データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マルテンス首相主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ

[場所] ブリュッセル
[年月日] 1988年6月7日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,185−187頁.
[備考] 
[全文]

 マルテンス首相閣下並びにご列席の皆様

 本夕は、私どものために、かくも盛大な晩餐会をご開催いただき、また、ただいまはご懇篤なお言葉を賜りました。一行を代表して厚く御礼申し上げます。

 首相閣下

 私はまず、閣下が先般、八度目の内閣を組閣されましたことについて、心からのお祝いを申し上げたいと存じます。

 首相閣下は、一九八一年以来、一貫して政権を担当され、外に対しては、EC、NATOの所在国の首相として世界の平和と欧州統合推進のための力を尽くされるとともに、内にあっては、近年先進工業諸国を等しく襲った経済困難の中で、財政の再活性化、経済・産業構造の調整、企業競争力の強化等を通じてこれに対処され、めざましい成果を収めてこられました。私は、閣下のご努力に対し、深い共感と敬意を覚えるものであります。

 このたび首相の座に就かれましたのも、閣下のこのような業績、そして人格と手腕が、ボードワン国王陛下、及びベルギー国民から高く評価され、信頼されている結果だと思います。貴国が直面している事態が容易なものでないことは、よく承知いたしておりますが、私は、ベルギーの政治制度や社会の変革によってこれを乗り切っていこうという閣下の勇気ある挑戦は必ずや立派に成功し、貴国政治史に深く刻まれることと信じます。

 首相閣下

 我が国もまた、我が国を取り巻く国際環境の大きな変化に対応して内外にわたる多くの変革に取り組みつつあります。こうした中で、私は、我が内閣の最大目標として、「世界に貢献する日本」の建設を掲げました。我が国の豊かさと活力を世界の平和と繁栄のために生かすことこそ、我が国の使命であると考えたからであります。私はこの目標を実現するため、先般、平和のための協力、国際文化交流、政府開発援助のそれぞれを強化拡充する「国際協力構想」を明らかにいたしました。今後これを忠実に実践してまいる決意であります。

 一方、流動化しつつある国際情勢下、世界の平和と繁栄を維持、発展させるには、日米欧の三極関係を一層緊密なものとしなければなりません。このためには、日欧関係を、欧米、日米の関係に劣らず強化することによって、日欧関係に一層の厚みと幅を加えていくことが必要であります。

 今回私が短期間に二度にわたって欧州諸国を歴訪いたしましたのも、このような考えからにほかなりません。この意味において、欧州の中心部に位置し、「欧州の首都」と呼ばれる貴地ブラッセルを訪問できましたことは、私にとって無上の喜びであります。統合をめざす欧州に一層の重きを置いて注視している我が国にとって、貴国との間の良好な協力関係を発展させることは、私が念ずる「日欧新時代」の前進に資するものと確信するものであります。

 幸い、日本とベルギーの間は、永年にわたる両国皇室間の心のこもった親密な関係に支えられております。また、私は先ほどマルテンス首相閣下と隔意ない会談をいたしましたが、閣下も二度のご訪日の経験をお持ちであり、日本に対するご認識は極めて深いものがあります。ここにご列席の皆様も同様でありましょう。したがって、私はここで、十六世紀に遡る両国関係の歴史にあえて言及いたしません。日本とベルギーの友好の絆はすでに固いのであります。

 とくに最近は、両国間の貿易、投資が増大しているだけでなく、さまざまな分野での交流が活発化していることを心強く感じております。すでに、アントワープ、ハッセルト等において行われた日本週間は、貴国民の多大な関心を集めたとお聞きいたしております。明年秋にブラッセルで開催が予定されている「ユーロパリア・日本祭」は、欧州の伝統的行事に初めて欧州以外の国が招待されたという点で、まさに日欧新時代を象徴するものと言えましょう。私は、この意義ある祭典の成功のために、できる限りの労を惜しまぬものであります。

 最後に私は、ベルギー官民の皆様が、日ごろ在留邦人、企業に示されているご好意とご厚情に対し、深甚な感謝を捧げます。

 それでは、ご列席の皆様

 ここに、ボードワン国王・同妃両陛下のご健康、並びにマルテンス首相閣下のご健康、ベルギー国民の一層のご繁栄、そして日本・ベルギー両国の友好関係の進展を祈って乾杯したいと思います。