データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ルッベルス首相主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ

[場所] ハーグ
[年月日] 1988年6月4日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,178−180頁.
[備考] 
[全文]

 ルッベルス首相閣下、令夫人、並びにご列席の皆様

 本日は、私どものためにかくも盛大な晩餐会をご開催いただきまして、深く御礼申し上げます。また、到着以来、貴首相閣下をはじめとする貴国官民の皆様の心温まるご歓待に厚く感謝申し上げます。

 

 首相閣下

 オランダは我が国にとって、欧州諸国の中で四世紀にわたり修好を継続してきた唯一の国であります。明治維新後の日本の近代化が成功いたしましたのは、我が国が鎖国時代においても貴国との通商を通じて途切れることなく西洋の文明を取り入れることができたためであります。また維新後も、我が国は貴国の技術者を招聘して、治水や、農業土木等の分野で多くのことを学び、それを経済・社会の発展の基礎とするなど、我々日本人が貴国に負うところははかり知れないものがあります。

 このようなユニークな歴史を持つ両国間の伝統的友好関係が、第二次大戦によって中断を余儀なくされたことは、まことに遺憾でありました。旧蘭領インドに在住した貴国の方々も大きな苦しみを受けられました。

 我々日本国民は、過去に対する厳しい反省の上に立って、二度と軍事大国とならず、平和、自由そして民主主義を守ることを誓って今日の日本を築いてきたのであります。戦後の日蘭関係は、この新しい基礎の上に立って、着実に発展してきたのであり、我々はこれを更に一層強化していきたいと念願するものであります。

 幸い今や、日蘭関係は急速に進みつつあります。貴国が最近推進してきている「ジャパン・アクション・プログラム」、とりわけ昨年秋の「オランダ特急」は大成功を収めました。本年の「オランダ通商文化交流促進プログラム」の一環として今月後半東京で行われるシーボルト展覧会の開会式典にはアレキサンダー皇太子殿下が出席されるとのことであります。また、我が国の側からも、明年春、日蘭修好三百八十周年を記念して「オランダ・フェスティバル・八九」の開催が予定されております。これらの行事を通じて、日蘭両国民の相互理解と協力が一層深まることを確信するものであります。

 首相閣下

 今日、世界は二十一世紀に向けて流動化の様相を強めております。こうした中で、私は未来に通ずる世界を支える基本的な枠組みは、日欧米三極の連帯と協調であると考えます。

 私は、総理就任以来、我が内閣の最大目標として「世界に貢献する日本」の建設を掲げ、我が国の国力に相応しい国際的役割を、自発的、かつ能動的に果たしていく決意を表明いたしましたが、かかる目標の実現のためにも三極の堅固な枠組みは不可欠であります。

 私がこのたび二度にわたり欧州諸国を歴訪いたしますのも、近時、欧州統合に向けて力強い前進をみせている欧州と我が国との関係を、日米、欧米の関係に劣らず強固なものにしたいとの願いからにほかなりません。

 私は本日のルッベルス首相閣下との会談において、以上の点につき所信を披瀝いたしましたところ、閣下の強い共感と賛同を得ることができました。誠に喜びに堪えません。

 首相閣下

 私が閣下との会談中、特に感銘いたしましたのは、閣下の情熱と活力の中に潜んでいる深い見識と洞察力であります。これあればこそ閣下は、貴国の直面した財政再建やINF配備問題等、困難な課題への取り組みに果敢に対処され、成果を上げてこられたのでありましょう。また、私は、閣下がECの統合を強く推進されていることに、欧州の未来を担う新しいリーダーシップをみる思いがし、強い感銘を受けたのであります。

 欧州の重要性増大に注目している私としては、首相閣下の率いる貴国との協力関係が、単に二国間の関係強化に資するのみならず、日本と欧州全体との関係強化に役立つものと確信した次第であります。私も、閣下の情熱と活力に負けないよう両国関係の一層の進展と、日欧新時代の推進をめざして、持てる力の限りを尽くす決意であります。

 それでは、ベアトリックス女王陛下のご健康、ルッベルス首相ご夫妻のご健康、オランダ国民の一層のご繁栄、日蘭友好協力関係の発展を祈って杯を上げたいと存じます。