データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] イタリア・フォルラーニ首相主催昼食会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] ローマ
[年月日] 1981年6月12日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,205−206頁.
[備考] 
[全文]

 フォルラーニ首相閣下、御列席の皆様

 本日は私共一行に対しこのように盛大なおもてなしを戴き、また只今は首相閣下より誠に御懇篤な御言葉を賜わり、衷心より御礼申し上げます。

 このたび欧州諸国歴訪に際し、懸案となっておりました貴国訪問を実現し、貴首相閣下と広範な問題につき実の多い会談を行うことが出来ましたことは、私の最も欣快とするところであります。

 首相閣下

 「すべての道はローマに通ず」と言われますが、東アジアから貴国への道を拓き、わが国を初めて欧州に紹介した功績は、古く十四世紀に「東方見聞録」において「東洋の黄金の国ジパング」に言及したイタリア人マルコ・ポーロに帰せられるものであります。

 わが国からも約四百年前に、私の郷里に近い奥州の大名伊達政宗を含む何人かの諸侯が派遣した使節団が、この永遠の都ローマに足跡を印しております。

 私は昨年ローマに到着して以来、この地の偉大な歴史の一端に触れるべく幾つかの遺跡を訪問致しました。その際折に触れて耳にしたイタリア語は、日本語に似て母音が多いためもあってか私の耳に快くそして懐かしくさえ響いたのですが、何にも増して感銘を受けましたのは、貴国が偉大な伝統を承け継ぎつつ現代文明社会においても、両者を調和のとれた形で育まれている事実であります。

 わが国もまた自国の伝統に少なからぬ誇りを持っております。そしてわが国は過去百有余年来西欧から多くのものを学びつつ近代国家の建設につとめて来たのでありますが、その際就中音楽、美術をはじめとする文化の面で貴国からうけた影響は極めて大きく、貴国の生んだ偉大な作曲家ヴェルディやプッチーニのメロディーは、凡ゆる世代の日本人に愛されております。

 しかし、日伊両国を結びつけるものは文化に限られてはおりません。数多い活火山に飾られた美しい山水を付け加えれば足りるものでもありません。両国を結びつけているのは、何よりも、自由、民主主義という共通の価値観にもとづいて連帯を強化し、厳しく複雑な現下の国際情勢の下で平和の維持と世界の繁栄に寄与すべく密接に協力する責務なのであります。

 首相閣下

私の今回の貴国訪問は残念ながら短いものではありますが、今回の訪問が只今申し述べましたような両国の共通の責務を更めて認識し合い、伝統的な友好関係を基礎とした両国の協力関係を一層促進するよすがともなれば、これに過ぎる欣びはございません。

 また同様の精神から、今朝ペルティーニ大統領閣下にお目にかかりました際に、閣下に対しイタリアの元首として初めての日本訪問を実現して戴ければ心から歓迎申し上げる旨申し上げました。これに対し大統領閣下も御訪日を受諾されました。このことを、喜びをもって御披露致したく存じます。

 それでは●{玄へんにつくりも玄/ここ}に杯を挙げ、フォルラーニ首相閣下の御健康とイタリア国民の一層の繁栄及び日伊両国の友好関係の進展をお祈りして乾杯いたしたいと存じます。