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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第1回外相会談−1)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月10日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R057246  5641  主管

78年  月10日01時40分 中国発

78年08月10日03時22分  本省着 ア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第一回大臣会談)

第1606号(2の1) 極秘 大至急

(限定配布)

 ソノダ外務大臣及びコウ華外交部長をの第1回会談は、9日午前9時半より12時20分まで(途中10時37分より30分休けい)、人民大会どうの間において行われたところ、その概要次のとおり。なお、出席者は、日本側大臣、大使、高島外務審議官、アジア局長、条約局長、ドウノワキ公使、タジマ中国課長、サトウ秘書官、■■{2字黒塗り}事務官(通訳)、トウゴウ主席事務官(休けい後以降)、中国側は、コウ華外務部長、韓念リュウ副部長、フコウ駐日大使、チンペイ・アジア局長、王ギョウウン・アジア局次長、高建中ぎ典局副局長、チンイ良条約局副局長、テイミン日本処長、王効ケン日本副処長(通訳)、ジョトン信同副処長。

1.冒頭コウ部長より、昨やはよく休まれましたかとの質問があり、ソノダ大臣より、よく休み身体の調子は良いと述べたところ、同部長は、長期の準備をされえん路を来られたのでおつかれであろうと述べた後会談に入り、先ず同部長より次の発言があつた。

 私は中国政府を代表して、ソノダ外務大臣閣下及び御一行の御来訪を心からかん迎する。1972年9月29日中日両国政府が共同声明を発表して以来間もなく6年になる。この間両国の関係は各方面において良好な発展を見た。両国人民の理解と友情は、大きく増進した。これは両国の今後の発展によい基礎となつた。共同声明に記されている重要な任務の1つは平和友好条約の締結であり、これからわれわれはその任務を全うせねばならない。双方が最初に交渉を始めてから既に3年以上過ぎた。最近サトウ大使と韓念リュウ副部長をそれぞれ団長とする両国交渉団の間の会談により条約の関係条項について一定の進展があつた。外相閣下がこの度訪中され条約締結のため一層の努力を行いたいとの熱情を持たれ成果を得たいとの信念をもつておられることを評価するものである。

 これまでの段階の会談により、双方は相互理解を深め多くの問題について意見の一致を見た。双方は共同声明の原則を維持し、条約の早期締結をいのると述べている。重要な反は権問題については中日双方はは権を求めず、如何なる国または国の集団によるは権を求める試みにも反対するとの点で意見は一致している。反は権条項の表現については、双方とも提案を出しており、突込んで検討を行つた。交渉のしよう点は今でも反は権条項にある。これは表現の問題ではなく、共同声明の原則を守り、日中平和友好条約の締結にふみ切り、両国間の関係を良くするか否かの実質問題であるとわが方はくり返し指摘して来た。

 中日両国間には2000年にわたる交流の歴史があり、われわれの遺かんとする時期もあつたが、大部分は友好を主とする交流であり、日中両国が世々代々友好的につきあうのは両国共通の願いである。日中両国はともにアジア・太平洋地域にあり、当面の国際情勢において重要な問題に直面している。われわれは世界の全局から問題を見つめるべきであり、政治的に高い見地からものを考えれば、反は権条項を含め交渉の諸問題は解決し難い問題ではない。

 ソノダ外相は中国のふるい友人であり人望の高い政治家であり、条約の早期締結に熱心な方であり、外相自らの訪中により交渉は今や新しい段階に入つたと言える。われわれは、ソノダ外相訪中が交渉を推進し、早期締結に寄与するものとなることを期待している。中日共同声明の原則を守り、大同を求め小異を残すという精しんで交渉しさえすれば、乗り越えられない障害はないと信ずる。われわれは、ソノダ外相閣下及び日本の友人のみな様といつしよに両国人民から与えられた重任をまつとうするため努力したい。

 私の発言はこれで終りだが、今後の会談をどのように進めるかについての御意見をうかがいたい。

2.そこでソノダ大臣より次のとおり発言された。

 ただ今はコウ華外相閣下よりてい重な御あいさつをいただき、また私の訪中を突然申入れたにもかかわらず短期間にじん速に諸準備を整えて下さりあたたかいかん迎をいただいたことをちゆう心より感謝する。韓念リュウ副部長とサトウ大使は既に14回にわたる会談を行い、特に韓副部長は病いを犯して重大な任務のため真けんな努力をされて来たことにけい意を表する。両国交渉団の過去14回の会談を私も真面目に見つめて来たが、相互の理解を深めることに意義があつたと思う。この条約の早期締結は日中両国のみならずアジアのはん栄のために意義があると思う。私はこれまでの交渉の成果を高く評価し、満足している。日本国民も、また、サトウ・韓念リュウ会談の進展について極めてよろこんでいると申上げたい。

 そこで、この会談について率直に申上げれば、双方の間には相互理解と信頼がまだじゆう分ではないと思う。すなわち、日本側の提案に対して中国側はソ連にくつぷくしているとか圧力を受けていると言い、中国側の提案に対しては日本側は何かこう束を受けるのではないかという感じをもつような情況である。私の今次訪中は交渉が行きづまつたからではなく、交渉は円かつに進んでいるが、早く妥結した方がよいと考え、私が来訪し直接話合いを行うならば、それはサトウ・韓念リュウ会談も順調に進ませ得るのに役立つと考えて訪中したものであるということを理解いただきたい。

 更に会談を進めるに当り、私は率直にかけ値なく有りのままに話し合いたいということを申し上げたい。私はいやな思いをしても構わないので貴方もどうぞ何でも言つていただきたいし、私の方もおはら立ちのことを申し上げるかも知れない。お互いに率直に話合えば、サトウ・韓念リュウ会談もスムースに行くと思うので、率直に発言することをお許しいただきたい。

 先ず、本日の会談においては、国際情勢、アジア情勢、日本の外交方針、日中関係について詳細にお話するのが本筋であるが、正直に申上げてお互いに交渉の早期妥結を念願している以上、これらについてダラダラと話すわけには行かない。従つて、交渉を円かつに進めるということを念頭において、関係のある問題について話を進めて行きたい。

3.これに対しコウ華部長より、次の通り発言があつた。

 ただ今、ソノダ大臣より中国側に感謝する旨の御発言があつたことに対し御れい申上げる。中国側は当然なすべきことをなしているに過ぎない。さて、日中平和友好条約締結問題は、当面両国人民と世界の人民が注目している問題であり、ソノダ外相訪中の主要な問題である。そこでわれわれは精力を集中して先ず反は権条項について話を進めたい。その後に国際情勢や日中両国間の問題についてよろこんで詳細に話合いたいと思う。当面の国際情勢の下における双方の外交政策や双方の立場等については既にサトウ・韓念リュウ会談において双方がそれぞれくり返し表明して来た。双方の間には共通点もあり、異なる点もあるが、これは極めて自然なことである。また、これは条約の早期締結を見るために障害となるものではない。

4.よつて、ソノダ大臣より、ただ今の貴部長のお話をきいて私の考えを修正したい。先ず、は権の問題を話すことで差支えない、しかし、自分はそれに付随する問題についても話をしたい。では何れから先に発言するかと述べたところ、コウ部長は、先に日本側の発言をうかがいたいと述べたので、ソノダ大臣より発言された。

(1)それではお許しを得て発言をしたい。日米関係はサトウ大使が既に中国側に述べてあるとおりであるが、米国は日中条約について成功をいのると述べた旨外部には発表してある。しかし、実際の内容をそのまま言うと、カーター大統領、ヴァンス長官ともに日中条約を積極的にやつてほしいということであつた。その理由は貴外相の方がよく御存知だと思う。その1つは、米国は貴国と国交正常化を早くやりたいと思つているが、国内にしん重論があり、日中が出来れば米国の国内与論を説得する上にも有利な条件が出来ると考えている。その2つ目は、ソ連に対する考慮があることははつきり言える。これは、日中が条約を締結するのは米中の正常化と目的は異るが、考え方は同じということである。

(2)次にソ連に対しわれわれが如何に対処しているかを申し上げておきたい。ソ連の政府及び新聞は日中条約についてしばしばこう議や非難の強いことを言つているのは御存知のとおり。これを貴国はソ連のきよう迫と言つている。このようなきよう迫の如き言動がある度に私が如何なる態度を発表してきたかは貴国も知つていると思う。ソ連はそのうち私の名前も出して来た。しかし私はその後ますます日中条約の早期締結のために努力して来た。

(3)先般ヴイエトナムから外務次官が訪日した。私は冒頭に越が自主独立の線からはずれないという前提に立つて援助を与える旨明らかにした。自主独立でなくなつた時には援助を止めるつもりである。なおカンボデイアにはなるべく経済援助を行ないたい旨伝えてある。まだ具体的な相談はしていないが、サトウ大使がカンボデイアを訪問する時に具体的な相談をしたいと述べてある。

(4)なお先般の先進国首のう会議の際、英国の外相から中国に武器を供給しても日本は困らないかという話もあつた。自分がこのように種々と話をするのは貴国に対する好意からであると受け取つてもらつては困る。これは私個人のは権のへの闘争の問題である。私が申し上げたいのは反は権闘争を行なうのはもち論であるが、これは地域を限らないということである。ソ連とは権の問題について言えば、貴国とソ連の間の問題、日本とソ連の間の問題は異なるということである。私が説明したいのは、われわれも反は権闘争を現実には作つているが、貴国のやり方とは異なるということである。

(5)もう1つは、外交の基本方針は、貴国と日本との間には若干の差がある。日本の憲法9条は、同9条があるから日本外交がこう束されているというのではなく、同9条こそ反は権の最高の表現である。それこそ人類最初の平和外交に徹した表われである。つまり、は権とは権をもつて争えば、争つたもの双方が亡びるという考え方に立つている。

(6)1972年共同声明が発出された時には権という言ばが出て来たが、なじみの少ない言ばであつた。日本にむかしからある言ばは「王道」「は道」というものであり、かつてソン文は最後に日本を離れる前に「力をもつて国を動かすをは道といい、人心をもつて国を動かすを王道という」との言ばがあるが、日本の友人よ王道をすてハ道に走ることなかれと述べたが、貴国は共産主義国であるから王道もは道も排すると決定された。これは理解できる。しかし日本の中には王道、は道という言ばがまだ残つている。それで当時共同声明が発表された時に新聞は、は権という字を見てさわいだ。しかしその後6年間反は権の概念は日本国民の間に定着しつつある。日本人は力に頼りおどしをかけることには絶対に反対である。ただ1国をは権国と決めつけ、こちらから敵対関係をとることは日本国民が受け入れない政策である。その点がサトウ大使と韓副部長との会談の話に関連することとなる。ソ連に気がねしているわけではなく、日本国民がしゆくふくし、納得するふん囲気の下で締結したい。更に付言すれば、ソ連が何か言つた場合、ソ連が理不じんであると言えるような条約を作りたいと考えている。

(ここでコウ華部長は、会談も1時間以上経つたので休けいにしたいと述べたので、ソノダ大臣よりこれに同意され休けいに入つた。)

(了)