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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「吉田書簡」撤回要求の人民日報論評

[場所] 
[年月日] 1965年2月12日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),556−558頁.外務省アジア局中国課「中共対日重要言論集」第11集,11−4頁.
[備考] 
[全文]

 日本の佐藤政府は登場して以来,中共を敵視する一連の悪事を働いてきた。そして,今また,いわゆる「吉田書簡」を持ち出し,蒋介石一派を引き入れて,日中両国の民間貿易を破壊しようとしている。これは,佐藤政府の重大な中共敵視政策のあらわれである。

 ところで,「吉田書簡」というのはいったいどういうものなのであろうか? 昨年の5月,佐藤首相の舞台うらの主人である吉田茂氏が台湾に出かけまた蒋介石一派に手紙を書いたことは,人びとの記憶にも残っていることである。日本の新聞の報道によれば,「吉田書簡」なるものは,蒋介石一派にたいして,「日本はここしばらくは,中共向けビニロンプラントの輸出は許可しないこと,たとえ今後,輸出を許可することがあっても,国の銀行の資金は使わないこと」を約束している。

 この書簡の内容は,実質的には中共貿易を蒋介石一派の指図に従わせ,いうなりにならせるということであることに絶対間違いない。これは,客観的には中共貿易の大きな門をとざしてしまい,日中両国の民間貿易の発展の成果を破壊してしまうのと同じことである。

 もともと,「吉田書簡」というのは,実際には,日本政府の意見を代表したものである。しかし,当時の日本政府は,ずっとこれを持ち出すことをはばかっていた。佐藤政府は米国への追随に拍車をかけ,台湾の蒋介石一派の引き込みに拍車をかけ,日中民間貿易の破壊,とりわけプラント貿易の成果をさまたげる方針を決めた。佐藤政府は,この反動政策をおおいかくすために,行動の上で1歩1歩後退しながら,口先では「前向きの姿勢」だという言葉をたくさん並べたり,あるいは,「純粋に民間のベース」で日中貿易の問題を処理するなどといっている。

 最近,佐藤政府は,中共向けの2つ目のビニロン・プラントの輸出の許可にあたって,その本性をむき出しにし,国の銀行からの借款の便宜は全く与えることができないことを明らかにした。

 佐藤首相は米国訪問を終えて帰国後間もなく,衆議院の2月8日の会議で,政府が「吉田書簡」の拘束を受けることを公然と言明した。こうして,事の内容が明るみに出た。

 佐藤政府はもともと,「吉田書簡」をその中共政策の一かんとして,とっくに引きついでいたのである。これは,佐藤政府が今,頑固に米国に追随し,蒋介石一派と気脈を通じ,日中貿易を破壊して,いっそう露骨な中共敵視の道を歩むことを公然と言明したことを意味するものである。

 ところで,蒋介石一派を日中貿易に介入させようとする佐藤政府の卑劣な行為は,日本の世論と日中貿易に従事する日本の企業家の間で強い不満と非難をまき起こしている。日本の「朝日新聞」は,「佐藤内閣のやり方は,日中貿易を差別扱いし,冷淡な待遇をするものだ」と指摘している。また,ニチボー社長の原吉平氏は,「佐藤内閣はその他の国へのプラント輸出には国の銀行からの融資を認めながら,中共にたいしてだけ民間ベースでやらせようとしているが,これは,何ともおかしなことだ」と不満をぶちまけている。

 日本の実業家は,佐藤政府が「吉田書簡」にしがみついているのは,全く,「自主性がない」といってこもごも非難している。

「共同通信」によると,通産省の良識ある人びとでさえ,佐藤首相のやり方に強い反感を示している。

 佐藤政府は,米国のいいなりになり,中共政策の問題では,米国と「よく相談する」などといい,米国の顔色をうかがいながら事を運んでいるが,これでは全くお話しにならない。その上さらに,こんどは蒋介石一派の指揮に従っている。蒋介石一派は米帝国主義の召使いであって,とっくに中共人民から見捨てられている人間のくずである。こともあろうに,佐藤政府がこうした政治的なミイラに日本の中共政策を左右させ,日中貿易をかく乱させているのは,全くおかしなことである。

 どうして佐藤首相はすべてを無視して,こうした大悪事を働いているのであろうか? これは日本軍国主義勢力が中国での失敗にしょうこりもなく,中共の領土台湾をかすみ{前1文字ママとルビ}とる機会をうかがっているためである。ほかでもなく,「吉田書簡」は,この罪悪計画を実行する重大な段取りなのである。現在,佐藤政府が「吉田書簡」を聖旨と奉って,蒋介石一派との結託を強めているのは,ほかでもなく,かれのこうした罪悪的な腹黒い意図を暴露したものではないだろうか? われわれは佐藤政府に警告する。それはつまり,佐藤政府がどんな悪だくみをもてあそんで,わが国の領土台湾をかすみ{前1文字ママとルビ}とろうとしても,中共人民は絶対にそれを許すものではないということである。問題は非常にはっきりしている。「吉田書簡」は,日中関係に重大な黒い影を投げかけ,とりわけ,日中貿易の発展の道にこの上なく大きな障害を設けた。したがって,日中関係を改善し,日中貿易を発展させようと思えば,佐藤政府がまず「吉田書簡」を撤回し,行動でもって誠意を裏付ける必要がある。そうでなければ,佐藤政府が日中貿易破壊の責任を負わねばならない。蒋介石一派を日中貿易に介入させるどんな事柄にも,われわれは強く反対する。佐藤政府は,蒋介石一派とグルになることは,けっしてよい結果が得られないということを知るべきである。