データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中覚書貿易会談に関する周恩来総理発言メモ

[場所] 北京,人民大会堂
[年月日] 1970年4月19日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),961−963頁.「増補改定 日中関係資料集(一九七一年刊)」,140−3,313−5頁.
[備考] 
[全文]

 出 席 者

 中国側 周恩来,李先念,郭沫若,劉希文,丁西林その他

 日本側 松村謙三,藤山愛一郎,古井喜実,川崎秀二,田川誠一,内藤誉三郎,黒金泰美,岡崎嘉平太他団員一同及び日中覚書貿易北京駐在連絡事務所代表・西園寺公一

△農村からの人口流出,都市への人口の集中化は,都市における臨時工の増大を招き,軍国主義のための予備軍と化している。

△佐藤は共同声明によって安保条約を無期限にし,安保によって日本人民を米帝の戦車にしばりつけた。佐藤はニクソンと暗黙の了解を行なっている。これはここ数年のうちに明るみに出るであろう。

△日本に米軍の基地があり,米帝はこれによって日本を支配している。日本人民は安保の即時撤廃を希望しているが,このような情勢下では,国民は自由にその意志を表現できない。これは日本の内政問題だが,安保が日中問題を阻害しているからあえて言及した。

△佐藤は岸と呼応して,ニクソンと共同声明を出す一方,岸が台湾を訪問して日華協定促進委員会を作った。これは軍国主義の露骨な現われである。

△日本は米帝に追随するばかりか,そのほこ先を中国,朝鮮,インドシナにむけている(共同声明)。米国は南朝鮮から軍隊を引揚げ,佐藤政府はこれに代って日本の軍隊を出そうとしている。これは日本帝国主義者の考えであり,田中義一の上奏文につながる考えである。

△「山本五十六」の映画は軍国主義の宣伝であり,日本政府による完全な軍国主義のための世論準備である。

△佐藤政府は日本の防衛費を増大させ,日本の防衛線を朝鮮,台湾にまでのばし,インドシナにも介入しようとしている。マラツカ海峡も日本の生命線にしている。

△佐藤は大東亜共栄圏を夢みている。日本経済は非常に発展しているから,海外拡張政策をとらざるをえなくなっている。

△日本に自衛隊があるということは中国が真っ先にいい出したことである。日本の自衛力拡大は経済が拡大していればすぐにでもできることである。日本は安保を廃棄すれば,自衛権はある。日本反動政府は米帝に追随し,三国に対して侵略を実現しようとしている。彼らは米国と天下を分割しようとしている。

△佐藤は沖繩返還で小手先を使ったので北方領土返還は困難になっている。

△ソ連は日本に求めるものがある。ソ連は西側の商人以上に腰を低めて日本と取引している。

△佐藤は台湾,朝鮮を領有しようとしており,北方領土問題は念頭にない。

△日本の一部独占資本はシベリア開発が大いに発展性ありとみている。

△中国の経済政策は毛思想にしたがい,自力更生である。

△貿易は国内市場に立脚して行なうべきであり,対外拡張主義に基づいて行なうことには反対である。われわれは平和五原則の一環として対外貿易を行なっている。貿易は互恵平等,有無相通ずる考え方で行なうべきである。

△借款,延払い,海外投資等によって他国の資源を買いたたき,製品を高く売りつけ,自国は工業国となり,他国は原料供給国になることには反対である。これは帝国主義,植民地主義である。(同趣旨の野坂発言を批判)

△中国の対外借款の原則は(1)何らの特権も要求しない(2)利息はとらない(3)借款の内容はその国が自らを工業化し自立できるようにしている。

△佐藤は,七〇年代には世界の資源を再配分し,米,ソ,西独,英,仏との間で世界の勢力範囲を再配分しようとしている。これは強権政治であり,これに反対する。

△中国の対外貿易四原則は(1)南朝鮮,台湾を助けようとしているものとは貿易できない(2)台湾,南朝鮮の企業に投資しているものとは貿易をしない(3)ベトナム,ラオス,カンボジアへの米国の侵略戦争のために武器を送っているものとも貿易しない(4)日本における米系合弁企業とも貿易をやる意思はない。

△米国は対中貿易の緩和,ジャーナリストの派遣などを宣伝しているが,これは枝葉末節の問題で,根本は台湾問題である。これを解決しなければ意味がない。

△友好MTを問わず上記四条件に照らし,違反しているものがあれば,契約後でもこれを破棄する。われわれは日本軍国主義を助けることはできない。

△五〇年代,六〇年代の中国を七〇年代の中国とみてはならない。各民族は独立自主で相互に有無相通ずるべきであり,相互に依存しあうべきではない。平和五原則は貿易にも適用する。

△中国は人的資源が豊富であり,これによって自力更生ができるし,国内市場も拡大できる。フルシチヨフは六〇年代に中国と手を切ったが,中国はこれを契機に自力更生し先端科学まで開発した。

△われわれは長い間日本人民との友好をはかってきた。しかし佐藤は中国を無視し蒋介石との友好をはかってきた。われわれは日本人民を尊重し,子孫代々仲よくしたいと考えている。われわれは広範な人民と交流したいと思ってきた。

△過去日中間には多数の人々の交流があったが,文革等の影響で交流が少なくなっていた。今後はこれがふえるであろう。

△国交未回復の状態では本格的な交流はできない。中国と正式の交流をするためには(1)中国政府を承認し(2)台湾との関係を切り米帝追随を改めればよい。

△日中間には戦争の跡始末ができていないが,毛主席は日本の過去の侵略戦争は軍国主義者がやったことであり,これは過ぎ去った問題である。われわれは友好的に往来すべきであるといっている。中国のことわざにも「恨みは解きこそすれ結ぶな」といっている。

△われわれは日本人民を尊敬している。第二次世界大戦後日本人民の意識は高まっている。われわれは何回も平和五原則にたって日中国交回復をとなえてきた。しかし日本政府は蒋介石を相手にし,「二つの中国」「一つの中国,一つの台湾」を固執している。さらに日米共同声明で「台湾の安全は日本の安全にとって重要な要素」といっている。これでも日中友好はできるか。佐藤は中国敵視政策をとり,中国人民を無視している。

△われわれは佐藤の軍国主義,反中国政策,極東拡大政策に反対するが,平和を愛する日本人民とは仲よくしたい。われわれは侵略の野心はないし,体制上もその恐れはない。われわれは友好往来を通じてわれわれの気持ちを率直に述べる。

△交流促進のためには,政治見解を述べ,友好を促進し,軍国主義の弁解をすべきでない。われわれの東方に経済が発展し幸福な生活を営む独立した国ができることを望んでいる。

中日備忘録貿易弁事処発表の周恩来談話(4・19)の一部(北京)

一,人事交流について=ここ数年来,プロレタリア文化大革命で忙しかったため,招待したのはいくらか少なかった。今後はまた多くなるだろう。

一,日本の中国侵略のくだりについて=日本の友人が中華人民共和国を訪問され,少なからざる友人が毛主席と会った。多くの友人は日本が中国を侵略し,中国に対し申訳ないと述べた。これに対し毛主席は「それはすでに過去のことであり,日本軍国主義がやったことである。今両国人民は友好的に行き来をすべきであって過去のことは取り上げないことにしよう」と答えた。私たちの態度はこの通りだ。私たちがこれまで復しゆうする思想を人民の中に宣伝したことはない。中国のことわざにも「うらみはときこそすれ結ぶべきではない」というのがある。

一,対外貿易と経済援助について=(日本側発表よりさらにくわしく)われわれの対外貿易は平和共存の五原則の一つであり,平等互恵に基づいて行なうものである。われわれは有無相通じ,自分の必要とするものを輸入し,他人の必要とするものを供給してあげることを主張する。われわれは独占資本の対外拡張的な貿易に反対する。借款,延払い,投資その他の方法で,他人の資源を買いたたき,自分の商品を高い値段で売りさばき,自分の国だけ工業国に作り上げ,他人を原料供給国や農業国とみなすことに反対する。

日修(日本修正主義者集団の意)の議長野坂はかつて,日本の工業と中国の農業が協力しあうと述べたことがある。そこで私たちは,それでは農業中国,工業日本となって,中国をいつまでも日本に依存させる帝国主義,植民地主義の思想であると反ばくした。

私たちも一部の国に借款を与えているが,これには原則がある。それは(1)いかなる特権ももたない(2)利息をとらない(3)経済的に発展していない国を,工業を発展させて独立できるようにすること,の三つであって決して他人を自己に依存させるのではない。他人を自己に依存させるのは植民地経済であり,われわれが堅持しているのは平等互恵の原則を守ることである。(朝日秋岡特派員)(編注)

 編注 本資料は,中国の中日備忘録貿易弁事処の当局者が4月29日に発表したもので,4月30日付『朝日新聞』記事を『日中関係資料集』が採録したものである。同資料集の誤字等は『朝日新聞』に基き訂正した。

{(1)は本文ではマル1}