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日本政治・国際関係データベース
東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室

[文書名] 国民政府との講和に関する吉田書簡

[場所] 
[年月日] 1951年12月24日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),468‐470頁.条約集第30集第1巻.
[備考] 
[全文]

拝啓

 過般の国会衆、参両院における日本国との平和条約及び日米安全保障条約の審議に際し、日本の将来の対中国政策に関して多くの質問がなされ言明が行われました。その言明のあるものが前後の関係や背景から切り離されて引用され誤解を生じましたので、これを解きたいと思います。

 日本政府は、究極において、日本の隣邦である中国との間に全面的な政治的平和及び通商関係を樹立することを希望するものであります。

 国際連合において中国の議席、発言権及び投票権をもち、若干の領域に対して現実に施政の権能を行使し、及び国際連合加盟国の大部分と外交関係を維持している中華民国国民政府とこの種の関係を発展させて行くことが現在可能であると考えます。この目的のためわが政府は、千九百五十一年十一月十七日、中国国民政府の同意をえて日本政府在外事務所を台湾に設置しました。これは、かの多数国間平和条約が効力を生ずるまでの間、現在日本に許されている外国との関係の最高の形態であります。在台湾日本政府在外事務所に重要な人員を置いているのも、わが政府が中華民国国民政府との関係を重視していることを示すものであります。わが政府は、法律的に可能となり次第、中国国民政府が希望するならば、これとの間に、かの多数国間平和条約に示された諸原則に従つて両政府の間に正常な関係を再開する条約を締結する用意があります。この二国間条約の条項は、中華民国に関しては、中華民国国民政府の支配下に現にあり又は今後入るべきすべての領域に適用があるものであります。われわれは、中国国民政府とこの問題をすみやかに探究する所存であります。

 中国の共産政権に関しては、この政権は、国際連合により侵略者なりとして現に非難されており、その結果、国際連合は、この政権に対するある種の措置を勧告しました。日本は、現在これに同調しつつあり、また、多数国間平和条約の効力発生後も、その第五条(a)(iii)の規定に従つてこれを継続するつもりであります。この規定により、日本は、「国際連合が憲章に従つてとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる国に対しても援助の供与を慎むこと」を約している次第であります。なお、千九百五十年モスコーにおいて締結された中ソ友好同盟及び相互援助条約は、実際上日本に向けられた軍事同盟であります。事実、中国の共産政権は日本の憲法制度及び現在の政府を、強力をもつて顛覆せんとの日本共産党の企図を支援しつつあると信ずべき理由が多分にあります。これらの考慮から、わたくしは、日本政府が中国の共産政権と二国間条約を締結する意図を有しないことを確信することができます。

敬具

千九百五十一年十二月二十四日

吉田茂

在ワシントン国務省

ジョン・フォスター・ダレス大使殿