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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内閣総理大臣その他の国務大臣による靖国神社公式参拝についての藤波内閣官房長官談話

[場所] 
[年月日] 1985年8月14日
[出典] 日中関係基本資料集、682−683頁.
[備考] 
[全文]

 明日八月十五日は、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」であり、戦後四十年に当たる記念すべき日である。この日、内閣総理大臣は靖国神社に内閣総理大臣としての資格で参拝を行う。

 これは、国民や遺族の方々の多くが、靖国神社を我が国の戦没者追悼の中心的施設であるとし、同神社において公式参拝が実施されることを強く望んでいるという事情を踏まえたものであり、その目的は、あくまでも、祖国や同胞等を守るために尊い一命を捧げられた戦没者の追悼を行うことにあり、それはまた、併せて我が国と世界の平和への決意を新たにすることでもある。

 靖国神社公式参拝については、憲法のいわゆる政教分離原則の規定との関係が問題とされようが、その点については、政府としても強く留意しているところであり、この公式参拝が宗教的意義を有しないものであることをその方式等の面で客観的に明らかにしつつ、靖国神社を援助、助長する等の結果とならないよう十分配慮するつもりである。

 また、公式参拝に関しては、一部に、戦前の国家神道及び軍国主義の復活に結び付くのではないかとの意見があるが、政府としては、そのような懸念を招くことのないよう十分配慮してまいりたいと考えている。

 さらに、国際関係の面では、我が国は、過去において、アジアの国々を中心とする多数の人々に多大の苦痛と損害を与えたことを深く自覚し、このようなことを二度と繰り返してはならないとの反省と決意の上に立って平和国家としての道を歩んで来ているが、今般の公式参拝の実施に際しても、その姿勢にはいささかの変化もなく、戦没者の追悼とともに国際平和を深く念ずるものである旨、諸外国の理解を得るよう十分努力してまいりたい。

 なお、靖国神社公式参拝に関する従来の政府の統一見解としては、昭和五十五年十一月十七日に、公式参拝の憲法適合性についてはいろいろな考え方があり、政府としては違憲とも合憲とも断定していないが、このような参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できないので、事柄の性質上慎重な立場をとり、差し控えることを一貫した方針としてきたところである旨表明したところである。それは、この問題が国民意識と深くかかわるものであって、憲法の禁止する宗教的活動に該当するか否かを的確に判断するためには社会通念を見定める必要があるが、これを把握するに至らなかったためであった。

 しかし、このたび、「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」の報告書を参考として、慎重に検討した結果、今回のような方式によるならば、公式参拝を行っても、社会通念上、憲法が禁止する宗教的活動に該当しないと判断した。したがって、今回の公式参拝の実施は、その限りにおいて、従来の政府統一見解を変更するものである。

 各閣僚は、内閣総理大臣と気持ちを同じくして公式参拝に参加しようとする場合には、内閣総理大臣と同様に本殿において一礼する方式、又は、社頭において一礼するような方式で参拝することとなろうが、言うまでもなく、従来どおり、私的資格で参拝することなども差し支えない。靖国神社へ参拝することは、憲法第二十条の信教の自由とも関係があるので、各閣僚自らの判断に待つべきものであり、各閣僚に対して参拝を義務付けるものでないことは当然である。