データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エドワード・ヒース英国首相の日本公式訪問に際しての共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1972年9月19日
[出典] 外交青書17号,501−503頁.
[備考] 
[全文]

 英国首相エドワード・ヒース閣下は,日本国政府の招待により,9月16日から同19日まで日本を訪問した。これは英国首相による最初の公式訪日である。

 ヒース首相は,皇居において天皇,皇后両陛下に拝謁し,両陛下から午餐を賜つた。田中角栄総理大臣は,ヒース首相のため官邸において晩餐会を催した。

 ヒース首相はまた,経済団体連合会,日本貿易会及び日本商工会議所合同主催による午餐会に出席した。ヒース首相は,秩父宮妃殿下が御来臨になつた日英協会主催レセプションに主賓として招待された。

 ヒース首相は,田中角栄総理大臣及び大平正芳外務大臣と日英両国が共通の関心を有する広汎な問題について会談した。両首相及び大平外務大臣は,両国にとり大なる関心事である欧州及びアジアにおける国際関係が広汎且つ急速な変革を遂げつつある時期にこのような会談を行なうことは最も時宜に適つたものであることに意見の一致を見た。会談は,率直且つ友好的な雰囲気で行なわれ,昨年天皇,皇后両陛下の御訪英によつて示された日英両国間の極めて緊密且つ友好的な関係を再び示した。会談は,国際問題に関する双方の見解が極めて近接していることを示すとともに,世界の平和と安定を推進するため協力してゆくとの両国の決意を表明した。

 両首相は,現在の国際情勢及び世界における諸紛争の平和的解決への見通しにつき討議し,最近における緊張緩和の兆候を歓迎した。田中首相は,来るべき中華人民共和国訪問の目的を説明し,ヒース首相は,これを平和と安定への重要な貢献であるとして歓迎した。

 ヒース首相は次期拡大EC首脳会議に言及し,田中首相とECの拡大につき意見を交換した。ヒース首相は,英国として,満足のゆく日・拡大EC通商関係が達成されることを重視している旨強調した。

 田中首相は,ECが外向的政策をとること及び英国がその実現のため影響力を行使するよう希望を表明した。ヒース首相は英国政府が外向的な姿勢をひきつづきとることを確認した。

 両首相は,国際通貨情勢に関して意見を交換した。両者は国際通貨の安定はきわめて重大である旨合意し,両国政府が通貨制度改革へ速やかな進展が得られるよう努力すべきことを約した。

 両首相は,来年開催予定のガットの枠内における次期多角的通商交渉が国際貿易の持続的発展を促進するとの確信を表明した。この目的のため,就中世界貿易の障害をさらに大幅に軽減することが必要である。

 両首相は,日英両国間の通商関係について討議した。特に,両者は両国間のより安定した貿易環境と一層の投資の伸長を期するための見通しにつき検討し,先般の事務レベル協議はこの目的を達成せんとする両国政府の決意を反映するものであつたことにつき意見の一致をみた。

 両首相は香港への特恵供与について討議した。田中首相は,近い将来行なわれる特恵制度の全般的検討の際,特恵例外品目リストを再検討することに同意した。

 ヒース首相は,アジアにおける最近の動きについて大平外相と意見を交換した。両大臣は,朝鮮半島の人々が朝鮮半島の再統一に向つて自発的に措置をとりつつあることを歓迎するとともに,再統一への進展が何ものによつても妨げられないことを希望した。両大臣は,インドシナにおける戦闘が早期に終結し,同地域の人々がその将来を自由に定められるようになることを希望した。両大臣は,中東紛争の平和的解決が国際社会にとり緊急の必要であることにつき意見の一致をみた。

 ヒース首相は,更に,日本の閣僚と公害防止及び民間航空機並びに日英両国間の科学技術協力の機会について討議した。

 これに関連して,両首相は,両国国民の生活内容を改善することが必要であると認めた。両首相は,この任務の重大性を自ら確信し,この分野において日英両国が当面している問題は多くの点において同様であると考えた。かかる問題の処理につき両国政府が得た経験は,相互に直ちに交換されるべきである。

 両首相は,更に,開発途上国がその経済問題を克服し,その国民の福祉を増進することを可能ならしめるため,すべての先進諸国による援助を増大することが必要であることについて意見の一致をみた。

 ヒース首相は,田中首相がロンドンを訪問するよう招請し,田中首相はこの招待を喜んで受諾した。またヒース首相は,1973年の定期協議のため大平外相をロンドンに迎えることを待望している旨述べた。