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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中国交正常化の際の大平外務大臣及び二階堂内閣官房長官記者会見詳録

[場所] 
[年月日] 1972年9月29日
[出典] 日中関係基本資料集、430−433頁.
[備考] 
[全文]

 官房長官 私から明日の日程を申し上げ、つづいて大平大臣から記者会見を行いたいと思います。

 日本国政府及び中華人民共和国政府間の共同声明に両国首脳及び両外務大臣が署名を終え、これによって日・中間の永久平和・友好関係の樹立が出来ました。正に歴史的な瞬間であり、両国民の末長い平和を誓いあったものであると考えます。当地へ来て以来の記者・報道関係者の御協力に感謝いたします。特に総理からも、皆さまへ心から感謝の意を述べておいてくれとの伝言がありました。三十日の日程を申し上げる。午前九時三十分(上海時間)上海発、十三時五分(東京時間)羽田着、空港で総理から短いステートメントの発表があります。十三時四十分に総理・外相と私が宮中記帳にまいります。十三時五十五分に自民党本部で椎名副総裁、党三役、小坂日中国交正常化協議会会長及び副会長に対し報告。十四時二十分に臨時閣議を開きます。十五時から十六時まで官邸で記者会見。十六時より両院議員総会を招集し、報告の予定。なお、中国人民から日本人民に対する贈り物として、パンダ雌雄一対がおくられたことを報告いたします。

 大平大臣 四日間にわたる日中両国首脳間の実りある会談の成果として、本日ここに発表されました日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明により、ついに懸案の日中国交正常化が実現することになりました。国交正常化にあたっての日中双方の基本的認識と姿勢は、共同声明の前文に明らかにされておる通りであります。

 不幸にして、日中間に永らく存在していた不正常な関係に終止符が打たれ、両国間に平和友好関係が生まれますることは、アジアの緊張緩和、ひいては世界の平和に対する重要な貢献となるものと信ずる次第であります。

 次に共同声明本文の、とくに重要な部分につきまして、簡単にその趣旨を御説明申し上げます。

 第一項に明らかにされております通り、日中両国間の不正常な状態は、本日をもって終わりを告げることになりました。その具体的現われとして、本日から両国間に外交関係が樹立されることになりますが、この点につきましては、第四項を御参照していただきたいと思います。

 次に、日中国交正常化の当然の前提である中華人民共和国政府の承認につきましては、第二項において日本政府の意思が明確に述べられております。

 また、台湾問題に対する日本政府の立場は、第三項に明らかにされておる通りであります。カイロ宣言において、台湾は中国に返還されることがうたわれ、これを受けたポツダム宣言、この宣言の第八項には、カイロ宣言の条項は履行されるべしとうたわれておりますが、このポツダム宣言を我が国が承諾した経緯に照らせば、政府がポツダム宣言に基づく立場を堅持するということは当然のことであります。第五項に明らかにされておる中華人民共和国政府の賠償放棄につきましては、過去の日中間の不幸な戦争の結果、中国国民がこうむった損害がきわめて大きなものであったことに思いをいたすならば、我々としては、これを率直かつ正当に評価すべきものと考えております。

 国交正常化とともに、より重要なことは、社会制度を異にする日中両国が、それぞれの立場を尊重しながら、恒久的な平和友好関係を築きあげていくことであります。このような日中関係の指針となるべき原則は第六項に掲げられておりますが、第八項の平和友好条約の締結も同様な両政府の前向きの姿勢を反映したものであります。

 なお、最後に、共同声明の中には触れられておりませんが、日中関係正常化の結果として、日華平和条約は、存続の意義を失い、終了したものと認められる、というのが日本政府の見解でございます。

 問 第四項なんですけれども、「両政府が国際法、国際慣行に従って、それぞれの首都における大使館の設置それから任務遂行のために必要なすべての措置」をとるとされていますが、当然のことに台湾の在日大使館、あるいは台北にある日本の大使館の閉鎖、あるいは引き揚げということだろうと思うんですけれども、これの具体的な期限、あるいは、いつこういう措置が行われるか、ということはどうお考えですか。

 大臣 日中国交正常化の結果といたしまして、台湾と日本との間の外交関係は維持できなくなります。したがいまして所要の残務整理期間を終えますと、在台日本大使館は閉鎖せざるを得ないと思います。その具体的な時期はそう遠くない将来であると御理解いただきたいと思います。

 問 第五項に関連しまして、さきほど外務大巨は過去に思いをいたすときに、それなりに正当にかつ率直に評価しなければならないとおっしゃいましたが、賠償請求権放棄の見返りということではないにせよ、今後の中国建設に我が国が協力していく、心からの協力をしていくということを意味するものですか。

 大臣 正当に評価するということは、過去の不幸な戦争におきまして、日本側が中国国民に与えた有形無形の大きな損害に対しまして、日本は深い反省の意を表明したわけでございます。

 中国側といたしましては戦勝国であり、被害者の立場にあられます。したがいまして、いかような請求も可能である立場にあるにもかかわりもせず、賠償請求権を放棄されたということに対しましては率直に評価しなければならない、というのが日本の立場であります。今後の両国の経済建設は、それぞれの国の計画に基づきまして自主的に進められるものでございます。我々は互恵平等の立場に立ちまして、お互いに経済交流を進めてまいることが当然のことでございまして、この第五項とは直接の関連はございません。

 問 年内にも大使交換が実現するかどうか、この辺のところをお伺いしたいと思います。

 大臣 これは出来るだけ速やかにということでご理解していただきたいんですが・・・私どもといたしましては事情の許す限り早急にことを運ばなければならないと考えております。

 問 (共同声明)第八項にいわれています平和友好条約は、どういう内容が考えられているのか、それからその締結の時期のメドはいつ頃が考えられているのか。

 大臣 その点につきましては、さきほどの私の説明にありました通り、第六項に今後の日中関係を律する原則がうたわれておるわけでございます。平和友好条約も同じ文派の上にある考え方でございまして、今後の日中両国の間の関係を発展させるために、それを規律するものを作り出したい、とこういう考えでございます。言いかえれば日中両国間の暗い過去の清算は、本日のコミュニケによりまして終了いたしまして、これからコミュニケの第六項と、そして今後日中両国間で考える平和友好条約、そういうものを基本にいたしまして、両国の親善友好関係の発展を図るという考え方でございます。その時期は両国の間に具体的日取りを決めたわけではございません。今後外交ルートを通じましてご相談すべきであると、心得ております。

 問 共同声明の前文の中に、「戦争状態の終結は、両国関係の歴史に新たな一ぺージを開くことになろう」とございますけれど、これはこの共同声明発表によって、中国と日本との法的な戦争状態の終結ということを意味するわけですか。

 大臣 前文は今回の国交正常化に臨む両国の政治的姿勢をうたったものでございます。これを受けて一項から九項までの本文が形成されておるんでありまして、いまのご質問の点につきましては前文と第一項を合わせてご勘案いただきまして、戦争終結の問題がこのコミュニケによりまして、完全に解決したものであるとご理解をいただきたいと思います。

 問 第七項に関連しまして、将来のアジアの完全保障について中国を含めたなんらかの話し合いや取り決めがなされるというふうに考えていいですか。

 大臣 第七項はこのコミュニケが、日中双方が友好関係を結んでおりまする第三国の利益を損うものではないということをうたうとともに、両国の共通の追求すべき道標として、この地域におきまして両国はもとより、他のいかなる国も、この地域では覇権を求めることについては、試みについては、反対するという基調的な考え方を示したものでございます。この地域の具体的な前向きな安全保障の仕組みをどのように構想してまいるかにつきましては今後の課題になると思います。

 問 迎賓館の第一のお客さまとして周総理を迎えたいという発言が滞在中ございましたけれど、正式に周総理に対する訪日要請、招請というものはなされたわけですか。

 大臣 両首脳のお話し合いの中で、いまご指摘になりましたような会話がもたれたことは事実でございます。これは外交的にどういう時期に具体化してまいるかということにつきましては、今後両国政府の間で検討すべき問題であると思います。

 問 外相は中国訪問に先立って日本の友好諸国に対して日中正常化の方針をご説明なさいましたが、正常化が実現した現在、今後各国に対してこの結果をご説明するお考えでございますか。特にハワイ会談を開いた米国にたいしては、誰かを派遣するというようなことは考えられるでしょうか。

 大臣 本日発出いたしました共同声明につきましては、今日の瞬間までに私どもの在外公館を通じまして主な友好国には全部通報済みであります。今後、北京における首脳会談などにつきまして、なお関係各国に説明をする必要があるかどうか、もしあるとすればどういう時期でどういう方法でやるべきか、そういうことにつきましては帰国後、この秋の政府全体の政治スケジュールとの関連において検討してみたいと考えております。

(九月二十九日共同声明調印後、北京プレスセンターにて)