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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 李鵬総理歓迎晩餐会における竹下内閣総理大臣の挨拶

[場所] 東京,総理大臣官邸
[年月日] 1989年4月12日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,241−243頁.
[備考] 
[全文]

 李鵬総理閣下,令夫人並びにご在席の皆様

 本夕ここに,ささやかな宴を催すに当たり,私はまず,李鵬総理閣下ご夫妻とご一行に対し,日本政府と国民を代表して,心から歓迎の意を表したいと存じます。

 今こうして総理閣下ご夫妻と再びお目にかかりお話しておりますと,私が昨年訪中した際,閣下はじめ貴国指導者,国民の皆さまからいただいた温かいおもてなしのひとコマひとコマが懐しく思い出されます。北京はじめ各地での盛大にして熱烈な歓迎はもとより,東西文化交流の原点とも言うべき敦煌の莫高窟に足を踏み入れた時の感動,そして,西安の悠久の歴史を秘めた大雁塔のたたずまいや兵馬俑の壮観は,終生忘れることができません。

 現在,日中関係は良好に発展いたしておりますが,これは両国の幾多の先人が営々として積み重ねてこられた,いわば尊い汗の結晶であり,双方関係者の人知れぬご尽力の賜物であります。本席にも日中友好事業に長年携わってこられた方々に数多くお集まりいただいております。この良好な日中関係をさらに大きく前進させ,次の世代に確実に伝えていくことこそ,私どもの心からの願いであり,また成し遂げるべき重大な責務であると,改めて痛感する次第であります。

 そのためには,日中共同声明と日中平和友好条約の精神に則り,歴史の教訓を踏まえつつ,政治,経済,文化などあらゆる分野において交流を拡大し,またあらゆるレベルで友情を深めていくことが必要であります。また,閣下と私がこうして会談を重ね,個人的信頼関係を強化して肝胆相照らす仲になっておりますことは,両国の友好関係にとって大変喜ばしく,力強いものを感じます。

 閣下のご来日は,日中関係を新たな段階に飛躍させるために大きく貢献するものであり,日中友好の歴史に輝かしい一ページを加えるものであります。私は先ほどまで,お着きになったばかりの総理閣下と,互いに関心のある問題について忌憚のない意見交換を行い,両国関係の強化を確認すると共に,日中経済関係の一層の発展の方途について話し合い,大きな成果をあげることができました。

 私は,世界の不安定要因を極小化させ,今ようやく現れ始めた平和な国際環境を拡大・強化し,これを永続させる上で,日中両国が協力し協調していく機会と分野は今後益々増えていくものと考えております。両国が,世界の中の日中関係という観点を常に念頭に置きつつ,長期的展望に立って平和友好関係の持続・発展への地道な努力を続けていくならば,アジア・太平洋の時代といわれる二十一世紀が平和で繁栄したものとなることは,決して不可能ではないと確信するものであります。

 明日から閣下ご夫妻は,東京とその近郊をご視察の後,瀬戸内,九州へと足をのばされますが,行く先々で大勢の古い友人,新しい友人がご夫妻のご訪問を心からお待ち申し上げております。桜の花は例年より早く既に北へ去りましたが,日本は今,一年中で最も良い季節であります。お忙しい日程ではございますが,春たけなわの各地の風光を心ゆくまでお楽しみいただければ幸いと存じます。

 「春宵一刻価千金」と申します。今宵は,どうか時間の許す限りごゆるりとお過ごしください。

 それではここに盃をあげて,

 建国四十周年を迎える中華人民共和国の一層の繁栄のために

 日中友好の一層の発展のために,そして,

 李鵬総理閣下ご夫妻のご健康とご在席の皆様のご健康のために

 乾杯いたしたいと存じます。

 乾杯!