はからずも今年は既にニ回も旧友べレゴヴォワ閣下とお目にかかる機会を得、真に喜ばしく存じております。国と国の関係におきましては、まさにべレゴヴォワ閣下が本年一月の訪日の際におっしゃった通り、双方の国民が相手を良く知ろうとすることが重要であります。日仏両国のようにそれぞれが長い歴史と文化・文明を有している国民同士は、共に相手から学びながら、自己を高めていくことができると信じております。

 我が国の古い和歌に、「あい見ての後の心にくらぶれば、背はものを思わざりけり」という恋歌があります。これは現代の国際関係にもあてはまるのではないでしょうか。そのためには国民が幅広く交流することが重要であり、その意味でもこうしてお目にかかって意見交換をする機会が多いこと自体が相互理解の増進につながるものと存じます。

 こうして世界のことを考えますと、私は、冷戦構造が崩れた今まさに「新しい世界平和の秩序を構築する時代」が始まっていると考えております。その中で私どもは、「平和」、「自由」、「繁栄」を大きな目標として努力しなければなりません。もとより、日本はこのために大いに貢献いたします。考えてみますれば、冷戦後の世界においてはこれまで軍備に使われてきたエネルギーや資源の大きな部分が開放されましたが、これをいわば「平和の配当」として人々の幸福のために役立てねばなりません。我が国は、このためにこそ軍備管理・軍縮に力を注いでいるのであり、また国連に大きな期待を抱きつつその機能強化に努め、さらに「南」の友人たちがこの平和の配当を正当に受け取れるためにも南北問題に正面から取り組んでいるのであります。日本は、世界最大の関発援助供与国でありますが、それは単に金を出すという話ではなく、その根底にはただ今申し上げたような信念、誠意そして連帯感があることを是非とも皆様にご理解頂きたいと存じます。

 さて、貴国に目を転じますと、ミッテラン大統領閣下の御指導の下にEC統合を推進しつつ、より良い未来の建設にとりくんでおられます。社会の発展について、フランスの方々は豊富な知恵をお持ちでいらっしゃるので、私はその成功を信じてやみません。

 ここに、首相閣下、ご列席の皆様をはじめ、フランス国民の皆様方が健康にめぐまれ、フランス大革命が世界にもたらした「自由」のうちに、平和を享受しつつ、一層繁栄されるようお祈りしつつ、日仏両国国民の友情のために盃をあげたいと存じます。

 乾杯。