データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中国問題についての日本政府の統一見解を伝える邦字紙記事

[場所] 
[年月日] 1989年6月23日
[出典] 日中関係基本資料集、753頁.
[備考] 
[全文]

 政府は二十三日、中国問題に対するわが国の基本的な対応をまとめ、塩川正十郎官房長官が同日夕、政府見解として発表、直ちに在京中国大使館を通じ中国政府に伝えた。見解は、日中両国間の歴史的な関係を踏まえながら、対中制裁などには一切触れない“穏便”な内容となっており、中国の「改革・開放路線」への協力方針に変わりがないことを強調、民主化運動関係者らの大量処刑に関しては「誠に残念」とする一方で、これ以上の国際的非難を受けないよう中国政府の自制ある措置を求めている。

 政府見解は「あくまで現時点での政府の方針」(政府筋)とされるが、冒頭で「日中関係は欧米諸国と比べ、歴史的・文化的に非常に深い関係にある」と、隣国という地政学上の問題だけでなく、過去の侵略戦争という歴史的背景を持つ微妙な関係にあることを指摘。日本の特殊事情に対する欧米の理解を求める気持ちを表している。

 この立場に立って、見解では中国の改革・開放路線に全面協力してきたことを力説、「この基本方針は変わらない」と明言。経済協力の推進を通じて、中国の政治の安定化を図るという考え方を強くにじませた。

 一方、民主化運動逮捕者に対する大量死刑という事態については、「今後、中国政府が、このような国際非難を受けることのないよう、措置されることを強く望む」と、処刑をはじめ人権問題の拡大を避けるよう、中国政府に求めた。

 見解は、政治的、経済的な「対中制裁」には一切触れず、あくまで日本政府は慎重かつ友好的な対中外交を展開していく基本方針の堅持を示したものといえる。ただ、こうした日本の姿勢が、欧米各国の理解をどこまで得られるかは微妙で、今後の推移によっては今月二十六日の日米外相会談、来月十四日からのアルシュ・サミット(先進国首脳会議)で、欧米と同一歩調をとるよう迫られることも予想される。

(一九八九・六・二十四、読売新聞)