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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 陳毅中国外相の日米安保改定交渉非難声明についての近藤晋一外務省情文局長談話

[場所] 
[年月日] 1958年11月20日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),894頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第8号,59−60頁.
[備考] 
[全文]

一,十一月十九日陳外相は日米安全保障条約改正問題について声明を出したが,この声明は現在行われている日米安全保障条約の改正交渉の目的を曲解し,日本国民をまどわせ,日米両国の離間を狙つていることは明らかである。

二,現下の世界情勢の現実からしていかなる国も一国にて自己の防衛を全うすることは出来ない。中共も中ソ軍事同盟条約を結びこれを強化している。日本は自由民主主義の国として,自己の安全を保障するために米国と協力してきた。これは陳外相が非難するごとく,決して挑発したり,又帝国主義的政策に訴えるためのものではない。日本は憲法の規定するごとく平和主義及ぴ自由民主主義を基本的国是としており,それ故にこそ日本政府は国連憲章の原則及び精神に基き世界の平和と安全のために従来あらゆる努力を傾倒してきたし,今後もその立場を堅持することはいうまでもない。

 従つて日本がアジアにおける侵略行為に加担したり又東南アジアに侵略の野心をもつているとの陳外相の言明は日本国民の平和的願望と決意とを全く理解しないものであるといわざるを得ない。

三,陳外相は米国がアジアに侵略的野心をもち,日本を戦争にまき込む為に安全保障条約の改正をもくろんでいると述べているが,日本国民は米国が日本と同様に世界平和の確立に牢固たる熱意をもつておることをよく知つている。日米両国は国連憲章の原則と精神に基き世界平和を維持せんとする共通の目的のために協力しているものである。

四,現行の日米安全保障条約はいままで日本の安全を確保するためにその役割を果してきた。しかしながら現行条約は戦後日本の独立回復と同時に成立したものであり,其の後日本の防衛力増加其他諸般の情勢変化に伴い改めるべき諸点を含んでおり,日本国民の大多数もその改正を熱望してきた。そこで今回の条約改正交渉はこのような日本国民の願望に基き平等の立場に立つて現条約に必要な調整を加えることを目的とするものである。

 日本政府は日本国民の願望を充分考慮し,日本の安全を確保し且つ侵略の危険を未然に防止するに役立つような取極めをつくるため目下米国と話合いを進めているのである。

五,陳外相は日本が「中立の国家」となることを希望するといつている。然し自由民主主義を信奉する日本として,志を同じくする他の自由諸国と協力し,世界平和に貢献せんとすることを基本的方針としており,日本を無力化し孤立化せしめんとする如何なる企図にも,日本国民の大多数が反対するであろう。

六,日本政府は真の平和の確立は政治的信条のいかんにかかわらず互いの立場はこれを尊重するという基礎においてのみ可能であると信じている。日本国民が如何なる道を選ぶかは日本国民自らの決定することであつて,他のいかなる国からも指図をうける筋合のものではない。