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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 趙紫陽総理主催歓迎宴における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] 北京
[年月日] 1982年9月26日
[出典] 鈴木内閣総理大臣演説集,228−231頁.
[備考] 
[全文]

 趙紫陽総理閣下,並びに御在席の中国の友人の皆様

 私は,まずはじめに,趙総理閣下が我々のために催して下ったこの盛大な晩餐会に対して,また只今の心暖まる歓迎のお言葉に対して,心からの謝意を表します。

 趙総理閣下

 御在席の皆様

 日中国交正常化十周年にあたり,五月には閣下を日本にお迎えし,また,このたびは,貴国政府のお招きにより,私が妻ともども貴国を訪問することができました。記念すべき同じ年のうちに,両国首脳の相互訪問が実現いたしましたことは,正に,日中両国関係の歴史における画期的な出来事であり,まことに御同慶にたえません。

 趙総理閣下とお目にかかるのは,カンクン・サミット,先般の御訪日に次いで,これで三回目でありますが,もはや十年の知己のごとき感がいたします。

 政府首脳間だけではなく,両国の国民間におきましても,この友情の十年を祝って,両国各地で,さまざまの分野における多彩な行事が繰り広げられ,熱い握手が交わされています。

 更に,近時の通信手段の発達は,居ながらにして,両国民を緊密に結びつけ,その友好を促進しています。我が国を訪れる貴国指導者の一挙手一投足や,我が国での各種スポーツ大会における貴国選手の活躍ぶりが衛星中継で中国国内に伝えられております。例えば,昨年,日本で行われた女子バレーボール世界選手権大会における日中間の白熱した試合は,中国国民を興奮のるつぼに巻き込んだと聞きます。また,日本国民も毎日のようにテレビのニュースや記録番組で,貴国の姿を目のあたりにし,ここ北京の王府井{ワンフーチンとルビ}の街頭風景や,奥地シルクロードの美しい風光などは,すでに日本国民に馴染み深いものになっています。本日も,日本では多くの人々が,日曜日のお昼の茶の間で北京国際マラソンの模様を楽しんだものと思います。

 日中両国間の友好は,こうして十年前には想像もつかなかったような深さと広がりを獲得するにいたりました。

 御在席の皆様

 両国にこのような友好関係をもたらした日中国交正常化は,日中両国民の長い間の願いを実現し,アジアの平和と安定の基礎を築くため種々の障害を乗り越えて実現したものであります。

 私はここに,日中国交正常化のために身を削る思いで尽力された先人たちの功績に深い敬意を表するものであります。

 日中共同声明は,両国がかかる歴史的決断を下すにあたっての認識を示し,以降の両国関係のあり方を律するものであります。両国は,その後,この共同声明に基づき,平和友好条約を締結いたしましたが,これら両文書こそは,今後永きにわたり両国関係を発展させていく上での基本的な枠組みを定めるものであり,今日なお,些かもその意義を失っておりません。国交正常化十周年という記念すべき時を迎え,将来を展望するにあたり,私は,現在の両国関係が依って立つこの原点を見つめることが極めて大切だと考えるものであります。

 御在席の皆様

 この十年の足どりを振り返ってみると,日中両国の友好関係は着実に増進してまいりました。人や物,更には文化など,両国の交流は,量的な拡大にととどまらず,多角的な広がりをみせております。しかしながら,多方面にわたる交流の増大は,時として摩擦やきしみを生じやすいものであり,また他方,変転極まりない国際情勢の中では,両国を取り巻く環境にも,時々刻々の変化が生じることがありましょう。

 日中両国は,社会制度や物の考え方や生活習慣など,多くの相違を有する国でありますが,両国の善隣友好の関係の発展は,両国民の利益に合致するばかりでなく,ひいてはアジア,世界の平和の増進に寄与するものであります。我々は,この点に思いをいたし,不断の対話を通じて,両国間の関係にいささかも亀裂を生ぜしめないようにしなければなりません。

 幸いにして,両国民の間には,二千年の交流のみが培いうる国民的友情と善意とが分かち合われております。この友情と善意こそ両国民の悠久にわたる友好の基盤であり,我々の貴重な財産であります。我々は,この共通の土台を更に一層拡大することはもとより,絶えざる努力によって相互理解を進め,相違は相違として認め合いつつ,いかなることがあっても揺らぐことのない信頼を築きあげねばなりません。

 私は本日,趙総理閣下と腹蔵のない意見を交換いたしました。更に,引きつづき趙総理閣下始め貴国要路の方々と率直に話し合い,日中両国間の相互理解と信頼の関係をより確かなものにしてまいりたいと存じます。

 日中両国民が誠実に努力を積みあげていくならば,両国民の友情の絆は更に一層強固になり,日中関係の将来は誠に洋々たるものとなるでありましょう。

 御在席の皆様

 ここで,いささか私事に触れることをお許し下さい。私は三年前にも中国に遊ぶことができ,各地で暖かいおもてなしを受け,貴国の風光の中に身を置く喜びを味わいました。しかし,私の妻は,日頃私の話を聞いては,もっぱら羨ましがるばかりだったのであります。ところが,今回,お招きによりはからずもその機会を得,その喜びはひとかたではありません。

 北京はいま秋,絶好の季節であります。また,活力あふれる工業都市上海と美しい西湖にて知られる杭州を訪れることも,今よりの楽しみであります。

 ここに私は,趙総理閣下をはじめ貴国政府の御好意と御心遣いに深い感謝を表したいと存じます。

 趙総理閣下

 御在席の友人の皆様

 それでは,最後に,御主人の杯をお借りし,日中国交正常化十周年を祝って,子々孫々にわたる日中の平和友好のために,アジア及び世界の平和,安定,そして繁栄のために,趙総理閣下の御健康のために,御在席の皆様の御健康のために,乾杯いたしたいと思います。

 乾杯!