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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 周鴻慶事件に関する国府外交部声明

[場所] 
[年月日] 1964年1月10日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),490頁.外務省アジア局中国課監修「日中関係基本資料集」,227頁.
[備考] 
[全文]

 中日関係が目下の重大段階にまで進展した根本原因は、日本政府が利害をはっきりわきまえず、是非を顧みず、親中共政策をとるとともに、中共の日本国内における浸透活動展開を放任し、その日本自身に対する危険を覚醒しなかったことである。このような状況は中日関係を大きく損うばかりでなく、すでに中共の対外浸透侵略気炎を助長し、アジア全体の反共形勢に極めて不利な影響を及ぼしている。

 日本は一九六二年十一月、中共といわゆる五カ年民間貿易備忘録を結んで以来、中共に利を与える行為が日ましに顕著となった。昨年八月、日本はさらに閣議で政府銀行による保証で、延払い方式により、中共にビニロン工場設備を売却することを認可し、ついでさらに中共地区各地で大規模な商工展覧会を開催し、中共の経済危機を緩和し、中共の侵略力を増長した。暴虐を助けること、これより甚だしきものはない。

 上述の状況のもとにあって、昨年十月、周鴻慶の亡命事件が発生した。周事件は一つの極めて明確な政治問題であり、絶対に孤立した事件ではなく、日本政府の一連の親中共行為の一環である。ここに周はすでに中共地区に強制送還されるに至ったが、日本政府は周事件処理について誤り、人道上の原則を尊重し国際慣例に照らしてその亡命の初志達成に協力することをしなかったが、これは、全世界の自由を求める人たち、とくに現在中共地区で救いを渇望するわが大陸同胞に対し、大きな打撃を与えるものである。

 わが政府及び国民ならびに海外同胞は、日本政府の以上の種種の親中共行為に深く憤慨している。日本政府の媚共親共政策が続くならば、わが国の利益に重大な損害を与えるばかりでなく、日本自身もまた一歩進んで共産党に乗じられ、ついには必ず赤化されるであろう。そうなれば中日両国の関係は維持し難くなり、ひいてはアジア全体の平和と安全に影響する。

 中華民国は日本の近隣であり、第二次世界大戦後、わが政府は一筋に寛大を旨とする精神をもって、日本が徹底的に悔悟し、ともに東亜の安全と繁栄を計ることを願った。その故にこそ、わが方は当時在華中の日本軍俘虜及び民間人二百余万人の生命と自由に対し、等しく安全保障を与え、その全員を日本へ送還した。しかるに今次周事件発生後わが方の日本側への要求は僅か一人の中国人の生命と自由を保障するにすぎなかったにもかかわらず、日本政府はついに取り合わず、一方的行動をとって、周を中共地区へ強制送還した。これは道義の背棄であり、わが政府と人民の絶対に容認し難いところである。故に日本政府に対し、一再ならず厳重な警告と抗議を提出して、その速やかなる覚醒を促し、その対華政策を徹底的に明確にすることを要求した。もし日本政府が手前勝手に媚共、親共政策を続けて、わが国の「徳をもって怨に報ゆる」精神を顧みることなく、中日両国間の既存関係を惜しみなく犠牲にするならば、今後中日関係の上で生ずるあらゆる重大な事態については、日本政府が完全にその責任を負うべきである。