データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 社会党訪中団と中国人民外交学会の共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1957年4月22日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),797−799頁.外務省アジア局中国課編「中共対日重要言論集」第2集,189−92頁.
[備考] 
[全文]

 日本社会党中国訪問親善使節団は日本と中華人民共和国との親善友好を増進し,両国間の国交正常化を促進する目的をもつて中華人民共和国を訪問した。中華人民共和国の政府ならぴに人民は両国間にまだ国交が回復していないにもかかわらず,同使節団を歓迎した。使節団団長浅沼稲次郎,団員勝間田清一,佐多忠隆,佐々木良作,曾禰益,穂積七郎,山花秀雄,成田知己の八名は訪問期間中,毛沢東中華人民共和国主席ならびに周恩来総理に敬意を表し,長時間にわたつて会談した。使節団はさらに北京市長彭真,中国人民外交学会会長張奚若,中国紅十字会会長李徳全,対外貿易部長葉季壮,水産部長許徳●{王へんに行},農墾部長王震,国家計画委員会副主任薛暮橋,対外貿易部副部長雷任民,郵電部副部長王子綱,中央気象局長徐長望,外交学会副会長喬冠華,全国人民代表大会常務委員会委員廖承志,漁業協会主任楊●{火へんに上が日で下が立}およびその他各界の関係のある人々と数回にわたつて会談した。会談では,つぎの問題について卒直な意見を交換した。

 一,日中国交回復に関する基本方針

 二,アジアならびに一般国際間における共通の問題

 三,日本と中国との経済提携

 四,貿易の一層の促進

 五,漁業における協力

 六,技術交流

 七,文化交流

 八,気象および郵電業務の協力

 九,居留民の往来,遺骨の相互交換

 会談は終始友好かつ誠実な雰囲気の中で行われ,幾多の具体的な成果を収めつつ,両国の親善友好の増進に極めて重要な役割を果した。よつて次の如く共同発表することに同意した。

一,日中国交正常化について

(1)両国の地理的,歴史的関係と現在の諸情勢に鑑み,日本と中国が政府間で速かに正式かつ全面的な国交を回復すべき段階にきたことを認め,日中両国の長期かつ積極的な協力関係を確立することが,諸懸案を友好的に解決する基礎であるとの意見の一致をみた。使節団は「二つの中国の存在を認めず,台湾をめぐる国際緊張は平和的に解決することを望む。国連での代表権が中国に対して承認されるべきである」との社会党の基本方針を説明した。中国政府はこれらの主張を歓迎した。

(2)両国の人的,経済的,技術的,文化的協力はこれを妨げている諸困難を克服していよいよ増大されることが必要であり,両国内に現存する民間協定の一部と,その他協議が整う見込みのある問題は,なるべく早く両国政府間の協定にまで発展させるべきである。

二,アジア,アフリカの平和と友好,協力について

(1)周知のように二つの陣営以外にアジア,アフリカではあらゆる植民地主義に反対し,民族の独立,経済の新建設,平和の保持などのため,勇敢に闘争している民族主義国家群があり,これがむしろ大勢を占めている。これら諸国のこのような要求は積極的に支持されるべきである。これら諸国の世界平和に貢献する役割は重視されねばならない。

(2)各国の社会制度とイデオロギーがいかに異るにせよ,平和的共存は必要であり,可能であつて,平和五原則とパンドン精神は尊重されねばならない。植民地主義は排除され,国際関係では国の大小を問わず,各国は等しく平等でなければならない。アジア,アフリカ各国間の経済,技術,文化の協力をいつそう強めることが重要である。

(3)第二回アジア,アフリカ会議が早期に開催されることは有意義である。

(4)アジアにおける対立する軍事ブロック体制を解消し,日,中,米,ソなどを含む太平洋または極東諸国家の集団的平和保障体制が確立されることが好ましい。

三,国際平和について

(1)国際情勢については必ずしもすべて意見が一致したわけではないが,世界には戦争の危険がまだ存在しているにしても,緊張は緩和の方向にあり,この方向はさらに推し進められなければならない。

(2)軍備は大幅に縮小され,相対立する軍事同盟体制(外国軍隊の駐留を含む)は解消し,話合いによる緊張緩和と戦争の防止がはかられねばならない。

(3)とくに核兵器,熱核兵器は製造,保有,使用が禁止されることが必要で,このために米,ソ,英など保有国間で禁止協定が早く結ばれ,その協定が成立するまでは,これら兵器の実験禁止協定が結ばれなければならない。また,実験禁止協定までは実験が禁止されるようあらゆる努力を払わねばならない。原子力の平和的利用は積極的に進めらるべきで,とくに米国における協力が必要である。