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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第3回外相会談)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月12日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R058140  5746  主管

78年  月12日18時30分 中国発

78年08月12日21時00分 本省着   ア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第3回外相会談)

第1675号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1608号に関し

 ソノダ大臣は、12日11時より45分間、18号賓館においてコウ華外交部長と会談されたところ、その模様次のとおり。

(同席者:日本側;本使、高島、ナカエ、オオモリ、ドウノワキ、タジマ、サトウ、サイトウ(正)、トウゴウ、■■{2字黒塗り}、■■{2字黒塗り}。中国側:韓念リュウ副部長、フコウ大使、王ギョウウン・アジア司副司長、チンイリョウ・国際条法司副司長、高建中・れい賓司副司長、テイミン・日本処処長、王効ケン・日本処副処長、ジョトン信・日本処副処長、陸キ・日本処処員、ソン平・日本処処員。)

1.(1)冒頭、ソノダ大臣より次のとおり述べた。

 私たちは、任務を完全に完了し、本日最後の会談が出来てうれしい。コウ華外交部長、韓念リュウ副部長及びその他の各位の努力と熱意に感謝する。

(2)これに対し、コウ華部長より、次のとおり述べた。

 先ず私から一言申し上げたい。サトウ大使を初めとする日本側代表団及び韓念リュウ副部長以下の中国側代表団に感謝すべきであると考える。この数日間非常に大きなし事をしてきて御く労様でした。現在まで、中国語テキスト、日本語テキスト、その他訳文のテキストもすべて完成した。この度ソノダ大臣がフクダ総理の決断によつて自ら訪中され、会談を通じてこの条約交渉を最後の段階にまで押上げ成功させた。閣下の訪中は、短期間ではあつたが、みのりゆたかな訪中であつた。私たちが会談している間、その外で中国人民及び日本人民がこの会談を注目している。長期にわたつて中日友好のためにつくした友人のみな様は、中日友好促進のためにふん闘され、条約締結の基礎を固めた。この条約が締結され、そのニュースが発表されると中日両国人民の熱情あふれるかん迎を受けるであろう。このことは、両国人民が長い間待望してきたことであるし、両国人民の長期的、根本的利益に合致するものである。この条約の締結は、中日友好関係史上において、両国の友好及び両国人民の友情のため、より広い展望を開くものであろう。

 トウ小平副総理がみな様に会つた時に述べたように、この条約の締結は遅れたので、この遅れた時間を取りもどすよう努力しよう。閣下の言われるように条約締結後は、行うべきことがたく山ある。中国側としては大きな熱情と真心をこめて大きな努力を行つてゆきたい。

(3)次いで、大臣より次のように述べた。

 この時期に条約を締結したいという熱意は、私もコウ華部長も同じである。交渉が妥結したこの心境も、私とコウ華部長とも全く同じであろう。先ず、韓念リュウ副部長及びサトウ大使をそれぞれ団長とする両国交渉団の努力に感謝し、その功績をたたえたい。誠実、率直、情熱をもつて両国の友好を進め、この条約締結が出発点となつてアジアの平和とはん栄につながつていくことは、閣下の述べたところと同じである。日中両国が初めて心から提けいして世界の平和にこうけんできるようになつた。ここに私は、過去の問題であり、水に流された問題であるが、日中双方の第二次大戦で亡くなられた方々に対し、つつしんであいとうの意を表するとともに、条約の締結と日中友好が新しい段階に入つたこととを報告したいと考える。私の方も閣下と同じように条約案文の最終的な確認をここでいたします。

 次に国際情勢については、案文論議の段階で既につくされたので、心と心が通うようになつたので、ここでは国際情勢の分せきについては、行わないこととしたいが、如何であるか。

2.(1)これに対し、コウ華部長は、「賛成である」と述べたので、続けて大臣より次のとおり述べた。

 条約交渉妥結の機会に若干の問題について述べたい。これらの問題は、この場で決まるものもあるかも知れないし、また、後程検討してから決まるものもあるだろう。この場で決まらなかつた問題についてはコウ華部長が条約の批准のため東京に来られる時にお答えいただいともよいと思う。

 先ず、第1に、日中間の協議の緊密化の問題である。そのために外相レベルで少くとも年に1回会談を行うことを両国で考えてみたい。次に、また単に日中二国間の問題だけでなく、アジア情勢、国際情勢についての意見交換も今後は行いたい。

 以上が私からの意見であるが、具体的にいかにやるかについては、後程検討することにして、ここでは私が今述べた趣旨に御賛同願いたい。

(2)これに対し、コウ華部長は、「われわれは原則的に両国間の協議を緊密化することに賛成する。両国外相ならびに両国の外交部の関係者同士も行き来をひんぱんにした方がよい。そこで、一年に何度にするか、また、どのクラスで協議を行うかは、今後の情勢の発展をみてその都度決めたら如何」と述べた。

(3)これに対し大臣より、「わかつた」と答え、コウ華部長は、「意見交換の範囲については、中日双方の関係に関するもの、中日双方が関心ある国際情勢としたらよい」と述べた。

3.(1)次に大臣より、国連憲章問題にふれたいとして、「国連憲章第53条及び第107条にはいわゆるきゆう敵国条項が含まれている。わが国としては、わが国が国連に加盟し、サンフランシスコ平和条約、日中共同声明、日ソ共同宣言などの当事国となつたことにより、この条項のわが国への適用はなくなつたと解釈しているが、貴国の考えいかん」と述べた。

(2)これに対しコウ華部長は、次のように述べた。

「国連憲章は、第二次世界大戦終結当時にできたものであり、その後の国際情勢の変化により、その自体{前4文字ママ}完全には適合しなくなつたものもある。国連の加盟国は、現在149までに増え、国連発足時に比し3倍になつている。従つて国連憲章自体、または国連の機構自体が現在の国際情勢を十分には反えいしておらず、いわゆる敵国条項もそのようなものの中に含まれる。中国は早くからこの国連憲章を改正しなければならないと考えている。私達の観方よりすれば、憲章改正への障害は主としてソ連からきている。ソ連の国連代表マリクは、国連憲章は世界平和のはしらであり、これを改正すれば国連のビルはくずれ去ることとなるので一字一くこれを改正してはならないと述べている。従つて中国は、憲章の改正を求めているすべての国と一緒に努力してゆきたいと考えている。」

(3)これに対し大臣より、

「わかつた、けつこうである。」と述べた。

4.(1)続いて大臣より、次のとおり述べた。

以上の他に、私の方からいくつかのお願いがある。

(イ)先ず、第1に国籍の問題についてである。日本側からみると、中国には、日本国籍を持ちながら、中国側では中国の単一国籍しか持たないと認定されている日本人が4千名いる。その中には、現在、両国政府で見解が対立しているケースやあるいは、これから対立しそうなケースがある。この問題については、今後大使を通じこれらの人々の国籍関係を明確にするため、協議を行つていくので協力願いたい。

(ロ)第2に、大使館のしき地問題についてである。私は、日中関係に相応しい日本大使館の造営をしたいと考えている。日本側の基準で見積れば、およそ3万2千平米程度のしき地が借用できるようお願いする。

(ハ)第3に、総領事館の問題についてである。われわれは、広州に新しい総領事館を設置することを希望している。この点中国側の検討をお願いしたい。

また、上海総領事の公てい確保の問題についても中国側の好意的配慮をお願いしたい。

(ニ)最後に、もう一つ大事なことであるが、国連安全保障理事の選挙についても、日本の立こう補に中国側の支持をお願いしたい。日中平和友好条約が締結されあく手も固くなつているにもかかわらず、中国側から支持がもらえなければ、私の国内での面目がなくなるのでこの点はぜ非よろしくお願いする。

(2)これに対しコウ華部長は次のように述べた。

(イ)国籍問題については、貴大臣の意見に賛成する。それぞれの国の大使館と外務省、外交部を通じて協議し、問題を解決した方がいい。中国側の国籍問題に関する原則はそれを明確化させることにある。あいまいにすることにより、ゴタゴタが起ることのないようにしたい。歴史的に残つている二重国籍問題については、中国側は一連の措置をとり、それによつて問題を解決するように努力してきた。われわれは、各人が自分の願望に従うとの原則の下に、国外華きようは当該在住国の国籍を選択するようにしよう励している。この場合、中国籍は、自動的に無くなることとなる。このようにして在住国の国籍を取得した人は、その国の公民として、その国の人民の利益のために努力すべきであると思つている。もし中国籍を引き続き保持したいと考えるなら、そういう人はその国の法律を守り、ふうぞく習慣に従い、その国と中国との友好のカケハシとなるようしよう励している。貴大臣は4000人について双方の認識が不一致であると言われたが、このような原則に従えばこの問題の解決は難かしくないと考える。

(ロ)大使館のしき地の問題については、双方で具体的に相談してゆくこととしたい。

(ハ)総領事館の広州設置の問題については、対等、平等の原則で検討したい。上海の総領事公てい確保の問題についても上海の関係部門と協議して、条件が許せば解決してゆきたい。

(ニ)安保理の選挙については、この問題はアジア地域の多くの国々の権利と利益に係る問題である。従つてこの問題については、アジア地域諸国とよく協議して具体的状況に応じて検討してゆくこととしたいと述べた。

5.(1)引き続き大臣より次のとおり述べた。

私の方からこれ以上述べることはないが、ここに1つのニュースがある。西独の新聞は次のように報道している。つまり「日中平和友好条約が締結されることとなつた。われわれはこれをかん迎する。ソ連は日本に対し、拒絶、こう議、どうかつ、非友好的な態度をくり返したので、かえつて条約の締結を促進した。」これは私の意見ではなく西独の新聞の意見である。

(2)これに対しコウ華部長より、「その見方は正しい」と述べ、大臣より「(ひにくまじりに)私はソ連に感謝している」と述べたところ、コウ部長は「彼らは横暴極まるろこつな干渉をしたので、中日両国人民だけでなくアジア全体、世界全体の人民から反対を受けている。われわれの条約は彼らを名指していない、。{前2文字ママ}にもかかわらず彼らはこれに反対している。これによつて彼らは彼らの本質を自こ暴ろしている」と述べた。

(3)これに対し大臣より、「どろぼうは”どろぼう”というと”おれではない”という。これをもつて自覚しよう状という。」と述べた。

6.最後に大臣より、「次はなるべく早く東京でお会いできることを願う。」と述べられ、本日の外相会談を終了した。

(了)