データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・中米首脳ワーキング・ランチにおける橋本内閣総理大臣の冒頭挨拶

[場所] 
[年月日] 1996年8月28日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),248−250頁.
[備考] 
[全文]

 まずはじめに、先月のハリケーン・シーザー及び熱帯低気圧ダグラスにより甚大な被害を受けられた関係各国、並びに犠牲者のご家族、被害者の方々に対し、心からお見舞いを申し上げます。我が国の緊急災害援助が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。

 本日は、フィゲーレス大統領閣下のお招きを受けて、こうして私個人にとりましても、また、日本の総理大臣としましてもはじめて中米を訪れ、皆様と一堂に会する機会を与えられたことを幸せに思います。フィゲーレス大統領に東京でお会いしたのはついこの間のことでありますが、以前より中米の地を訪れてみたいと念願しておりましただけに、本日のこの会合を心待ちにしておりました。実は、かつて私が勤務しておりました紡績会社は、四十年以上前に邦人企業としてエル・サルヴァドルに第一号の投資をしたこともあり、感慨もひとしおであります。

 また、中米各国首脳には、万障繰り合わせてご参集いただいたことに深く感謝いたします。今回の意見交換が、中米と日本との協力関係の拡大と政治対話の緊密化につながることを希望いたします。

 私は、今回の中南米諸国訪問を、二十一世紀に向けて日本と中南米が幅広い分野にわたる新時代のパートナーシップを構築していくための機会にしたいと考え、この度、メキシコ、チリ、ブラジル、ペルーを訪問してまいりましたが、今回の訪問を通じて、我が国は中南米諸国との協力関係を強化していくべきであるとの思いを一段と強めることができた次第であります。

 中米地域は、八○年代の中米紛争、累積債務問題を克服し、和平、民主化の定着及ぴ市場経済化に向けての経済改革に着実な成果をあげてきており、共通の価値観を有する我が国と中米諸国は、今後、これまでの伝統的な友好関係に加え、さまざまな関係において連帯、協力を拡大してゆけるものと考えます。

 先月、中米各国より外務大臣の訪日を得て、第二回日本・中米「対話と協力」フォーラムを開催いたしました。こうした政策対話が双方の熱意をもって開催されていることは、まさに、近年、日本と中米が協力関係を拡充し、関係を着実に緊密化してきていることを反映するものといえます。

 我が国は、中米地域が平和な地域となり、長期的に安定し、中米諸国に民主体制と市場経済が定着することを希望しております。中米諸国側におかれましても、同地域が「持続的発展のための中米同盟」の目的である平和、自由、民主主義、発展の地域となるよう、また、司法制度改革、人権状況の改善等にも留意されつつ、従来にも増して一層努力をなされるようお願いする次第であります。

 これらの観点から我が国は、グアテマラにおける和平交渉が一日も早く終結し、中米全体に真の恒久的な平和が訪れることを強く希望しております。また、エル・サルヴアドル及びニカラグァにおける国家再建が、広範な国際支援を得て多大の成果を生んでいることを嬉しく思いますとともに、十月に予定されているニカラグァの大統領選挙が公正かつ民主的に実施されることは、ニカラグアのみならず中米全体の民主化の進展にとり極めて重要なものであると確信しております。

 中米紛争の残した爪跡として中米地域の地雷除去の問題は、今後の中米の発展にも深刻な影響を与えており、我が国は、米州機構(OAS)のニカラグァ、ホンデュラスにおける除去計画に出来る限りの支援をしてきているところであります。

 経済協力面では、我が国は、中米諸国における和平達成、民主化、経済改革に対する努力を高く評価し、中米地域が「躍進の九〇年代」を迎えられるよう我が国として引き続き支援してまいります。さらに、先般採択されたDAC新開発戦略の策定において、我が国は主導的な役割を果たしましたが、今後は右戦略の実施のため、途上国との共同作業を進めて行くことが重要であると考えます。

 中米諸国が平和と民主主義の証として優先的に開発を進めようとされている観光面でも、我が国としていろいろな形でご協力をしてまいる所存でありますし、更に我が国は、昨年から協力を進めているグァテマラの女子初等教育分野に係る協力に加え、今後エル・サルヴァドルの民主化支援についても、新分野として中米との関係が深い米国と協力するための協議を進めてまいる所存です。

 最後になりますが、フィゲーレス大統領の心温まるおもてなしと、本日の会議実現のためにお骨折り、ご尽力いただいたことに対し、心よりお礼申し上げます。

 中米各国大統領及び代表の方々の一層のご活躍と中米の更なる発展と繁栄を祈念し、また、日・中米友好協力関係の一層の進展を祈念して私からのご挨拶といたします。