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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平和的発展で世界の調和を図り,互恵協力で代々の友好を記そう−−程永華大使の「内外情勢調査会」における講演

[場所] 
[年月日] 2011年9月22日
[出典] 中華人民共和国駐日本國大使館
[備考] 
[全文]

 友人の皆さま

 こんにちは。

 お招きを受けて「内外情勢調査会」で講演できることを大変光栄に思っています。「内外情勢調査会」は1954年の創設以来、つねに客観的で公正な世論を導くことを活動の目的とし、多くの会員を擁し、幅広い影響を与えています。ご在席の皆さまは日本の各界から集まっておられ、長い間、時局に関心を寄せ、中日関係に熱意を注いでこられました。きょう、皆さまとの交流の機会に恵まれ、非常に喜んでおります。

 まずこの機会を借りて、3月11日の大地震で、多くの死傷者と大きな被害が出たことに対し重ねて心からのお見舞いを申し上げます。今回の震災は国際社会の幅広い関心を集めていますが、中国の政府と指導者及び各界は四川大地震後日本から強力な支援と援助が寄せられたことを忘れていません。そして日本国民の災難と苦しみをわがことのように思い、さまざまな方法ですぐさま見舞いの気持ちを表し、さまざまの支援と援助を積極的に行いました。胡錦涛主席は自ら日本大使館を弔問しましたが、これは中日関係史上なかったことです。温家宝総理は日本で中日韓首脳会議に出席した際、被害の大きかった宮城と福島をわざわざ訪れて被災者を見舞い、中国国民から日本国民への激励と支援の気持ちを直接伝えました。これらには隣国である中日両国の友好のよしみがよく現れており、双方が災難を前に示した大きな愛は必ずや両国国民の感情を結ぶ永遠の絆となり、両国関係を発展させる永続的原動力になるものと信じます。

 本日、主催者から友人の皆さまに、中国の発展状況と中日関係について紹介するよう要望されており、皆さまの関心が比較的強いいくつかの問題について、私個人の見方と考えをお話したいと思います。

 私は昨年初め駐日大使に赴任して以来、日本政府、政界、経済界、報道界などと幅広く接触、交流しましたが、その中で中国の発展をめぐり比較的多く聞かれたのは称賛と評価の声で、同時に少なからぬ懸念や心配の声もありました。まとめると、いくつかのものがあります。一つ目は発展した後、中国は「覇権」の道を歩むのではないかということ、二つ目は中国経済は長期的、持続可能な成長をとげられるかということ、三つ目は中国には相応の国際的責任を担う用意があるか、「ルールチェンジャー」になるのではないかということです。

 私は、外部のこのような心配や懸念を取り除くには、中国自身がたゆまぬ努力を払い、説得力のある事実と行動によって自ら前向きの役割を演じることを証明する必要があり、同時にまた、外部が客観的友好的な態度で中国の発展及び発展過程で生じるさまざまの問題を扱う必要があると考えます。この意味から、たえず発展、変化する中国への認識と理解を助けるため、いくつかの面について重点的に述べたいと思います。

 第一に、中国の発展の道について客観的全面的な理解をもつべきです。

 各国の状況は違っており、発展のためのカギは、自国の国情に合った道を捜し当てることです。長期にわたる実践・模索を経て、中国人民は自らの国情と時代の要請に合った発展の道を捜し当てました。中国の特色ある社会主義の道です。この道に沿って、中国は世界的に注目される成果を収めました。とりわけ改革・開放後の30余年間に、国の様相は天地を覆すような変化をとげました。

 中国の発展の道には、六つの鮮明な特徴があります。第一は人を以て本と為し〈人間を第一とし〉、全面的に、つりあいをとり、持続可能な形で、統一的計画と全般的配慮に基づいて発展させる、科学的発展です。第二は国の発展の基礎と重点を国内に置き、問題や矛盾を外に転嫁しない自主的発展です。第三は国内、国際二つの市場、二種類の資源を結合し、開放的姿勢で世界に溶け込む開放的発展です。第四は国の発展のための平和で安定した国際環境づくりを対外活動の中心任務にするとともに、世界の発展にしかるべき貢献をする平和的発展です。第五は協力によって平和をはかり、発展を促し、紛争をなくす協力的発展です。第六は自らの発展を追求すると同時に、他国の発展とのよい方向への相互作用〈インタラクション〉の実現に努める共通の発展です。

 全体的に言って、中国の発展の中核的〈コア〉思想は平和、協力、ウィンウィンで、中国は対内的に調和社会を築き、対外的に調和世界を建設する戦略的主張を打ち出し、そのために相応の政策・措置を定めています。先ごろ発表された白書「中国の平和的発展」は国際社会に向けた公開の、明確な宣言にほかなりません。この基本的戦略的思考は、中国が引き続き平和的発展の道を歩むための確固たる理論的政策的基礎を提供しており、今後長期にわたって中国の方向を導き、律するでしょう。

 第二に、中国経済の見通しを的確につかむべきです。

 新中国成立後60余年間、特に改革・開放後30余年間、中国経済は大きな成果を収め、総合国力は著しく増強されました。2010年の経済総量は世界第2位の5兆8800億ドルに達し、世界に占める割合は9.3%に達しました。輸出入総額は2兆9740億ドルに達し、世界第1の輸出国、第2の輸入国になりました。国民の生活水準は大幅に向上しました。基本医療保険のカバー率は95%を超え、平均寿命は建国初期の35歳から2010年の74.5歳へと大幅に伸びました。中国の経済・社会の様相は天地を覆すような変化をとげたと言えます。

 同時に、中国の発展がかつてなかった問題と挑戦〈試練〉に直面していることもみなければなりません。温家宝総理はかつて、これについてみごとなたとえをしています。中国をみる時、大きな総量も、13億で割れば小さな数字に変わる。小さな問題も、13億を掛ければ、大きな問題に変わる。中国には13億の人口がおり、1人当たりの国民所得は世界平均の半分にも満たず、世界での順位は100位前後です。発展の不均衡は依然としてきわだち、都市(町を含む)住民の所得は農村住民の所得の3倍余り、東部沿海地区の1人当たり国内総生産〈GDP〉は西部地区の2倍余りです。貿易構造は適正でなく、全体的にグローバルな産業チェーンのローエンドに位置しています。経済発展で直面するエネルギー、資源及び環境の制約は日ごとにめだってきています。

 先ごろ、温家宝総理は2011年夏季ダボスフォーラムで講演し、次のように指摘しました。中国は自らの発展において直面する困難と問題について冷静な認識をもっている。われわれはあくまでも改革の方法で発展の難題を一つ一つ解決し、社会主義市場経済体制をたえず完全なものにしていく。また互恵・ウィンウィンの開放戦略を堅持し、開放型経済のレベルを高めていく、と。

 私たちは問題解決の筋道をすでに打ち出し、第12次5カ年計画(2011〜15年)に盛り込みました。この期間に、中国は内需拡大を実施し、需要構造を重点的に調整、改善し、消費需要の成長けん引力を強めます。あくまでも教育の振興を優先させ、人間の資質を全面的に高め、国のイノベーション体系づくりを加速し、経済・社会の発展を支える科学技術の能力を大いに増強します。私たちはグリーン、低炭素、持続可能な発展の道を堅持し、資源の利用効率と気候変動への対応能力を著しく高め、人を以て本と為すことを堅持し、民生の改善を一層重視し、共に豊かになる道を歩むようにします。

 中国の当面の経済情勢は全体的によいと言えます。上半期のGDPは9.6%伸び、貿易構造は改善され、貿易黒字は17.6%減少し、都市(町を含む)の就業は655万人新たに増えました。最近のデータからみて、物価上昇は全体的に制御可能で、構造調整も積極的に進められています。中国政府は引き続き積極的財政政策と穏健な〈中立的〉金融政策を実施し、マクロ経済政策の連続性、安定性を維持し、経済の大きな変動が現れるのを防止します。政策が当を得ており、措置が徹底しさえすれば、中国経済は必ず長期的な、より高い水準、よりよい質の発展を実現することができるでしょう。

 第三に、中国の発展の世界にとっての意義を正しく認識すべきです。

 −−中国の発展はグローバル化を背景にしたもので、グローバル化のプロセスに参加する中での発展であり、中国が歩んでいるのは世界に向かって全面的に開かれ、世界と相互に依存する道であります。

 2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、中国は年平均7500億ドル近い商品を輸入しており、これは関係諸国と地域で1400万余りの雇用を創出したことに相当します。過去10年に、中国にある外資系企業は累計で2617億ドルの利益を海(域)外に送金しました。年平均30%の伸びです。2000年から2010年にかけて、中国の金融以外の年度対外直接投資は10億ドル足らずから590億ドルに増えました。この数年、世界経済の成長に対する中国の寄与率はいずれも10%以上に達しています。

 −−中国の発展はたえず世界とドッキングし、たえず国際社会に溶け込む過程であり、公正で合理的な国際新秩序づくりに参加する過程であります。

 中国はすでにWTOを含むほとんどすべての重要な国際メカニズムに参加しています。これまでに163の国・地域と二国間経済・貿易協力の仕組みをつくり、10の自由貿易圏協定に調印し、129カ国と二国間投資保護協定に調印し、96の国と二重課税防止協定に調印し、貿易と投資の自由化・円滑化の積極的実践者になっています。

 −−中国の発展は全人類の発展の重要な一環であります。

 中国は国連ミレニアム開発目標を真剣に実行に移し、世界で唯一つ、貧困者の半減を予定より早く実現した国になったほか、自らの能力に応じて対外援助を積極的に繰り広げています。2009年末現在、中国は161の国、30余りの国際・地域組織に2563億元の援助を行い、50の貧しい累積債務国と後発途上国の債務380件を減免し、発展途上国のために延べ12万人を訓練し、海外に累計で2万1000人の医療隊員と1万人近い教師を派遣しました。中国は全世界の7%の耕地で、世界の5分の1の人口を養うとともに、基本的小康〈わりあいゆとりのある暮らしぶり〉を実現しており、このこと自体人類の発展と世界の安定に対する極めて大きい貢献です。

 ここで皆さまに嬉しいニュースをお知らせします。先ごろ、中国の袁隆平アカデミー会員のスーパー交雑水稲が1ムー当たり900㌔〈10アール当たり1350㌔〉の大台突破に成功したのです。もしもこの品種を全世界に普及させるならば、それは世界の現在の耕地水準で、4億人余りを余計に養え、食糧危機をうまく緩和できることを意味しています。これは中国の人類発展に対するもう一つの貢献です。

 −−中国の発展は世界経済の繁栄と安定を促しております。

 2008年の世界的金融危機の発生後、中国は地域及び世界の経済ガバナンス・メカニズムづくりに積極的に参加し、苦境に陥っている国に援助の手を差し伸べました。今年の上半期、全世界の経済情勢が依然として厳しい状況の下で、中国は経済の安定した比較的速い成長を実現し、世界経済の安定に積極的貢献をしました。同時に、責任ある措置を積極的に講じて、自らの実力にふさわしい役割を果たし、特に広範な発展途上国に積極的な援助を行いました。

 要するに、中国が選んだ平和的発展の道は、「和を以て貴しと為す」という歴史的文化的伝統と自らの国情を基に、大国の盛衰の歴史的教訓を汲み取り、今日の世界の潮流に順応しているのです。あくまでも平和の道を歩むのは中国の国家意思であり、新中国成立以来、特に改革・開放後30余年の発展のあゆみが示しているように、中国の平和的発展は世界の調和、繁栄を促すでしょう。世界各国にとって挑戦まして脅威ではなく、チャンスです。そして引き続き国際社会の理解と支持を必要としています。

 友人の皆さま。

 私の日本勤務はこれが5回目ですが、前の4回と比べ、今日の中日関係は大きく変化したと思っています。

 まず、両国関係の重要性が一層際立っています。中日両国は共に地域と世界の大国です。中日関係は両国にとって最も重要な二国間関係であり、双方の利害関係はかつてなく幅広く密接になり、すでに事実上の「利益共同体」となっています。このことからも双方はどうしても中日関係の発展を一層重視し、かつそれぞれの対外政策で一層重要な戦略的位置におかなければならなくなっているのです。

 次に、両国の友好協力という大きな方向が一層明確になっています。中日両国はこれまで四つの政治文書に調印しており、そのうち両国の指導者が2008年に調印した「戦略的互恵関係の全面的推進に関する中日共同声明」は、「互いに協力パートナーとなり、互いに脅威とならない」、「相互に相手の平和的発展を支持する」と明確に定めており、この重要な政治面の共通認識はすでに両国関係の長期的発展の重要な指針になっています。一方、両国は経済、社会及び文化の分野ですでに双方向・インタラクション、互恵・ウィンウィンの新たな枠組みを確立して、両国国民にますます大きな共通の利益をもたらし、両国が友好協力関係を長期的に発展させるための堅固な物質的基礎を築き、有利な社会環境をつくっています。

 第三に、両国関係が二国間の範ちゅうを一層越えています。中日両国はともに地域の大国で、世界に重要な影響を与える国でもあります。現在、両国とも調整・改革と発展の大事な時期にあり、両国関係の将来と見通しは地域さらには世界の平和と安定に直接影響を与えるようになります。つまり中日関係は隣国関係であるとともに、大国関係でもあるのです。このことから、双方はどうしても、両国関係の大局に着目し、これを守り、友好協力という大きな方向をしっかりおさえて、ともに人類の平和事業に前向きの貢献をしなければならないのです。

 同時にまた、私は仕事の中で、中日関係にはいくつかの軽視できない問題があると強く感じています。政治・安全保障面の相互信頼が足りない、国民の友好的感情がもろい、敏感な問題がしばしば突出する、などです。当面と今後しばらく、双方は以下の四つの面を重点に共に努力を払うべきだと思われます。

 第一は政治・安全保障の相互信頼増進です。双方は複数ルートの対話と意思疎通の仕組みを築き、政治、安全保障対話を一段と強化し、二国間関係における重大な問題及びそれぞれの内外政策と進む方向について適時かつ率直に意思疎通をはかり、積極的に信頼を深め、疑念を解くようにすべきです。両国政府と両国指導者による重要な政治的共通認識を実際行動によって、確実に実行に移すべきです。

 第二は互恵協力の深化です。双方はそれぞれの経済動向に合わせて、協力の新たなハイライトと成長点の育成に力を入れなければなりません。昨年、中日貿易は3000億ドルに近づいており、上半期のすう勢からみて、今年の貿易は3000億ドルを超えるとみられます。今年は中国の第12次5カ年計画のスタートの年にあたります。この期間に、中国は引き続き改革を深化させ、経済発展パターンの転換を加速していきます。日本はいま震災復興を急ぎ、景気の回復に努めています。このことは共に中日協力深化の新たな重要なチャンスを与えています。双方は世界経済の潮流に着目して、グリーン、低炭素、循環型経済などの分野で協力を強化し、両国の経済・貿易関係の転換と高度化を推進することができます。

 第三は人文〈人と文化〉交流の拡大です。中国と日本は地理的に近く、文化が通じ合い、人文交流の独特な強みを備えています。中日両国は言葉は違うが、共に漢字を使っており、このことは双方の効果的な交流のまたとない有利な条件となっています。先週、日本の人気グループSMAPが北京で初の海外公演を行い、大歓迎を受け、両国のメディアで広く報道され、両国市民の友好的感情を盛り上げる独自の役割を果たしました。私は人文交流の面で、双方の潜在力はまだ大きく、資金などの投入を一段と増やし、これを根気強く続けていくべきだと感じています。

 第四は、敏感な問題の適切な処理です。交流の深い隣国である中日間で、あれこれの矛盾や意見の食い違いがあるのは避けがたいことです。私たちは大局的見地に立ち、これまでの了解事項や共通認識を順守するとともに、あくまでも対話と協議を通じて、これを慎重かつ適切に処理するようにしなければなりません。

 日本の新内閣は発足後、中日関係に対する前向きの姿勢を示しました。中日双方は遅滞なく一連の積極的なインタラクションを繰り広げました。中国は日本と共に、このため積極的に努力したいと考えています。来年、中日両国は国交正常化40周年を迎えます。中日関係の発展プロセスで重要な意味をもつ特別な年であり、両国関係の長期的発展を促進する得難いチャンスを提供しています。現在、両国政府と各界は一連の記念行事を積極的に計画しており、ご在席の皆さまが積極的に参加されるよう希望します。手を携えて、両国の戦略的互恵関係を持続的に、掘り下げて前進させ、中日の平和共存、代々の友好、互恵協力、共同の発展という崇高な目標のためにたゆまぬ努力を払おうではありませんか。

 ご静聴ありがとうございました。