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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 李豊平浙江省長主催歓迎宴における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 杭州
[年月日] 1982年9月29日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,235−236頁.
[備考] 
[全文]

 李豊平浙江省長閣下並びに御在席の皆様

 本夕は,私どものために盛大な晩餐会を御開催いただき,また只今は,李省長閣下のあたたかい御言葉を賜わりました。一同を代表して厚く御礼を申し上げます。

 私は,日中国交正常化十周年の記念すべき時に,貴国政府のお招きにより貴国を訪問する機会を得ましたが,ここ杭州の地を訪れることは,出発前から私どもの大きな喜びの一つでありました。

 私ども一行が本日午後,空港に降り立ってから,わずか半日余しかたっておりません。しかし,それでも,杭州が水清く山緑なる素晴らしい景勝の地であることを知るには十分でありました。とりわけ心を打たれたのは,古えの西施の姿に譬えられる西湖であります。私どもも,文人を真似てこの水に舟を浮かべましたが,湖畔の柳,湖面に映ずる白堤のたたずまいには,全く心を魅了され,異郷の地にあることをしばし忘れる思いがいたしたのであります。

 自然と歴史からこのような贈り物を,後世に伝えるために大切に保存して行く努力と配慮は,実に容易ならぬものであります。私は,皆様の郷土を愛し,その美しさを保って行こうとされる熱意に,強く感銘せずにはいられませんでした。

 杭州の存在する浙江省一帯は,今を去る千年の昔に,貴国と日本との海の往来の玄関口であり,ここから多くの文化が我が国に渡来しました。交易はその後も連綿として続けられ,この地を中心に産する絹の織物,お茶や焼物などは,いまなお日本人が広く愛用するところであります。貴国には,「山と山は出合うことはないが,人と人とは出合うものだ」という諺があると聞きます。あるいは,きょう,郊外の路傍で出合った人々の祖先は,私どもの祖先と顔を合わせたことがあるのかもしれません。杭州はそのように思わせるほど,はじめての私にとって懐かしいところとなりました。

 日本とゆかり深いこの杭州の地に,日中両国の国民が共同して建てた「日中不再戦の碑」があることは,決して偶然ではありません。この碑にこめられた恒久の平和の願い−私は,それが,単に日中両国国民のみならず,広くアジア,ひいては全世界の人々に支持されることを切望するものであります。

 御在席の皆様

 それでは最後に御主人の杯をお借りして,日中国交正常化十周年を祝し,中華人民共和国の一層の繁栄のために,李省長閣下と御在席の皆様の御健康のために,日中両国国民の子々孫々の友好のために

 乾杯!