データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 仙台の「アジア共同体会議」における程永華駐日大使の講演

[場所] 
[年月日] 2012年4月2日
[出典] 中華人民共和国駐日本國大使館
[備考] 
[全文]

 今回の会議は東日本大震災1周年を記念して開かれた。震災後、私は何回も被災地を訪れ、地震と津波で地元が大きな被害を受けたことに心を痛め、同時にまた災害復興でたえず進展がみられることに胸をなでおろした。鳩山元首相はさきほど、非常に立派な講演をされ、私たちは鳩山氏の提唱される「東アジア共同体」についてより深く理解できた。この機会に、中国とアジアの協力および関連政策について紹介したい。

 一、中国とアジアの協力

 今日の世界は、グローバル化と地域統合のプロセスがまさに進もうとしている。その中で、いまや世界で最も活力と潜在力のある地域となったアジアの重要性は日増しに際立っている。第一に世界の経済・金融情勢が不安定な中で、アジアはなお比較的速い発展を保っている。昨年、アジアの発展途上国の経済成長率は7・9%に達した。アジアは世界の経済成長の重要なエンジンになっている。第二にアジアは全体的安定を維持している。この地域にはあれこれの問題が存在しているが、関係各国が友好的な話し合いを通じて、意見の食い違いを適切に処理、管理することができ、地域の安定の大局は影響されていない。第三にアジア各国はいずれも互恵協力を強調し、さまざまな形の地域協力の仕組みを積極的に模索し、協力を通じて共通の発展を実現することを望んでいる。

 2011年に中国とアジアの隣国の関係は全体的に安定した発展の好調ぶりをみせ、善隣友好、政治的相互信頼と互恵協力が一段と深まった。

 政治面で、われわれはアジア諸国の首脳と頻繁に行き来し、とりわけ周辺諸国と積極的に相互訪問を展開した。全体的にみて、外交部長以上の往来は90回近くに上った。これらの往来を通じて、われわれは関係国との意思疎通を深め、理解と相互信頼を増進し、実務協力の重要な措置を打ち出し、二国間関係を強力に引っ張った。

 昨年、中国とミャンマー、モンゴルの関係はそれぞれ「全面的戦略的協力パートナーシップ」と「戦略的パートナーシップ」に格上げされた。昨年は中国ASEAN対話関係確立20周年、ブルネイ、ラオス、パキスタンとの国交樹立20、50、60周年で、さらに「中印交流年」でもあった。中国と関係諸国は多様な形式の、豊富多彩な祝賀行事を行い、政治的相互信頼を増進し、人民間の感情を引き寄せた。全般的に、中国とアジア諸国の関係はたえず発展、進歩しているといえる。

 経済面では、中国とアジア諸国の貿易取引が好調だ。2011年の貿易総額は1兆9030億㌦に達した。中国はアジア諸国の中で第一の輸出市場の地位を保ち、引き続き日本、韓国、ベトナム、マレーシア、インド、モンゴル、朝鮮にとって最大の貿易相手となった。

 中国のアジア諸国への投資は急速に伸びた。2011年、中国の金融以外のアジア諸国向け直接投資は前年比3・8%増の397・5億㌦に達した。アジアは中国企業の海外進出の最も集中した地域となった。中国とアジア諸国の自由貿易圏づくりは順調に進んでいる。

 中国ASEAN自由貿易圏は2010年の全面実施以来順調で、双方の資金、資源、技術、人材など生産要素の移動能力は著しく向上し、経済・貿易取引は一層活発になった。2011年の中国ASEAN貿易は前年比23・9%増の3628億5400万㌦に達した。ASEANは中国の第3の貿易相手に躍進した。中日韓協力は着実な進展を収め、3カ国事務局が韓国に設立され、協力事業は50余りの分野に及んでいる。3カ国自由貿易圏官産学共同研究は予定通り完了し、投資協定も近く調印される。

 中国とアジア諸国の財政・金融協力はたえず深化している。2011年、中国はタイ、パキスタン、モンゴルとそれぞれ700億、100億、50億人民元の二国間通貨スワップ協定に調印した。中韓の通貨スワップ規模は3600億元に拡大した。中国とアジア諸国が調印した二国間通貨スワップ協定額は7750億元に達している。中日財政金融協力でも新たな進展がみられ、中国は日本が最高650億元の国債を購入することに同意した。

 中国はアジア諸国向け援助を増やした。2011年3月、日本で地震、津波と放射能漏れの3重の災害が起き、中国は救援隊を派遣、緊急物資と燃料油の無償援助を提供した。タイ、カンボジアで100年ぶりの洪水・冠水が発生し、中国政府はすぐに物資と現金を援助した。タイには専門家チームを派遣して災害対策の相談に応じた。中国はネパール、スリランカ、モルディブ、ラオス、バングラデシュ、アフガニスタンなど低開発国に引き続き援助や技術訓練を提供し、関係諸国が自力更生のレベルを高めるのを助けた。

 人文交流面で、中国とアジア諸国の人文交流はさらに発展し、中国人民とアジア諸国人民の相互理解と友情は一段と深まった。中国とアジア諸国の人的往来は日増しに密接になっている。2011年のアジア諸国からの訪中者数は1665万に達し、外国からの入国者数の半分を超えた。中国とASEANは観光産業の協力を一段と強化し、2015年に人的往来を1500万人にする目標の実現に努めている。

 中国はアジアの多くの国と文化協定を結ぶか協力覚書を交わしており、対外文化交流事業の3分の1以上がアジア諸国とのものだ。中国はアジアのほとんどすべての国と教育協力の取り決めを結ぶか了解覚書を交わしており、二国間および地域の多国間教育交流・協力が着実に進み、教育・研修の規模がたえず拡大している。中国政府の奨学金枠の40%がアジア諸国に振り向けられ、しかも定数はたえず増えている。中国はアジアの30余りの国に孔子学院83校と孔子学堂40カ所を設立し、アジア諸国のために数万人の漢語教師を養成・訓練している。

 安全保障面で、中国は長期にわたって、地域の平和と安定を守るために力を尽くし、互恵協力を堅持し、共同の繁栄を実現した。中国は6カ国協議と上海協力機構(SCO)を提唱し、地域の平和、安定と発展のために重要な貢献をしている。また、ASEAN地域フォーラム(ARF)、ASEAN拡大国防相会議(ADMM+)、アジア太平洋安全保障協力会議(CSCAPP)、アジア安全保障会議(Shangri-La Dialogue)などのメカニズムに積極的に参加し、一連の協力提案を行い、多くの協力プロジェクトを主催し、各国の一致した評価を受けている。これらのメカニズムは相互に補完し、促進し合って、地域の安全と安定を守る建設的役割を果たしている。

 同時に、アジア地域のテロ、気候変動、食糧安保、エネルギー安保、海上安保など非伝統的安全保障問題が日増しに際立ち、朝鮮半島の核問題などホットな問題が次々に起きていることも見なければならない。中国は一貫して、アジア各国は冷戦思考を捨て、平等な対話、協議と協力を積極的に進めることによって、さまざまの矛盾や意見の食い違いを解決するよう主張している。「協力によって平和をはかり、安全を保ち、戦争をやめ、調和を促す」ことを各国が安全保障問題の処理にあたって共に順守する基本原則とすべきである。

 二、中国の東アジア協力政策

 中国は東アジア協力の積極的参加者と重要な推進勢力であり、地域協力の発展に重要な貢献をしている。中国は大国の中で真っ先に「東南アジア友好協力条約」に加入し、真っ先に19億の人口をカバーする中国ASEAN自由貿易圏を完成させた。中国はチェンマイ・イニシアティブ(CMI)のマルチ化(CMIM)、ASEANと中日韓の緊急コメ備蓄、東アジア自由貿易圏などの実務協力提案を積極的に推進し、各国と共に努力して、金融、経済・貿易、食糧安全保障など各分野の協力で大きな成果が得られるようにした。さらに、東アジアサミットで東アジア地域の平和と発展にかかわる重大な戦略的議題についての検討が行われ、かつ戦略的指導が行われるようにした。

 目下、東アジア協力は良好な発展ぶりをみせ、各協力メカニズムが並行して進められ、実務分野の協力で新たな進展がみられ、東アジア各国人民に身近な利益をもたらしている。2011年11月、東アジア首脳の一連の会議がインドネシアのバリで成功裏に開かれた。会議は団結、発展、協力の主題を堅持し、10+1、10+3などこれまで効果的だった協力メカニズムを堅持し、国家間の問題の平和的な、話し合いによる処理を堅持した。中国は今後の東アジア協力の発展に強い自信をもっている。

 中国は次のように考えている。東アジア協力では開放性と包含性〈Inclusiveness〉を保つと同時に、それぞれのメカニズムの既定の方向を堅持し、これまで効果的だった原則とモデルを堅持し、ASEANが主導的役割を果たすこと堅持すべきだ。東アジア諸国の主動性と積極性を十分に発揮させ、10+1を基礎、10+3を主体、東アジアサミットを重要な補完物とする東アジア協力の枠組みを堅持し、発展、協力、互恵、ウィンウィンという主題を堅持し、漸進的に協力を推進して、地域の平和、安定と繁栄を共同で実現すべきだ。

 三、注目されている二つの問題

 1、南海問題

 目下、南海の情勢は全体的に平穏で、安定している。南海に存在するいくつかの島・礁の主権および一部海域の境界係争について、中国は一貫して直接当事者が交渉を通じて平和的に解決することを主張しており、これは関係当事国の共通認識〈コンセンサス〉でもある。域外の勢力はいかなる理由であれ南海の係争に介入すべきでない。

 2011年、中国とASEAN諸国は「南海各国行動宣言」を実行に移すための指導方針について一致し、「宣言」枠組み下の実務協力をスタートさせ、中国ASEAN海上協力基金を設置した。中国はベトナムと「中越の海上問題の解決を導く基本原則に関する取り決め」に調印し、インドネシアと海上協力委員会および海上協力基金を設立した。中国とASEAN諸国は共同で南海の平和と安定を守る決意、知恵と能力を完全にもっている。

 南海は重要な国際輸送ルートだ。南海の航行は自由で、航路は安全であり、南海の係争のために支障が出たことはない。中国は南海の航行の自由と安全を非常に重視しており、南海の航行安全の積極的参画者と構築者である。中国とASEAN諸国は南海の航行自由・安全シンポジウムを共同で開催し、各国が南海の航行の自由と安全を守ることについて幅広いコンセンサスを得ている。

 2、朝鮮半島問題

 中国はずっと朝鮮半島情勢に強い関心を寄せ、一貫して朝鮮半島の核問題の、対話と話し合いを通じた、平和的方法による解決を主張してきた。中国はつねに、6カ国協議は半島の非核化を実現し半島と北東アジアの平和・安定を守る有効なメカニズムで、関係各国の関係改善のための重要なプラットホーム〈場〉であると考えている。6カ国協議の仕組みを守ることは各国の共通利益に合致する。各国が自信をもち、引き続き対話・接触を維持するよう希望する。中国は6カ国協議の議長国として、引き続き積極的に平和的話し合いを促進し、関係各国とともに、6カ国協議の進展および半島と北東アジアの長期安定のために建設的役割を果たしていく。

 朝鮮が4月中旬の衛星打ち上げを発表したことについて、中国は朝鮮側に強い関心と憂慮を表明した。われわれは朝鮮の行為に賛成せず、これを支持していない。また関係各国と密接な連絡をとっている。中国は、半島と北東アジアの平和・安定を守ることは各国の共同の責任で、各国の共通の利益に合致すると考えている。われわれは関係各国が冷静さと自制を保ち、事態のエスカレートによって一層複雑な局面が生じるのを回避するよう希望している。

 友人の皆さん

 アジアは新たな発展のチャンスを迎えている。温家宝総理は今年の政府活動報告で、「中国は引き続き周辺諸国との善隣友好関係を深め、周辺のさまざまな協力メカニズムに積極的に参加し、地域協力をさらに発展させ、平和・安定、平等・相互信頼、協力・ウィンウィンの地域環境を共同で築いていく」と強調した。われわれは引き続き「隣国に善意で対し、隣国をパートナーとする」周辺外交の方針を堅持し、各国と共に、アジアの振興のためにたゆまぬ努力を払っていく。