データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和条約交渉(第10回会議−1)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月3日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R055748  5503  主管

78年   月03日19時05分 中国発

78年 08月03日20時24分 本省着  ア局長

外務大臣殿 大使

日中平和条約交渉(第10回会議)

第1512号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1502号に関し

3日午後3時35分より5時10分まで1時間35分にわたり(途中3時55分から約50分間の休けいを含む)、第10回会議を行なつたところ概要次のとおり。(会談の場所及び出席者は前回会談に同じ)

1.冒頭本使より、本日は日本側が会談を主さいする順番であるが、日本側より先に発言させていただきたいとして、別電のとおりの発言を行なつた。

2.本使発言の後、韓副部長は休けいを提案したので双方とも休けいに入り、約50分間休けいした。

3.休けい後、韓副部長は次のとおり述べた。

(1)昨日中国側の提出した新しい案文は、中国側が中日共同声明を基礎にし政治的なかく度から大局に着がんし、最大限に日本側の意見を考慮に入れ厳しゆく、かつしん重に検討を重ねた上で提出したものである。中国側は既に最大の譲歩を行なつた。この案分は日本側も満足できると信じていたが、中国側の誠意に満ちた確実に実行可能な新しい案文は先ほどの大使の発言で日本側の拒絶を受けた。これに対しわれわれは甚だ残念に思わざるを得ない。

(2)われわれはおごそかに次のことを重ねて強調したいと思う。中国側が中日共同声明を守る断固たる決意はゆるぎなきものであり、いささかも動ようすることはない。反は権条項の精しんと実質を弱め、ほねぬきにし、否定し、中日共同声明から後退するいかなる意図(注:中国語;企図)も中国側は全く考慮できない。第三者の圧力を容認し、それに迎合し、ひいてはくつ従するいかなるやり方も、中国側からみれば、それはえいちに欠け、政治的見識がないものである。率直に言うと、日本側が交渉の中で提出した「特定の第三国」とか、「いずれかの第三国」とかは、いずれも共同声明から後退するものであり、いわゆるミヤザワ4条件のやき直しである。ズバリ言えば、ソ連の圧力にくつ服したものである。このような明らかに後退を図る表現には中国側は過去も同意しなかつたし、現在も同意しないし将来も同意できるものではない。

(3)7月21日から始まつた中日交渉は、成果を収めている。われわれ双方とも努力を共にして、収めた成果を大切にすべきである。

(4)中国側は、中日共同声明を基礎にして、中日平和友好条約を早期締結することは、両国の利益に合致し、両国人民の願いに合致するものであると確信している。中国側は、真心を込めてちゆう心より(中国語:いん切的真せい的)条約の早期締結を希望する。同時にわれわれは、反は権の原則をも断固としていささかもゆるぐことなく守る。

(5)中国側の態度は、一かんして積極的なものである。しかし、これは決して原則を無視して妥結を急ぐことを意味するものではない。要するに、原則問題においては、中国側には妥協の余地はない。

(6)最後にわれわれは、せい意をもつて日本の友人が中国の意見と、昨日われわれが提出した中国側の案文を今一度真けんに検討されることを希望する。

4.これに対し、本使より、次のとおり述べた。

(1)ただ今の韓副部長のお話しの中には問題点や私の同意出来ない点も含まれているが、これについては明日にも私よりお話する機会があるものと思う。

(2)韓副部長が述べられたように、われわれは、21日からの会談で双方の努力により収めた成果を大切にすべきであると考える。

(3)われわれがなすべきことは、ここで声を大にして言いあうことではなく、しずかに双方が満足出来る点を誠意をもつてさがし出すことであり、私はそうしたいと考えている。

(4)本日はこれで会議を終ることとしたい。

5.これに対し、韓副部長は次のとおり述べた。

 明日は、貴方から本日の私の発言に対する御発言があるのであろうか。

 反は権問題については、自分の方からこれ以上話すことはあまりないが、私の本日の発言について明日大使の方から回答をいただけるとのことであれば、これに関する意見を明日聞きたいと思う。

6.以上で本日の会談を終了し、次回は明日午後3時半から行うことに合意した。

(了)