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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] オランダ・ファン・アフト首相主催昼食会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] アムステルダム
[年月日] 1981年6月18日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,209−210頁.
[備考] 
[全文]

 ファン・アフト首相閣下、御列席の皆様

 本日は私共一行に対しこのように盛大な昼食会を催して戴き、また只今は首相閣下より誠に御懇篤な御言葉を賜わり、衷心より御礼申し上げます。

 特に貴首相閣下におかれては、組閣準備のために多忙を極めておられるにも拘らず貴重な時間を私のためにお割き下さったことに対し、深く謝意を表したく存じます。

貴首相閣下は昨年四月オランダの首相としては初めてわが国を公式訪問された訳でありますが、今朝は 貴首相と国際政治・経済情勢につき実りの多い意見交換を行うことが出来ました。

 会談において今日世界が当面する諸問題の解決に際し日蘭両国の共通の責任を改めて確認しあうことが出来ましたことは、私の最も欣快とするところであります。

 首相閣下

 私の今回の貴国訪問は、両国の友好関係を一層促進するのに寄与することをその目的の一つとしておりますが、この際私は、十七世紀初頭に遡る長い日蘭交流の歴史に思いを致さざるを得ません。

 貴首相が昨年訪日の際に寄贈されたオランダ船の彫刻は、将にかかる交流のきっかけを築いたデ・リーフデ号をモデルにしたものであり、日本国民の心に、両国関係の持つ古い伝統を改めて刻みつけたのでありました。

 御承知の通りわが国は、十七世紀の初頭から二百有余年に亘って鎖国の状況にありましたが、貴国は唯一の例外として長崎に商館を維持し西洋文明への窓口の役割を果たされました。わが国が十九世紀中葉に鎖国の夢から醒めた後に比較的順調に工業国への道を歩むことが出来たのは、貴国を通じて世界の進歩の息吹きを僅かながらでも感じ続けていたことが大いにあずかっています。私達は少年の頃、当時の先人が貴国からやっとの思いで手に入れたオランダ語版の「解体新書」(ターフェル・アナトミア)を邦訳するにあたって「フェルヘッフェント」というたった一語の意味するところを見出すために一週間もの時日を費やしたという挿話を感銘深く聞いたものでした。

 今日両国は、自由と民主主義という共通の価値観に結ばれ、自由世界の一員としての協力を進めつつありますが、この機会に貴国が本年初頭以来EC議長国としてわが国と欧州共同体諸国との政治協力促進のために極めて効果的に労をとられたことに厚く謝意を表したく存じます。

 私は先刻ベアトリックス女王陛下に拝謁を賜わる栄に浴しましたが、両国が皇室と王室の間の親密な関係によって結ばれていることは両国民にとって大きな幸せであります。

 日本国民はいつの日か女王陛下を国賓としてお迎え出来ることを切望していることを申し述べたいと思います。

 それでは●{玄へんにつくりも玄/ここ}に杯を挙げ、女王陛下の御健康、ファン・アフト首相の御多幸、オランダ国民の一層の御繁栄そして日蘭両国の友好関係の進展をお祈りして乾杯いたしたいと存じます。