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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 華国鋒総理を迎えての晩餐会における大平内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1980年5月28日
[出典] 大平内閣総理大臣演説集,314−317頁.
[備考] 
[全文]

華国鋒総理閣下,谷牧副総理閣下,黄華外交部長閣下,符浩大使閣下並びにご在席の中国の友人の皆さま

私は,今夕,このささやかな宴を催すにあたり,何よりもまず,日本国政府と日本の国民を代表して,華国鋒総理とそのご一行のこのたびのご来日に対して,心からの歓迎の意を表したいと思います。

 私と私の妻は,昨年十二月,中国政府のお招きにより,中国を訪問いたしました。貴国の美しい首都北京において華総理と私は,二十一世紀への展望をふまえながら,双方が共通に関心をもつ広範な諸問題について,率直な意見交換を行いました。訪問は,極めて有意義にして,実り多いものでした。私は,ここに,思い出深い中国訪問をご準備いただき,北京,西安等各地において賜りました周到かつ心暖まるご歓待に対して,あらためて衷心からの感謝の意を申し述べたいと存じます。

 そして,風薫る五月,わが国は,華総理とそのご一行をお迎えいたすことになりました。われわれは,二千年にわたる日中関係において,はじめて両国首脳の相互訪問を歴史に刻むことができたのであります。

 両国のここに至る道のりは決して平坦なものばかりではありませんでした。私は,深い感慨が胸に迫るのを禁ずることができません。と同時に,私は,日中関係は,いまや,核心に入ってきたとの感をいよいよ深くするものであります。

 華総理閣下,われわれは,すでに八十年代への道のりを歩み出しました。その前途には,多くの困難が待ち受けています。世界のいくつかの地域では異常な緊張の高まりがみられます。また,世界経済も,スタグフレーションやエネルギーの制約をはじめ,多くの問題を抱えて,一層厳しさが予想されています。国際情勢は「連帯と協力」を求めようとする動きと「分裂と対立」を深めようとする動きが複雑に交錯して,極めて厳しい様相を呈しております。われわれは,この混迷を脱し,確かな未来の創造に向けて,全力を傾けなければなりません。

 華総理閣下,したがって,いまほど人類に英知と勇気が求められているときはないと思います。われわれの努力は地球上の混乱をほぐし,緊張を緩和し,対立を克服し,経済を正常な状態に復帰せしめることに向けられねばなりません。日本にとっても,中国にとっても,世界の平和と安定なくして自国の平和と繁栄はありえないことは明らかであります。その意味において,私は,困難な国際環境の下において日中関係が一歩一歩深められ,今日のこのゆるぎない友好関係を築き得たことをきわめて意義あることと確信しております。

 われわれは,今日,両国が享受している平和友好関係をひとり両国だけの共有財産にとどめることなく,これをアジア,ひいては世界の平和と繁栄のため役立てたいものと考えます。

 過般の訪中の折,西安において力一杯小旗を振って,私達を迎えてくれた多数の少年少女達の健康で,明るい顔がいまでも私の眼の前に浮びます。昨日は,日本の少年少女達が同機,閣下とそのご一行を宿舎迎賓館の前で歓迎いたしました。この子供たちの姿こそ,日中親善と世界平和の象徴であります。われわれは,この子供達に幸せな未来を用意しなければなりません。前途がいかにけわしいものであろうとも相協力して,平和な二十一世紀をこの子らのために残すことこそ,今日われわれに課された共通の課題であると信じます。

 私は,前回の中国訪問によって,貴国が,閣下をはじめとする多くの英邁な指導者の下に,国際協調路線に立ちつつ,国の近代化へ向けて力強い歩みを進めておられることを知りました。華総理閣下におかれては,今回の日本ご滞在を通じて,わが国の国民がいかに平和を希求しつつ勤勉に働いているかをご視察いただくことと信じます。また,いかに多くの日本国民が日中両国の親善を熱望しているかをも十分ご感得いただけるものと存じます。

 華総理閣下,閣下とは,ご滞在二日目にして,すでに二度の会談を了しました。会談のテーマは広範な分野にわたり,内容は,きわめて実り多いものであります。すでに会談においても申し上げたところでありますが,私は,わが国が貴国の近代化へのご努力に対し存分の支援を惜しむものではないことをこの席をかりて,あらためてお約束したいと思います。

 閣下の今回の日本ご訪問が日中両国の歴史に光輝ある壮挙として記録され,両国の一層の発展のために大きな貢献をなすものであることを確信いたしますとともに,ご滞在が有意義かつ楽しいものとなることを心から祈ってやみません。

 それではここで盃をあげて,

中華人民共和国の一層の繁栄のために,

日中両国間の平和友好関係の発展のために,

華国鋒総理閣下のご健康のために,

ご出席の皆さまのご健康のために,乾杯したいと思います。

乾杯!