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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フラニッキー・オーストリア首相歓迎夕食会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1989年10月5日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,312−313頁.
[備考] 
[全文]

 フラニッキー首相閣下、

 シュトライヒャー公共経済・運輸大臣閣下並びにご列席の皆さま、

 本日、遠路はるばる我が国を公式にご訪問されたフラニッキー首相閣下ご一行をお迎えしてささやかな夕食会を催す機会を得ましたことは、私にとってこの上ない喜びであります。

 実は、私は貴国とは比較的長い付き合いでありまして、本日、首相閣下ご一行を昼食にお招きした日墺友好議員連盟のメンバーもつとめておりますし、これまで、何度も貴国を訪問しておりますが、昨年も、夫婦で貴国を訪れ、メルビッシュの湖上オペラやバーデンのオペラを鑑賞する機会に恵まれ、大変楽しんでまいりました。

 さて、日墺間の二国間関係は、一八七三年(明治六年)に我が国からウィーン万国博覧会に使節団が送られた時に遡る非常に永年の関係であり、それ以降、両国は伝統的に良好な関係を維持してきました。

 最近では、両国関係も多様化してきましたが、その一つの例として、姉妹都市縁組みを通じて地方レベルでの交流が活発になってきております。現在姉妹都市関係を結んでいる地方自治体は両国に十四存在しますが、それぞれ活発な交流活動を続けていると承知しております。

 また、東京都とウィーン市の交流の中から、我が国の人気映画「男はつらいよ」のウィーン・ロケが行われ、映画を通じてウィーンの名所と美しい風景が広く日本国民に紹介されたと聞いております。

 このように両国の交流の裾野は、近年とみに拡がっておりますが、殊に、本年は、永年の懸案であった東京・ウィーン間の直行便が開設され、また、日墺修好百二十周年を記念して種々の文化交流事業が貴国と我が国の双方で催されるなど、戦後の二国間関係にとって一つの節目になる年であります。このような年に、貴首相が、オーストリアの首相としては実に二十一年振りに我が国を訪問されたことは、誠に時宜を得たものであり、今後の両国関係発展に大きなモメンタムを提供するものであると考えます。この夕食会に先立つ首脳会談において、貴首相と今後の両国関係のあり方につき意見を交換しましたが、私も、近年緊密化の度合をましてきた二国間関係をより高度なものに発展させていくべきであるとの貴首相の見解に同意するものであり、今回の貴首相の訪問を歴史的な両国友好関係の確認と二十一世紀に向けての新しい協力のスタートとして位置付けたいと思います。

 また、(首脳会談において、ソ連・東欧情勢についても、有意義な意見交換を行うことが出来ましたが、)私は、貴国が東西両陣営の狭間にあって、東西間の緊張緩和のために大いに努力してこられた歴史に大いなる敬意を払うとともに、現在進行中の歴史的な東西関係の変動の中で、貴国があらたなる役割りを模索しておられることにも感銘を受けました。我が国としても、貴国から学ぶべきところが極めて多いものと思います。かかる観点から、今後とも、我が国と貴国との間で幅広く協議・協調を行っていきたいと考えます。

 今次訪問中に、貴首相は、「ウィーン世紀末展」のプレビューとオープニングに出席され、また、経団連と在京オーストリア大使館主催のセミナーに出席される等、大変お忙しい日程をこなされていると聞いておりますが、こうした催し物を通じて、日墺間の相互理解が一層促進されることは、誠に喜ばしいことです。昨日、貴首相は、当地で五十二歳の誕生日を迎えられたと聞いておりますが、一日遅れで私より、「アレス・グーテ・ツム・ゲブルツターク」(誕生日おめでとう)と申し上げますと共に、この記念すべき日に始まった、貴首相の初めての訪日が有意義なものとなりますようお祈りして、ご挨拶とさせていただきます。