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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 周恩来中国首相の対日貿易3原則に関する談話

[場所] 
[年月日] 1960年8月27日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),1041−1042頁.中共対日重要言論集第6集,171−4頁.
[備考] 
[全文]

   ‐ 周恩来総理,鈴木一雄日中貿易促進会専務理事会見記録

   (一九六〇年九月十三日 人民日報)

 あなたは多くのことを話されたが,私もここで,中国の日本に対する貿易政策について話しをしよう。日本人は「三原則」という言いかたをよろこんで使つている。私もここで,中日貿易の三原則についてのべたい。この三原則は,岸信介の中国敵視政策との闘いの発展のなかから生れたものである。これまで中日双方は,民間団体の協定を結び,民間協定によつて,中日貿易を発展させようと考えた。岸政府の期間を通じて,このようなやり方ではやつてゆけないことが証明された。岸信介は民間協定の実施を認めず,これを保障せず,中国を敵視する政策をとつてこの協定を破壊した。われわれは,こうした行動を容認できず,中日間の貿易往来を二年半停止するよりほかなかつた。中日両国人民のねがいにもとずいて中日貿易をしだいに再開することができるならば,両国人民にとつて非常によいことである。しかし,池田政府の態度が,どんなものであるか,われわれはなお観察しなければならない。われわれがここに提出する三原則というのは第一に政府間協定,第二に民間契約,第三に個別的な配慮である。

 まず最初に,すべての協定は今後,双方の政府が締結して,はじめて保障がえられる。なぜならば,過去の民間協定は日本政府が保障しようとしなかつたからである。政府間協定はどうしても,両国政府が友好の方向に発展し,正常な関係を樹立するなかではじめて調印されるものである。さもなければ,調印はできない。両国政府の関係については,劉寧一同志が東京に滞在中,すでに非常にはつきりとのべたとおり,やはり,これまでわれわれがのべてきた政治三原則を堅持するもので三原則は決して日本政府に対する過酷な要求ではなく,非常に公正なものである。すなわち,第一に,日本政府は中国を敵視してはならないことである。なぜなら,中国政府は決して日本を敵視していないし,さらに,日本の存在を認めており,日本人民の発展をみてよろこんでいるからである。もし双方が話し合いをすすめるとすれば,当然日本政府を相手方とするものである。だが,日本政府は中国に対しこのような態度では臨んでいない。かれらは新中国の存在を認めず,これとは逆に,新中国を敵視し,台湾を承認し,台湾が中国を代表するとのべている。また日本政府は新中国政府を会談の相手方にしようとはしていない。第二は米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀をろうしないことである。米国で今後大統領が民主党から当選するにせよ,また共和党から当選するにせよ,すべて「二つの中国」をつくることをたくらむであろう。香港にある台湾系の新聞の報道によると,共和党の「二つの中国」をつくるたくらみは消極的で,待つて見ていようとするものであり,一方,民主党が政権をとれば,「二つの中国」をつくるたくらみが積極的であり,主動的であろうとのべている。これはある程度道理にかなつていると思う。米国がこのように行ない,日本がこれに追随すれば,われわれはもちろん反対である。第三は中日両国関係が正常化の方向に発展するのを妨げないことである。われわれのこの三原則はきわめて公平であり,これを裏返してみればよくわかると思う。第一に,中国政府は決して日本を敵視せず,日本との友好を望んでいる。第二に,中国は一つの日本を承認しているだけであり,二つの日本をつくろうなどとはせず,交渉にあたつてはかならず日本政府を相手方とする。第三に,われわれは一貫して,中日関係が正常化の方向へむかつて発展することを励まし,支持し,援助してきた。なぜ,日本政府はこのようにやるわけにはいかないのであろうか。新しい日本政府については,池田首相にせよ,小坂外相にせよ,最近のいくつかの談話はよくない。われわれはもうしばらく観察する。一九五七年,私が外交部長であつたときと,一九五八年,陳毅副総理が外交部長になつてからの二回にわたつて,岸信介政府の対中国政策を非難したが,これらはいずれも,岸信介が中国を敵視する数多くの行動にもとづいて発表したものである。したがつて,現在,池田政府に対しても観察したいと思う。以上の状況からして,われわれはつぎのような結論を得ることができる。すなわち両国間のどんな協定も,政府によつて締結されるべきであり,民間の協定では保障がえられない。この協定には貿易,漁業,郵便,輸送などが含まれる。

 つぎに,協定がなければ,両国間で取り引きをすることはできないだろうか。そうではない。条件が熟すれば取り引きをすることができ,民間契約を結ぶこともできる。たとえば日本のある企業と中国のある公司が,お互いに友好を示しあい,そして双方の必要にもとづいて会談し,契約を結び,一定期間の取り引きをすることができる。もし契約がよく履行され,双方の関係もよく,両国の政治関係もよい方向に発展していくならば,短期契約を比較的長期の契約に変えることもできる。これは今後の発展を考えて言つたことである。第三は,個別的な配慮についてであるが,これはすでに二年間行なわれてきた。中小企業に特別の困難がある場合,日本の総評と中華全国総工会が労働者の利益から考えて,あつせんすることは正しいことである。今後も引き続き配慮を加えることができ,また,必要に応じて,数量をいくらか増すこともできる。この点については劉寧一同志がすでに東京で回答した。

 あなたがた日中貿易促進会は,以上の中日貿易の三原則に基づいて,みなさんからみてこれが友好的であり,双方にとつて有利でしかも可能な取り引きであると思われるものを紹介してくれればよいと思う。そして,わが国の国際貿易促進委員会と連絡してくれればよい。かれらはこの原則についてよくわかつている。個別的な配慮については,中華全国総工会と話合えばよいだろう。鈴木氏が帰国後,日中貿易促進会に関係ある会社の友人にこのことについて話してもさしつかえない。

 ここでもう一言つけ加えたいのは,われわれが引き続き日米安保新条約に反対する,ということである。この条約は中ソを敵とし,東南アジアを脅やかし,極東とアジアの平和にとつて不利だからである。日米安保新条約に反対し,独立,平和,民主,中立の日本をうちたてるために進めている日本国民の闘争をわれわれは支持する。日本国民に対する中国人民の敬意と支持を鈴木氏から伝えてほしい。

 (外務省中国課注,周恩来総理の鈴木一雄氏会見は六〇年八月二七日,その会見記録が,同年九月十日,周恩来に会見した穂積七郎,吉田法晴,長谷川敏三氏に手交されたもの。)