データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 周鴻慶事件についての外務省情文局発表,周鴻慶問題について

[場所] 
[年月日] 1963年12月30日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),489頁.外務省情報文化局「外務省公表集」,昭和38年下半期,71−2頁.
[備考] 
[全文]

 周鴻慶氏の問題については,政府は関係法令の示すところに従い,また友好国たる中華民国の立場にも深甚な注意を払いつつ,解決に努力してきた。また,その処理にあたつてはなお慎重を期するため,世界人権宣言,国連憲章等に規定された個人の人権尊重および人道的取扱いの大原則を尊重する方針をとつてきた。

 中華民国政府は,この問題に大きな関心を示し,これを政治亡命の問題として取扱い,中共への帰還を認めぬようくりかえし強く要望してきた。わが国としては,日華両国の友好関係維持の見地より,この問題の取扱いについて十分な考慮を払い,中華民国政府に対して,在京中国大使館あるいは在華日本大使を通じて,あらゆる必要な説明を行なつてきたほか,さきほど後宮アジア局長を訪華させて,この問題の経緯処理方針および日本側真意などを詳細に中華民国政府に伝え,その理解を得るよう万全の努力を払つた次第である。

 しかるに,このほど周氏の意思が,結局において中共帰還にあることが判明した以上,わが国の法制上同人の意思を尊重せざるをえず,明年一月一日以降出国を許可することに本日決定した。

 政府としては,中華民国政府がこの間の事情をよく理解され,この問題のごとき一私人の思慮の浅い行動から生じた不幸な出来事により,わが国と中華民国との間の伝統的な友好のよしみが損なわれるがごとき事態に立ち至らぬよう大局的考慮を払われることを切望するものである。