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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・カナダ首脳会談後の共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年1月19日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 昨年のシーアイランドサミットで初めてお目にかかりましたが、今回、改めて日本を訪問されたことに対しまして、心から歓迎したいと思います。

 今回、両国の関心事項を率直に意見交換ができうれしく思っております。

 日本とカナダは、様々な分野で、今までも協力してまいりました。お互い民主主義と市場経済を重視する共通の価値観を共有する両国にとって、まだまだ協力できる分野がたくさんあるのではないかと。言わば、両国はお互い将来可能性を持った協力分野があると、そういう点について、この首脳会談で、いわゆる眠っている可能性、潜在的な可能性を更に顕在化させるように成果を高めていくような、そういう関係にしたいということで、共通の認識を得ることができました。

 国連改革につきましても、今までにない改革の大きな気運ができてきたと。常任理事国入りについては若干意見の違いがありますが、国連改革につきましては、その必要性という認識については一致しているのではないかと思っております。

 今回、更に経済関係強化の方策に関する共同研究の実施などを含めた包括的な経済枠組みの検討を開始しようということでも合意いたしました。

 また、昨年末発生しましたスマトラ沖の地震、大津波と、こういう被災に対して被害者、あるいは復興支援、こういうことについては両国が国際社会とともに可能な限りの支援の手を差し伸べる、そういう点でも一致いたしました。

 今日の会談の成果を踏まえまして、日・加両政府間の政策協力が一層深まって、二国間関係全般が更によりよい方向に発展していくことを期待しております。

 ありがとうございました。

【マーティン首相冒頭発言】

 まず、私の方で申し上げたいのは、小泉総理と私との間で、津波の非常にひどい災害についての話をしました。そして、私としましては、日本がこの地域において果たされた役割、非常に迅速に対応された、また、対応すべきニーズをよく理解されて対応策を取られたことに敬意を表したいと思います。

 総理が、今、言われましたとおり、共同声明ということで、まず私どもは平和安全保障についてのアジェンダについて、また国連の改革について話し合いをいたしました。

 また、経済枠組みとして、日・加の経済的な提携関係の強化、改善についてこれをやろうということで了解いたしました。

 我々といたしましては、これを基盤としてつくり、そしてそれぞれの国の民間セクターが今まで以上に大きな役割を果たせるように協力していく。特に科学技術、ハイテクといったようなことで、相互協力が更に進められるような基盤づくりをしようということであります。

 また、京都議定書を更に推し進めようということでも合意いたしました。京都議定書は、まさにこの国で生まれたわけでありまして、気候変動は国際的なグローバルな問題であり、この解決というのは国際的なものしかあり得ないわけであります。

 また、小泉総理の方から観光を取り上げられました。私は、ここで日本にお祝い申し上げたいんですけれども、今年の2005年の万博の主催をされますことにお祝い申し上げたいと思います。カナダの産業大臣のエマーソン大臣が私に同行しておりますが、彼も観光の方も所轄しておりますので、是非行きたいと思います。

 また、私の方から小泉総理にカナダにおいでになるように御招聘いたしました。公式訪問と同時に、また観光客としても是非カナダにおいでいただきたいというふうにお招き申し上げました。

 具体的な問題を2つ取り上げました。これは私から取り上げた問題であります。特にカナダ側が持っている懸念であります。

 第1は狂牛病、BSEの問題でありまして、我々は本日合意したことといたしまして、この解決は科学ベースでなければならない。科学的な解決策をとるべきだと。その分野でカナダは大きな進歩を遂げていると。また、解決策というのは、あくまでも北米、米・加を平等に扱ったものでなければならない。すなわち、日本の対応策としては、アメリカとカナダを北米という形で扱ってもらわなければならない。

 同時に、本日合意いたしましたのは、この解決策を見るために、科学的な検討を加速しようということになりました。また、G20の首脳レベルの協議についても、私の方から取り上げました。そして、少なくとも、これは検討する価値があるということで合意ができまして、日・加双方で実務レベルで担当者を決めて、そのレベルで話し合うと。

 ただ、首脳たちが話しをするため、あるいはスピーチをやりっ放しでやるためだけの会合ではなく、何か具体的なトピックを選んで、何らかの結論が導き出せるような、そういった形の第1回の会合をすべきだというふうに考えたわけであります。

 また、総理のお許しを得まして、カナダのもう一つの声を使わせていただきます。

 私は、日本が非常に迅速に対応してくださったこと、津波に対する対策に深く感謝しているわけであります。我々の経済関係をもっと広くとらえて、基本的な分野における協力を強化するということであります。

 そして、国際的な、例えば京都議定書に関連しての温室効果に対すること。それから愛知博に言及もいたしました。そして、小泉総理には是非カナダに来ていただきたいということを御招待いたしました。

 そして、2つの案件についてお話ししたんでありますけれども、まず狂牛病に関してであります。BSEについてであります。このBSEの問題というのは北米に関する問題でありまして、日本は北米において畜産というのが重要な産業であって、科学の分野ということをかんがみながら、この狂牛病に対しても、いろんな研究をしなくてはならないということであります。

 それから、G20という考え方で、工業先進国も、そして新興工業国も一緒になっていろいろな問題を検討するということが必要だと考えたわけであります。

 以上です。

【質疑応答】

【質問】 小泉総理にお伺いします。

 日本とカナダの両国では、イラク戦争に対する対応が大きく違いました。30日には国民議会選挙が迫っております。イラクの民主化のために、選挙に対して両国がどのようにして協力していくか。あるいは正統な政府の樹立のために、今後、選挙以降どのように協力していくか。もし、首脳会談の中でお話し合いがありましたら御紹介ください。

【小泉総理】 イラクの安定した民主的な政権づくり、これはそれぞれの国にふさわしい支援をしていかなければならないと。日本とカナダでは、協力する分野が違うと思いますが、協力するということでは一致していると思います。どのような協力をするかは、それぞれの国にふさわしい協力をすることが大事でありまして、日本としては30日に行われる議会選挙を成功させるように、今までのような支援・協力を継続していきたいと思っております。

 カナダにおきましても、国際社会の中で、イラクのみならず、アフガニスタンにおいても積極的な役割を果たしております。カナダとして独自にイラクの安定した民主的政権づくりに協力していくことでありますので、今後とも日本とカナダはイラクの復興についてもいろいろ協力する分野が出てくるんではないかと思っております。

【質問】 両方の総理にお聞きします。マーティン首相、英仏両方でお答えいただいて結構です。

 まず、小泉総理に対してですけれども、総理、カナダの牛肉が安全だということをあなたに納得していただくには、カナダは何をしたらよろしいんでしょうか。そして、今日のカナダの牛のテストの仕方、また資料の使い方について、現在のカナダの状況をどのようにお考えなんでしょうか。

【小泉総理】 BSEの問題については、マーティン首相も強い関心を抱いているということがよくわかりました。

 そこで、日本としては、食品の安心・安全、これは非常に多くの国民が関心を持っておりますし、まず安心・安全な牛肉を食べたいという気持ちは多くの国の国民と変わりないと思っております。日本国民もできるだけ早く安全な牛肉を食したいと思っておりますので、この点につきましては、科学的な調査が必要である。科学的知見に基づいて、できるだけ早期に貿易を再開したいと。

 そういう点につきまして、どういう調査が必要かという点についても、専門家の間でより早期に結論が出るように協議を加速させようということで一致したわけでありますので、この点については、今後精力的に協議をして貿易の早期再開に踏み切るような環境が早く整備されるようにお互いに努力していかなければならないと思っております。

 日本の牛の生産なり、飼育については、日本とカナダにおいては若干違いがあります。そういう点につきましても、お互い専門家同士でよく協議しながら安全な牛肉を早く食することができるような、しっかりとした協議を進めていきたいと思っております。

【マーティン首相】 おわかりいただけるかと思いますが、私どもの会合の時間のかなりの部分を、このテーマが占めたわけでございます。そして、基本的な点で双方とも合意したのは、こたえは、科学が基盤でなければならないということです。カナダは大きな確信を持っております。すなわち、カナダの科学の質が高いということは確信を持っているわけです。カナダ産牛肉の安全についても確信を持っております。

 したがって、カナダ側は日本に、日・加間の科学的な調査協力プロセスを加速してもらいたいという要請をしました。それによって、市場が開放され、輸入がまた再開されるように、と同時に再開する場合には、北米を平等に扱った形での開放にしていただきたいということを申し上げました。この二国間にとりまして、これは特に優先順位の高い問題になっております。

 非常にこの問題についての討議は満足いくべきものでありました。カナダにとって、非常に優先順位の高い問題でありまして、勿論これは科学的な調査が絶対必要であって、そしてそれを迅速にやらなければいけないということ、科学、そして我々の産業の力に我々は信頼を持っておりますので、このような調査をするというプロセスであります。

 先ほどの質問にちょっと戻らせていただきたいんですが、私の方で申し上げたいことはイラクの状況であります。幾つか問題はありますが、まず第一に申し上げたいのは、国際的な役割ということで、日本が現在果たされている役割、非常に広範な役割を国際的に果たされているわけで、私はこれを賞賛したいと思います。

 それから、イラクの選挙に関しまして、御承知のとおり、ここ2週間ほど、オタワにおきましてカナダの主催で様々な非常に広範囲な国から選挙関係の団体を招聘いたしまして、そしてイラクの選挙実現についての話し合いをいたしました。モニターですとか、監督ですとか、オブザーバーの問題とか、そういったことについて話し合いを行ったわけです。したがって、これに関しましては、公平・公正な選挙がイラクで行われるということ。そして、これがイラクの回復の主要的なものになるように、協力をするやり方は各国それぞれ違ったやり方で協力しているということが言えると思います。

【質問】 先ほど総理は、今年国連改革の気運が高まっているとおっしゃいましたが、首脳会談で国連改革、安保理拡大について、どのようなやりとりがあったか教えていただければと思います。

 そして、常任理事国入りについては、両国の間で少し考え方の違いがあるということでしたが、具体的にどういうことなのか教えていただければと思います。

【小泉総理】 国連改革についても話し合いましたが、日本としてはこれまでにない国連改革の気運、これをやはりとらえていきたいと。日本としては、常任理事国・非常任理事国双方の拡大を目指していると。こういう点については、若干カナダ側と意見を異にしております。しかしながら、国連改革の必要性、これからますます国連の役割というのは多岐にわたってくると思います。そういう点について機能強化が必要でありますが、同時に無駄を省く、行財政改革も必要だと、こういう点については、私はカナダのマーティン首相と認識を共有していると思っております。

【マーティン首相】 まさにそのとおりで、カナダが国連改革のみではなく、国連改革のニーズがあるということだけではなくて、今その気運が非常に盛り上がってきているということ、この改革の機会を見失ってはならないということ、これをカナダも信じているということ、これはまさに言えるわけでありまして、また行財政改革が必要であるということもカナダは完全に賛成でございます。

 意見が少々違っている点におきましては、安保理について、特に常任理事国の数につきまして違いがあるのは事実でございます。カナダ側は、選出ベースの準常任理事国という考え方を持っているわけでありますが、それぐらいであります。

 私どもは、全く国連の改革については同感であります。そして、この安保理の改革についても一つの気運があるということで、この気運をうまく生かすべきだと。行政的な面で、また財政的な問題においても改革が必要であって、そして意見の違いがあるとすれば、安保理の構成メンバーについてであります。この安保理のメンバーの構成をどのようにするか、常任理事国・非常任理事国、それをどのように対応するかということで意見の違いがあります。

【質問】 2人の首相に御質問したいんですけれども、カナダにおいては、京都議定書というのが非現実的であるということがたびたび言われております。本当にこの京都議定書は非現実的なんでしょうか。そして、カナダにおいては特に公害の原因となっている産業に対しても、いろんな特別な措置を取るというようなことでありますが、これも英語とフランス語の両方でお答えいただければ幸いです。

【マーティン首相】 主催国の利点というのは、自分の方に選択権があるということでいいですね。

 まず、絶対必要なのは国際的な合意を生むということであります。この温室効果ガスについて、どのように対応するか、ターゲットとなっている目標が幾つかあるわけであります。第1段階、第2段階という形でプロセスがなされるわけでありますが、そして各国がこのプロセスを尊重し、まず最初のターゲットに達するということです。この1つのメカニズムをまずクリアーして、そして次のステップに移っていく。多くの国々がまだそのファーストステップにも達せられないという状況であります。

 京都議定書の合意というのは、こういったいろいろな各国の間の違いをうまく調整するということであります。お互いに京都議定書の内容について合意するということであります。公害を特にひどく起こす産業に対しどのように対応するか、これはやはり相対的な、グローバルな計画が必要でありましょう。

 京都議定書というのは、まさに優先順位の高いものであると。多くの国々で目標が設置されているけれども、なかなかそこに到達してないのは事実であります。京都議定書には、1つのメカニズムがありまして、そして第2段階という形でこの目標に到達することも可能になっておりますけれども、しかし、それはそれぞれの国々がこの京都議定書で規定されているメカニズムの下で達成すべきであります。

 また、大型汚染国に関しましては、これはみんながということではなくて、ごく一部の汚染国ということでありますけれども、こういったところのプランはあるかと思いますが、いずれにしても、私ども完全なプランが必要かと思います。

【小泉総理】 京都議定書のメカニズム、これを推進していかなければなりませんが、困難ではありますが、非現実的だとは私は思っておりません。日本としても、この環境保護と経済発展を両立させると。これが我が小泉内閣でも最重要課題であります。そういう点から京都議定書を推進していかなければならない。

 そして、私は昨年のシーアイランドサミットでも提唱いたしましたけれども、廃棄物をできるだけ削減していこうというリデュース、今まで捨てられていたものを再資源化していく、再使用するというリユース、そして循環型社会にするリサイクル、3Rイニシアチブ、これを提唱いたしました。これを実現するためには、そのような技術と言いますか、環境保護と経済発展を両立させる鍵は科学技術でありますので、そのような環境を保護するような新しい、今まで捨てられていたものを再使用できるような、そういう環境に優しい科学技術は何かということに重点を置いて日本も取り組んでおりますので、この点につきましては、カナダとも日本は環境を重視した政策において、これからも国際社会の場で大いに協力できると私は思っております。

【質問】 マーティン首相、ということは、エフォド大臣が要求しているような措置は取らないということですか。

【マーティン首相】 特に公害の原因を多くつくる企業に対し、あるいは産業に対しまして、我々は今いろいろな計画を立てているところであります。小泉総理と全く同感です。技術、科学の力を導入することによって、このような環境問題に十分に、我々はこの問題を克服することができると考えるのです。我々はその強い決意であります。京都議定書は重要である。そして国際社会がこの京都議定書のために一緒に努力をすべきだという認識です。

 要するに、申し上げたいのは、我々カナダは京都議定書を批准しております。来月半ばにこれが発効いたします。すべての国が肩入れをして、そして目標達成ができるようにすべきだと、我々は非常に重要な国際協定であるという位置づけをしているわけであります。