データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中平和友好条約交渉(第8回会談−2)

[場所] 北京
[年月日] 1978年8月1日
[出典] 情報公開法に基づき公開された外務省資料
[備考] 
[全文]

極秘

総番号 (TA) R055132  5439  主管

78年  月01日18時45分  中国発

78年08月01日20時09分  本省着  アジア局長

外務大臣殿  佐藤大使

日中平和友好条約交渉(第8回会談)

第1489号 極秘 大至急

(限定配布)

往電第1488号別電

 先ずはじめに、昨日の会談の休けい前の韓副部長の御発言について私の考えを述べる。韓副部長は、先月21日以来、今日までの交渉は相互理解の増進に役立ち有意義であつたと述べられ、また、われわれは、日中共同声明の基礎に立つて大局に着がんして共通点を拡大し、意見の相違点を縮少して問題を解決する方法を見出すべきであると述べられたが、私はこれに全く同感である。また私が28日の小人数の会議で日中間に意見の一致があると考える5つの点を指摘したのに対応して、韓副部長は、中国側で整理した双方の共通点を述べられた。一部の細かい表現においては、日本側が使用していない言いまわしも使用されている所があるという点で問題がないわけではないが、全体として日中双方の認識は、今やほぼ一致していると思う。

 ただ、これに関連して私が共通点の第4点として「この条約はソ連を名指すものではない」との点を挙げたのに対し、韓副部長は、「ソ連を名指すということなど話にもならない」、「これこそわれわれ双方の意見が食い違つているところではないだろうか」と論評されたが、この点についてわれわれの意見を述べる。この条約がソ連を名指していないことは、日本案においても中国案においても疑いない事実である。また実質的にも、は権を求める国があればソ連に限らずいかなる国であつてもこれに反対の立場を取るということについては、中国側もくり返し同意されているところであり、このような意味においては、まさにこの条約はソ連を名指していないのである。従つてこれは事実であり、私はそのことを述べたままである。

 次に、昨日の会談の休けい後に行われた第3条に関する中国側の提案について述べる。われわれは、中国側が第3条第1文について具体的な新提案をされたことをかん迎する。われわれは、中国側の提案を真けんに検討した。しかし、これは、われわれの盛り込もうとする考え方を十分に反えいしたものではないので、中国案には同意できない。

 第一に、くり返し申し上げたとおり、は権を求める国があれば、これに反対の立場を取るということは、この条約自体が第三国に対して向けられたものであることを意味しない。すなわち、仮えは権を求める国があつたとしても、この条約自体が全体としてその国に対して向けられたものであることにはならない。中国側の提案は、中国文で言えば「針対」と「反対」とを区別しないで用いられており、われわれの理解とは合致しない。

 第二に、この条約においては、反は権が一つの重要な内容であるが、それがすべてではない。従つて、「この条約は」と言うときは、単には権反対に限らず、この条約全体が決していずれかの国を敵視して、その利益を害するものではないことをはつきり言う必要がある。この点において、中国側提案は、残念ながら、物事の一部分にしか答えていないと思う。

 これが、われわれが中国側に同意できない所以である。

 くり返して言うが、われわれは、中国側がこのような具体的提案を行われたことをかん迎するものである。

 われわれとしても中国案に同意できないというだけではなく、審議促進の見地から、この際われわれの新しい提案をしたいと思う。われわれは、第3条第1文に、「この条約は特定の第三国に対して向けられたものではない」という提案を行つた。これに代えて、われわれは、「この条約は、いずれかの第三国(任何一個第三国)に対して向けられたものではない。」という条文を新しく提案する。

 もう一点は、われわれは、この新提案をこの条約のどこかに入れたいということである。場所については、第3条第1文とすることに固執しない。

 この新しい案は変更したところが少ない様にみえるが、この種の考え方は、日中双方ともに考えているものであるし、少数者会合で王副司長から話のあつた「特定の第三国」という言ばが特殊の意味を持つという意見に対しこの言ばを避けたという意味もある。

 中国側が、われわれの意のあるところを了解され、われわれの新提案に同意されるよう希望する。

(了)